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第九話 遠征

 チョコ○イの押し問答のお陰で本題に入るまでにずい分かかったが、なんとかサイラス工房への発注は終えた。とは言え最低でもベッドが届かないことには拠点での生活がスタート出来ない。ひとまず転送ゲートは設置したが、しばらくは宿屋暮らしが続きそうだ。


「冒険者ギルドに行って依頼でも見てみるか」

「そうじゃな」

「アリアも行く!」

「私にもなにか出来ることがあればいいのですが」


 ユーティアロは四人の家族パーティーだ。たとえ力不足が明らかだったとしてもアリアとロラーナを置いていったりはしない。四人はカーキ色のシャツに黒いズボンという、お揃いのユニフォームに着替えて冒険者ギルド北支部に向かった。


「なんの騒ぎだ?」


 優弥はモンクトン商会の商隊護衛で同行した冒険者パーティー(げん)(てい)(すい)(げい)のリーダー、カイデンを見つけて尋ねた。受付カウンターに十人以上の冒険者が群がっていたからである。その中にはリッキーたち三人や女性ばかり五人のパーティー、アマゾネスの姿もあった。


「ユウヤか。久しぶりだな」

「ああ。北支部(こっち)にいたんだ」

「依頼の関係でな」

「それでこれは?」


「ファラン村が野盗に襲われたんだ。村人の救出と野盗の討伐依頼を受注するために集まっているのさ」

「コノハナクからの護衛で休憩に寄ったあの村が?」




 それはコノハナクを出て七日目のこと。


「この先にファランという村がある。コノハナクに向かう往路でも寄ったんだが飯屋のメシが美味くてな。帰りも寄ると伝えてあるから楽しみにしててくれ。そこで一休みだ」


 カイデンによるとファラン村の住人は主に農作物を作って自給自足に近い生活を送っていると言う。モンクトン商会は彼らが作る工芸品や作物の余剰品を買い取っているとのことだった。


 魚介類を仕入れるために港町へ向かう際に、モンクトンの商隊は往路でも復路でも決まって休憩に立ち寄るそうだ。あらかじめ訪問人数を知らせて飯屋に食事の用意を頼んでおく。その時に大まかな復路の日程も伝えるので、行けば温かくて美味い料理が食べられるというわけだ。


 そしてカイデンの言葉通り、飯屋の料理は本当に美味かった。老夫婦でやっているが二人とも気さくで、商隊の立ち寄りを心から感謝しているのが伝わってきた。自給自足がメインの村では、数少ない現金収入が得られる機会だからだろう。




「村人は無事なのか?」


「行商人は殺されたようだ。しかしそれ以上の詳細は分からないらしい」

「分からない?」


「ギルド本部に救援の依頼をしてきたのは隣のカダフ村の住人なんだが、ファラン村から助けを求めてきたのは六歳の子供なんだそうだ」

「六歳の子供が!?」


 二つの村は大人の足で半日の距離にある。しかし小さな子供ならもっとかかるだろう。それはともかく子供の言うことに信憑性はあるのだろうか。


「大丈夫だ。子供の名前はコナンというんだが、大人顔負けに頭が回る子だからな。俺も何度か話をして知ってるから間違いない。そんなウソをつく子じゃないさ」

「だとすると早く行った方がいいんじゃないか?」


「本部からすでに先遣隊が向かってる。そのまま討伐出来そうなら討伐してくるだろうし、野盗の人数が多くて難しそうなら情報を持って帰ってくるはずだ」

「ずい分悠長なことをやってるんだな」


「俺たち冒険者は死んだら終わりだ。いくら人命がかかっているとは言っても自分の命が第一優先ってことだよ」


 カイデンの言っていることは正しい。冒険者は慈善事業ではないからだ。それなら王国が救出に向かうべきなのかも知れないが、彼らの場合は人選やら編成やらに時間がかかる。


 また、一人の騎士や兵士を育てるのに莫大な経費もかかっているのだ。野盗ごときの討伐で犠牲を出したら損害は冒険者や村人の比ではない。故にこのような場合は王国は動かないのが慣例とのことだった。その代わりに王国からは討伐報酬がたんまり支払われるようだ。


 あの飯屋の夫婦は無事だろうか、優弥はそんなことを考えて心配せずにはいられない。


「お、おいユウヤ、どこに行くんだ?」


 ギルドを出ていこうとするユウヤたちにカイデンが声をかける。


「カウンターがあれじゃ受注どころではないからな。帰るんだよ」

「野盗の討伐依頼は受けないのか?」


「俺たちはまだFランクだぞ。依頼を受ける資格はないだろ」

「パーティーランクならEになるだろ。Cランク以上の同行があれば問題ないぞ」


「メンバー全員がFランクでもいいのか?」

「すまん、ウソだ。しかし優弥とそっちの奥さんの二人ならジャイアントエテコを倒せるんだろ? 何なら俺が掛け合ってやるぞ」


「バカ言うな。俺とティベリアの二人なら何とかなるかも知れないがアリアとロラーナには無理だし、二人を危険にさらすつもりはない」

「留守番させればいいじゃないか」


「悪いが俺たちユーティアロは家族パーティーだから誰かを置いてけぼりにはしないと決めてるんだ」


「そうか。確かに命あっての冒険者だからな。無事の救出を祈っていてくれ」

「分かった。カイデンも気をつけてな」


 冒険者ギルドを後にしたところでティベリアがニヤニヤしながら優弥の顔を覗き込む。


「旦那様、本当に帰るのか?」


「まさか。手を出すかどうかは先遣隊次第だがあの飯屋の気のいい老夫婦が心配だ。助けに行くに決まってるだろ」

「じゃろうな」


「アリアとロラーナは敵対結界で護るから怖がらなくてもいいぞ」

「敵対結界、ですか?」

「そうか、ロラーナは知らないんだったな」


 優弥は彼女に悪意のある者や飛んできた矢などを完全に弾き、それ以外は通すのが敵対結界だと説明した。ついでに追尾投擲で何かを投げる時には爆音が轟くので、指示に従ってしっかりと耳を塞ぐようにと付け加える。


「分かりました」


「賊が(さら)おうとしても敵対結界があれば触れることすら出来ないから心配しなくていいが、なるべく俺かティベリアから離れるなよ」

「はい」


 徒歩で向かってもよかったが、運良く客待ちしている辻馬車(日本のタクシーのようなもの)が見つかったのでそれをチャーターした。まずは目的地としてカダフ村を指定すると片道三日から四日とのことで、往復料金の三十万イェンを支払う。


 これはもし復路でチャーターしなくても馬車が王都に帰るために必要な経費が加算された額だ。ただし帰るまでに一日以上待たせる場合は別途待機料金がかかる。優弥は転送ゲートを使って拠点に帰るつもりだったので、自分たちを降ろしたらそのまま王都に戻っていいと伝えた。


 金を払えば村が馬車を出してくれる場合もあるし、そもそも貴族や商人でもない限り基本的に旅は徒歩なので、辻馬車の御者は疑問にも思わない。


 突然の遠征となったが、生活に必要な物は十分な量が無限クローゼットの中に入っているし野営セットも揃っている。こうしてユーティアロの四人は馬車に乗り込むのだった。

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