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第八話 夜盗のアジトへ

「条件、でございますか?」

「ああ」


 言うと優弥は背もたれに背を預け、足を組んでキムに微かな笑みを向けた。


「夜盗共は無力化する。始末はそっちでつけてくれ。ただし」

「ただし?」


「万が一ソフィアとポーラが捕らえられていて、何かしらの被害を受けていたら皆殺しにする。その時は死体の処理を任せたい」


「かしこまりました。その程度、お安いご用でございますよ」

「金もいらない」


「まさか、報酬は不要と仰るのですか?」

「金を払えば仕事を頼める、とは思われたくないんでね」

「なるほど……」


「それにな、アンタも察したように、ソフィアとポーラは夜盗に攫われた可能性があるんだ。だからヤツらの退治は俺にも大義があるというわけさ」

「左様で。理由は承知致しました」


 だからと言って大義があっても必ずしも引き受けるとは限らない、と彼は付け加えた。爵位や領地、長女の嫁入りの提案もはね除けた。


 今回は情報提供や事後処理があるから依頼として対応するが、自分が必要と考えれば依頼などなくても動く、ということである。


「仕事は今回限り。お宅と仲良くするつもりはないから、仕事が終われば一切の干渉はなしにしてくれ」

「我が主にはそのようにお伝え致します」


「それと俺が引き受けたことを王国には知らせるな」

「難しい条件でございますな……」


「心配しなくても、調べれば俺の仕業だって分かるようにしておいてやる。もっとも分かったからといって、事実かどうか聞かれても答えてやるつもりはないが」

「隠すつもりはないと?」

「ああ、そうだ」


「鉱山ロード様は王国を恨んでいるように見えるのですが?」

「そうだな。少なくともいい印象は持っていない」


「承知致しました。正直陛下に問われれば答えないわけには参りませんが、我が主には鉱山ロード様のご意向をしかとお伝え致します」


「分かっているとは思うがこれは条件だ。守られなかった場合、次は本当にサットン伯爵家が消えると思え。なあなあにするつもりはないぞ」

「か、かしこまりました」


「条件を全て呑むということでいいんだな?」

「あの、不躾な質問をお許し頂けますでしょうか?」

「なんだ?」


「お話を聞く限りですと、依頼をせずとも夜盗共をどうにかされるおつもりのようですが……」

「だから依頼を取り下げると?」

「いえ、その……」


「試しに取り下げてみたらどうだ? もっともそんなことをしたら、お宅に明日は来ないと思うが」

「と、取り下げるなど、滅相もございません!」


 金を使う必要がなくなったのだし、殺された使用人たちの仇を取るのだから、国王に聞かれてもしらを切るくらいやれと彼は念を押す。伯爵家の家令は額に汗を滲ませながら、何度も繰り返し首肯して見せるのだった。



◆◇◆◇



 サットン伯爵家の家令、キム・デイヴィスが尋ねてきた日の午後には、遣いの者が夜盗共の拠点を知らせてきた。奴らは周囲を木々に覆われて訪れる者もいない廃村にアジトを構えているそうだ。


 夜盗というだけあって活動は夜になってからで、昼間は数人の見張りを立てて休んでいるらしい。だが、そんなことはどうでもいい。奴らは大切な家族とも言えるソフィアとポーラを攫った可能性があるのだ。それだけですぐに懲らしめに行く理由は十分である。


 彼にとってはこれまで被害に遭った王国民より身内の方が何より重要だった。


 とは言え極悪非道の限りを尽くした夜盗共に明るい明日を迎えさせるつもりはない。余談だが夜盗のカシラの首には、金貨五十枚の賞金が掛けられている。生死は不問だが、顔が分かるように最低でも首が必要とのことだった。


 ところで基本的に夜盗に襲われれば皆殺しに遭うのだが、中には例外があった。それは見た目のいい若い女性がいた場合である。捕らえられた女性はある程度の人数が揃うと、奴隷としてどこかに売り飛ばされるようだ。


 そういう意味ではたとえ捕まっていたとしても、ソフィアとポーラは生きている可能性が高い。そして現在、アジトにはそんな女性が十人ほどいるとのことだった。それを聞いた彼は、助け出した女性たちの保護を任せることにしたのである。


 そして優弥は、ソフィアが置いていった魔石の指輪を握りしめる。彼女を無事に救出したら、改めてこの指輪を渡すつもりだった。


(頼む。無事でいてくれ)


 それから改めて火の消えたような家の中を振り返る。この数日間、彼は以前妻と娘を失った時と同じような悲しみに苛まれていた。叫びたいのに声が出せない。何故自分一人を置いていったのかと、怒りさえ湧いてくる。


 だが、真奈美(まなみ)玲香(れいか)の時と違い、今はまだ二人が生きている可能性があるのだ。そう思うと自然に力が入る。


 時は一刻を争う。拳を握りしめ、家を出た彼は教えられた廃村へ向かって一目散に走り出すのだった。

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