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第十五話 軍港フレミントンへ

「マジか……ま、いいや。これで分かっただろ。その鱗が俺のだって」

「ま、待て。話し合おうではないか」

「話し合う? 何をだ?」


「竜殺し殿、貴殿は我が国に仕えよ。さすれば褒美は思いのままだぞ。儂が陛下に奏上しようではないか」


(なんか前にもこんなやり取りあったよな)


「モノトリスに家族があるなら共に受け入れることも約束するぞ」

「おっさん、寝言は寝て言えって言葉があるのを知ってるか?」

「なん……だと?」


「俺は別にあの国がどうなろうと知ったこっちゃないが、汚い奇襲をかけてから宣戦布告するような恥知らずの国になんか仕えようとは思わないんでね」

「いや、しかしそれは……」


「そもそも俺は誰にも仕える気なんかねえんだよ。自分にとって大切なものは守る。どうでもいいものは捨て置く。だがなあ、俺に刃を向けた者、俺から何かを奪った者は容赦なく叩き潰す!」


 次の瞬間、提督を護っていた兵士たちの剣が砕け散った。


「魔王、アイツ提督ってことは今回の作戦のトップなんだよな?」

「そうじゃろうな」


「なら取っ捕まえてやりゃあ、いい捕虜になるんじゃないか?」


「うむ。彼奴(あやつ)を拘束するのじゃ」

「「「はっ!」」」


 剣を失った兵士がそれでも抵抗しようとしたので、エリヤが首根っこを掴んで全員をポイッとゴミを捨てるように放り投げていた。


「ぐえっ!」

「ぎゃっ!」

「うがっ!」


「テイトクさーん、オトナしくしててねー」


 生き残っていた敵国の兵士を全て縛り上げ、ドラゴンの鱗と骨を無限クローゼットに収納する。これで優弥の最低限の目的は達せられた。


「なあ、魔王」

「なんじゃ?」


「軍港には転送ゲートで行けるんだよな?」

「うむ。問題ないぞ」


「てことは、アイツらが送った使者よりも早く着けるってことだ」

「そうじゃ」


「軍港、完全に破壊しちまってもいいか?」

「出来るなら構わんぞ」


「ワイバーンも飛び立つ前なら全滅させられるだろう」

「ほう」


「それをあの提督にも見せてやろうぜ」

「ふむ。何か意味があるのか?」


「大帝国に俺を怒らせたらどうなるか、思い知らせてやれる」


「なるほど。それが可能なら大いに意味がありそうじゃの」

「じゃさっさと行くか。提督を捕まえておくのに兵士を二人連れていこう」


 万が一に備えてエリヤはここに残しておく。どうやら城の食糧庫は地下にあるため無事だったらしく、その間に連れてきた住民にも食事を与えることになった。


「提督さんよ、本隊ってのはどのくらいで着く予定なんだ?」

「ふん! 言うと思うのか?」

「だろうな」


 そう言って優弥は提督の背後に回る。そして次の瞬間、大きくはなかったが骨が折れるような嫌な音が聞こえた。


「ぐっ!」

「もう一度聞くぞ。本隊はどのくらいで着く?」

「ふん! これしきのことで……ふぐっ!」


「ふむ。あと八回、この痛みに耐えるか? それでもいいぜ。答えろ」

「若僧が! 言うと……ぎっ!」


「あー、そうか。指はまだあと七本あるもんな。それで終わりだと思ってるんだろ」

「何本折ろうとと無駄だ。さっさと殺せ!」


 優弥は提督の指を一本一本逆に曲げて骨をへし折っていたのである。


「簡単に殺すわけねえだろ。アンタには二度の絶望を味わってもらうつもりなんだからな」

「二度の絶望だと?」


「ああ、これはまず一度目の絶望だ。魔王、提督の折れた指を治してやってくれ」

「うむ」

「なっ! まさか……!?」


「答えるまでずっと続けるってことだ。まさか提督ともあろう者が、拷問を恐れて舌を噛むなんてことはしねえよな」

「貴様は鬼か!?」


「人聞きの悪いことを言ってんじゃねえよ。お前らが俺の物を盗もうとしたから悪いんだろ。それに俺の大事な人を泣かせたしな」

「大事な人? 誰のことだ?」


「アンタが知る必要はないさ。とにかく大帝国は俺の逆鱗に触れたってことだ。言っておくがお前が生きて国に帰るためには、まず俺の質問に答えなければならない」

「ふん! 誰が答えるものか……ひぎゃあっ!」


 今度は骨を折るのではなく、人差し指を捻り千切った。それを魔王が魔法で元通りに治し、同じことを繰り返す。そんなことが五回続いたところで、ついに提督が音を上げた。


「分かった、言う! 言うからもう止めてくれ!」


「最初から素直にそうしてれば、こんなに痛い思いをせずに済んだのに」

「ユウヤ殿は容赦がないのう」


「提督だろうが何だろうが、俺にとってはただの盗人だからな。で、いつなんだ? 嘘を言っても構わんがその時はアンタの国がどうなるか考えて答えろよ。俺のスタツスは見ただろ?」


「ああ。海流の関係で多少前後はするだろうが、早ければ二日後、遅くとも三日後には到着するだろう」

「意外にゆっくりなんだな」


「この事態は想定外だ。本隊は先遣隊がこの国をほぼ制圧した前提でやってくる占領軍だからな」

「ん? 普通なら提督のアンタは本隊にいるんじゃないのか?」


「かの魔法国への侵攻だぞ。前線で指揮を執らずして何が提督か!」


 ただ、本当の前線にいるのはさすがに珍しいことだった。今回はジャイルズがドラゴンの鱗の発見を報告してきたからに他ならない。むろん、提督の口からそれが語られることはなかったが。


「ま、いっか。それじゃそろそろ軍港に行こうぜ」

「うむ。お前たち、提督をしっかり押さえておけよ」

「はっ! 命に代えましても!」


「提督も妙な気は起こすなよ。お前なんかいつでも殺せるんだからな」

「竜殺しに言われては致し方なかろう」


「エリヤ、後を頼んだ」

「マカせとくネ!」


 軽く手を挙げると優弥、魔王、提督、それに兵士二人の五人は、転送ゲートの中に消えたのだった。

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