第一話 勇者の使命
時は少し遡り、優弥とエリヤが召喚された日のこと。
「勇者エリヤ・スミス殿、其方の使命は魔法国に渡ること」
モノトリス王国宰相、ゴルドン・マーチス・ホールは召喚の間から勇者を連れ出すと、壁に向かって呪文を唱え、現れた扉から部屋の中に彼を招き入れた。そこは密談の間と呼ばれる、文字通り一切の盗聴を防ぐ密談のための部屋だった。
「オーキードーキー! マホウコクにイくのがミーのシメイね!」
「そうだ」
「でもよくワからないね。ミーはナニしにマホウコクへ?」
「彼の国と同盟を結んで頂きたい」
「ドウメイ? ミー、よくワからないよ」
「心配召されるな。魔王陛下には、モノトリス王国が同盟締結を希望していると伝えてくれればそれでよい」
「それだけならミーにもデキるね!」
そう言ってからエリヤは首を傾げて宰相に尋ねる。
「でもどうしてマホウコクとドウメイをムスぶのヒツヨウ?」
「実はな……」
まず魔王とは魔法国の王のこと。決してエリヤが想像するような、邪悪な存在ではないという。
また、魔法国ではその土地の性質上、住人の魔力が非常に高い。モノトリス王国の一般的な成人の平均MPを500とするなら、魔王国の住人は十倍の5000だそうだ。
「さらに、魔法国と同盟を結ぶには魔王陛下と渡り合えるほどの魔力を持っていないと話すら聞いてもらえない」
「マリョク! ミーのマリョクはタりてる?」
「残念ながらスタツスを見る限り足りておらん。魔王陛下の魔力は2万を超えるとのこと。故にしばし修行せねばなるまい」
「Oh! シュギョウね! ミー、いっぱいシュギョウするよ! それでドウメイするのはナゼ?」
「数年のうちに、大陸カティックを統べるレイブンクロー大帝国が攻めてくるとの情報が入ったからだ」
魔法国アルタミラは、モノトリス王国のあるゼノアス大陸と、カティック大陸の間に浮かぶエシュランド島にある。島とは言っても面積は約百七十万平方キロ、これはアラスカ州に匹敵する広さだ。
人口は約二千万で、国民のほとんどが戦闘に参加することが出来る。エシュランド島には魔物も多く棲息するため、戦えなければ死ぬしかないからだった。
この戦力をレイブンクロー帝国に取り込まれれば、もはやモノトリス王国はおろかゼノアス大陸にある全ての国々が束になっても抗う術がなくなってしまう。
「そこでミーのデバンというわけね!」
「たとえ勇者エリヤ殿と言えども、単独では大帝国相手に勝ち目はなかろう。しかし魔法国が味方につけば、侵略を阻止することも叶うはずだ」
「ミーのセキニンはジュウダイね」
「エシュランド島に入ってから魔王陛下の御座す魔王城エブーラまでには、魔物を倒していかねばならん。よってエリヤ殿には我が国の精鋭騎士五十人を伴につけよう」
輸卒、物資の輸送部隊も含めると百人規模になるそうだ。海上では王国海軍が護衛につくとのことだった。
「エリヤ殿のスタツスが整い次第、魔法国には先触れを出す。早急にレベルアップに励んで頂たい」
「ワかったね! ミー、ガンバるよ!」
それから約一カ月の後、順調にレベルアップを果たしたエリヤは、騎士たちと共に魔法国に向けて旅立つのだった。