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第一話 魔法国アルタミラ

 時は遡り、本格的な冬が訪れる前の十一月のある日の、エシュランド島にあるアルタミラ魔法国。その中心に位置する魔王城エブーラは大宴会の真っ最中だった。


「マオウさま、サイコーハッピー!」

「勇者殿、サイコーハッピーじゃ!」


 魔王ティベリア・アルタミラは、五十人の騎士と共にやってきた勇者エリヤ・スミスを歓迎し、城に迎え入れたのである。日本のアニメ気触(かぶ)れの勇者は、まるで幼女のような見た目の魔王に大興奮で、口癖のサイコーハッピーを何度も繰り返していた。


 それをティベリアが面白がって真似ている、といった状況である。これにはさすがの騎士たちも呆気に取られたが、美味い料理と美味い酒を振る舞われ、いつの間にか和やかなムードに包まれていた。


「勇者殿は(わらわ)を討伐しに参られたのか?」


「そうですねー、ミーのヤクメはマオウさまのトウバツでーす!」

「わはははっ! ならば戦うのかえ?」


「ノンノン、タタカうヒツヨウなんてナイネー。マオウさまとミー、ナカヨしになったから!」

「そうかそうか、妾と勇者殿は仲良しか」


「ミー、マオウさまをダっこしたいんだけど……」


 そう言って彼が目を向けたのは、十歳未満にしか見えない魔王には似つかわしくない、巨大な山羊の角とコウモリの翼だった。


「これか? こうすればよいか?」

「Oh! ミえなくなったね! オーキードーキー!」


 エリヤが魔王を抱き上げると、彼女は手に持っていたグラスを高く掲げる。


「はるばるゼノアスの大地より参られたモノトリス王国の騎士たちよ! 今宵は宴ぞ! 存分に呑み、存分に食されるがよい! 我らは仲良しじゃ!」

「「「「おおーっ!!」」」」


「ところでマオウさま、トウバツってなに?」

「ん? 勇者殿は討伐の意味を知らんのか?」


「ミーはオウサマからマオウさまとドウメイしてくるようにイわれたね。ドウメイとトウバツってチガった?」


「なんじゃ、お主はアホウじゃったか」

「ミー、ガッコウにイけなかったからね」


「ガッコウが何かは知らんが、アホウじゃなくなるところに行けなかったんじゃな」

「そうでーす! おカネなかったからねー」


「苦労人じゃったか。アホウなどと言ってすまなかったの」

「いいよ。アニメだけはおカネあるヒトのイエのマドノゾいてミてたから」


 一部に難解な単語があったが、ティベリアは気にすることなく勇者との会話を楽しんでいた。


「それにしても同盟か。どうしたもんかのう」

「ナニかモンダイでも?」


「先日レイブンクロー大帝国の使者とかいう者が参っての。あちらからも同盟を持ちかけられたのじゃ」


「Oh! No! それだとミー、オソかったことになるよね。オウサマになんてイったらいいの?」

「いや、あちらとの同盟は断った。我が民にも劣る魔力だったのでな」

「マオウさまはマリョクユウセン?」


「そうじゃな。勇者殿の魔力はそこそこじゃが、同盟か。ううむ……」


「ミーのマリョクはタりない? ならミー、もっともっとシュギョウしてツヨくなるよ」

「うむ、では勇者殿の国を少し見てみるかのう」


 言うとティベリアは目を閉じた。それから間もなくしてカッと目を見開く。


「な、なんじゃ、あの圧倒的な力は……!」

「マオウさま、どうしたの?」


「勇者殿は異なる世界から召喚されたと言っておったな」

「そうだよー」


「その時にもう一人、召喚された者がおったじゃろ」

「ユウヤのことだねー」

「ユウヤと申すのか」


「カレはニホンジン、ミーはアメリカジンね」

「それは家名か?」

「ノンノン、ウまれたクニのことね」


「ふむ。そのニホンジンとかいう国は恐ろしく強いようじゃな」

「ニホンジンすごいね! アニメサイコーだし」


「アニメサイコーが何かは分からんが、これほどの強者がいる国と敵対するのは愚かじゃの。よかろう。勇者殿の国と同盟を結ぼうではないか。ただしそのニホンジンから来た者に会わせることが条件じゃ」


「ホント!? アわせればいいのね。マオウサマ、ありがとう! サイコーハッピーね!」

「うむ。サイコーハッピーじゃ!」


 色々と意味が誤解されているようだが、会話が噛み合っているのだから問題はないだろう。


 同盟の締結には国のトップ同士が調印しなければならないということで、ティベリアがモノトリス王国に赴くこととなった。だが、彼女の目的は同盟など二の次、その目に見えた強者に直接会うことだったのである。


 それとは知らない勇者についてきた騎士たちは、同盟締結で得られる名誉を思ってテンションが跳ね上がった。むろんその一番の功労者はエリヤだが、帰国すれば英雄の従者として王国中から讃えられるのだ。


 独身者は結婚相手も選り取り見取りだろう。すでに妻がいる者も甲斐性さえあれば二人目、三人目を娶ることも容易い。こちらから探さなくても向こうから寄ってくるからだ。


 そしてこれより一週間の後、魔王ティベリア・アルタミラとその護衛を伴った勇者一行は、魔法国アルタミラを旅立つのだった。

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