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九話 前向きな足掻き

 ぐっすり眠ったアシュリーと徹夜明けのリオは同じテーブルに付き朝食を取っていた。焼き上がったばかりのクロワッサンとオレンジジュース。

クロワッサンはパン生地とバターを交互に重ねて焼き上げる訳だが、ふとバターの原料となる牛乳について考えた。その名の通り牛乳とは牛が出す乳だ。

 こんなうまいもん出してくれている牛は尊いな。

 豚肉も美味いし、鶏肉も、羊も、山羊も尊い。


 リオが男から女に還る事が、随分と些末な事に感じた。

 動物は犠牲にしない。

 命を頂く時は、感謝して頂く。

 性別変換云々で血の道は築かない。


 そう。

 平和的で。

 誰も傷付かず。

 その上で男に戻れるなら戻ろう。


「おい、アシュリー」

「なんだい?」

「俺は決めたぞ」

「何を?」

「方針をだ」

「どうするの」

「取り敢えず、取り急ぎ公務をこなす。その上で、優秀な部下に頼めるものは頼み、落ち着いたら旅に出る」

「旅?」

「そう旅だ」

「……無理じゃ無い? 一応次期宰相な上に王太子妃だよ」

「隣国のどっかに建国祭やら生誕祭やらあるだろ? 名目はそこへの出席だ。何かあれば転移魔法で帰ってくるし二三ヶ月くらい問題無い」

「……リオが王太子妃になる事が決定したと同時に、陛下の譲位が決まった。一年後に戴冠式だ。もう現実は止めようが無い」

「分かっている。一年後、悔いの無いよう足掻くだけだ。よくよく考えてみれば、俺が女でも男でも国は困らない。小事だとは気付いている。俺も貴族だからな、王国に不利益を作ってまでは性別に拘るつもりはない。気になる事を少し調べるだけだ」

「……気になる事って?」


「お前は神に逆らった者がいる事を知っているか」

「……知らないよ。神に逆らった人間なんて命はない筈だし」

「創世の頃の話だ。神に逆らったのは人間では無く神の遣い。王に取って近衛のような存在の者だよ」

「……ふーん」

「昔、七つの国は分かつことのない常世の国だった。芳醇な木の実、金色の河。人間は神の人形であり、とても従順でいて無知だった。そんな神の人形が知恵の実を食べてしまった所から、人間の運命は狂い出すんだ」


 知恵とは何か?

 知識は力であり賢さは強さである。

 けれど光には影が付き従う。


「第一王子殿下が孤児を何人も殺したのは知っているな? 嘘を付いたり、他者を無駄に殺めたり、欺いたりする事は知恵の無い者には出来ない。知恵とは正にも負にも振り幅が広い代物なのだよ」


 アシュリーは黙ってリオの話を聞いていた。


「人間に『知恵の実』食べるように唆した者がいるんだ。神の毒と呼ばれし者」


 リオはナイフをそっと皿に置く。


「彼に会いに行こうと思う」


 その時リオは不敵に笑ったのではないかと思う。

 そんな伝説の中の者が、この世に本当にいるのだろうか?

 いや、いるかも知れないではないか。

 いたら存分に神を肴に酒を飲むのだ。

 神に見捨てられた、神の御遣い。

 今頃どうしているのやら?




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