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第八話 救出

 口をあんぐりと開けて呆然とするローガンたちに構わず、優弥は休むことなく岩を無限クローゼットに放り込み続けた。それから三十分ほど経過しただろうか。不意に砂まみれの髪の毛が姿を現したのである。


 うつ伏せなので顔は見えない。


「おい! 生きてるか!?」

「たす…………け…………」


 彼の声に頭がピクリと動き、弱々しいが確かに助けを求める声を発したのである。


「ローガン! いたぞ!」

「「「「おぉぉぉっ!!」」」」


 それまで目の前の信じられない光景に固まっていた男たちが、我に返って駆け寄ってくる。


「もう大丈夫だ。今すぐ助けてやるからな!」

「たす…………」


「皆、慎重にいこう。下手に岩をどかすと崩れる可能性があるから、俺が少しずつ持ち上げる。引っ張り出せそうなら引っ張り出してくれ」


「分かった!」

「任せろ!」


 それぞれの顔を見合わせて、全員が力強く頷く。そこにはそれまでの異様な光景を訝しむよりも、何としてもこの女性を助けるのだという強い信念が宿っていた。


「よし、上げるぞ!」

「「「「おおっ!」」」」


 優弥が女性の上の岩を慎重に持ち上げると、出来た隙間にローガンとイーサンが体を滑り込ませ、両側から女性の脇に腕を回す。


「無理するなよ、ゆっくりだ」

「ユウヤは大丈夫なんだな?」

「問題ない」


「イーサン、引っ張るぞ!」

「おう!」


 ところが、二人が引っ張り出そうとした途端に女性が悲鳴を上げた。


「いっ……痛い……痛い痛い……!」

「待て、ストップだ、ストップ!」


「どこが痛い? 教えてくれ!」

「あ……足……足が痛い……です……」

「挟まれてるのかも知れないな」


 だとすると今持ち上げている岩をどかすしかないが、その岩には上からさらに圧力がかかっているのが感じられていた。引き抜きでもしたら、どれだけの岩や瓦礫が降ってくるのか想像もつかない。


 当然、無限クローゼットに放り込むのもダメだ。それこそ上に乗ってる岩が崩れ落ちてくるからである。


「ローガン、コイツの上には別の岩がありそうなんだ。だから背負いながら奥に進もうと思う」


「そんなこと出来るのか?」

「俺の力、見ただろ?」

「あ、ああ……」


 四人は互いに顔を見合わせると、微妙な表情を浮かべていた。


「そんな顔しないでくれ」

「ユウヤ、アンタは一体何者なんだ?」


「これが終わったら話すよ。ただ信じてほしい。俺は人に危害を加えるつもりはない」

「それは信じられるぜ!」


 言ったのはワイアットだ。


「だってそうだろ! 今だって鉱夫たちを助けようと一番がんばってるのはユウヤじゃねえか!」

「そうだな、信じよう!」

「「「おう!」」」


「よし。それじゃ行くぞ。俺が合図したら彼女の足を確認してくれ」

「分かった!」


 再び慎重に、バランスを崩さないように岩を持ち上げ、女性に覆いかぶさるような体勢で腕から肩を入れた。彼にとってこの重さはどうということはなかったが、下にいる彼女には命取りとなる。極力垂直に力を込めていくと突然ローガンが叫んだ。


「ユウヤ! あれだ! あれをどかせば引き抜けそうだ!」


 指さされた先を見ると、厚さは分からないが長辺が一メートルほどある岩が左足の膝から下に乗っているようだ。彼女の足が潰されていないことを祈るしかない。しかし彼の手はそこまで届きそうもなかった。


「あれでは俺の手は届かない。ローガン、二人がかりで持ち上げられないか?」

「丸太を持ってきてこっちから差し込むのはダメか?」


「それだと見えていない足首から下を潰してしまうかも知れないだろ」

「確かにそうだな」


「だから手で持ち上げるしかないんだ」

「よし、やってやるか! イーサン、いくぞ!」

「分かった!」


「ダニエルとワイアットはあれが持ち上がったら彼女を引き出してくれ」

「任された!」

「よし、せーのっ!」


 一度目は失敗。岩はビクともしなかった。


「どうしたローガン、イーサン! お前らはそんなモンか!」

「クソッたれ! もう一回だ!」

「おう!」


「せーのっ! うりゃぁぁぁぁ!」

「ダニエル、ワイアット、今だっ!」


 持ち上がったのはほんのわずかだった。それでも彼女を引き抜くには十分だったようだ。後は素早く安全な場所まで避難すればいい。


 彼は四人が十分に下がったのを見届けてから、背負っていた岩を、その上に乗っていると思われる岩ごと無限クローゼットに放り込んだ。思った通り、次々と大小の岩が降ってくる。


 彼はそれらを自身の体を通り道にして、無限クローゼットへと導いた。


「ユウヤぁ!」

「大丈夫だ。問題ない」


 崩落が落ち着いてから彼も助け出された女性の許に駆け寄る。


「おい、しっかりしろ!」

「わた……し……」

「よかった、生きてるぞ!」


 女性は若い少女だった。挟まれていた左足はひどく腫れ上がっていたが、潰されるまでには至らなかったようだ。


 彼はそれを見届けると無限クローゼットから水樽を取り出した。


「これで水を飲ませてやってくれないか?」

「分かった。ユウヤはどうするんだ?」

「救助を続ける。他にも生存者がいるかも知れないからな」


 そう言って坑道の奥に戻った彼だったが、崩落した全ての岩が無限クローゼットに飲み込まれた後、残ったのは無残な姿に変わり果てた十数体の遺体のみだった。

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