五話 次期筆頭魔導師の行く末2
迷っている暇も無く、神託の儀式は始まっていた。
昨日は豚を抱いて、この場所に立つ予定だったが、今日は花嫁となって立っている。人生って予測がつかないな。
心底そう思う。
そして神官達の視線が痛い。
ああ、痛いとも。
昨日まで颯爽と命令を下していたリオが花嫁とか。
笑うー。
なんとお綺麗な。
神々しくて目が潰れそうだ。
とか何とか。
なんだか皆、好き勝手なことを言っている。
神託の間なのに。
私語とかないからな。
『では、神の御前で誓約の儀式をーー』
アシュリーは用意していた白の儀式用の服で正装をしていた。
これは普通に婚姻でもいけそうな服だな。
誓約の儀式って、何をするんだ?
声明?
そうこうしている内に、なんとアシュリーの手が腰に掛かる。
何?
声明で腰を抱く必要なんてないだろ?
声明というのは、公に表することだ。
つまり『僕らは結婚いたします』と声に出せば良くないか?
そうこうしている内に、アシュリーの顔が近づいてくる。
整った顔立ちだよな?
等と冷静に考えてる内に、アシュリーの唇がリオのそれと重なった。
(……嘘だろ?)
何だ?
コレ?
キスしやがった。
どの面下げて?
しかも儀式なのだから、直ぐに離せば良いものを、長い上にアシュリーの口が僅かに開いたのが分かった。
おいおいおい。
させるかよ。
リオはしれっとした顔で目を瞑りながら、口を硬く閉ざした。
馬鹿なのこの王子。
やっと体を離した王子が口にした言葉を忘れない。
『残念』
と。
奴はそう言った。
後で憶えてろよ。
見たか今の誓約。
あの淡泊なアシュリー殿下の執拗な抱擁。
既に妃殿下に夢中で在らせられる。
御子を見るのもそう遠くない未来のようだ。
なんとめでたき日。
参列した長官達は、皆何故か涙ぐんでいる。
世継ぎがいなくて心配だったんだな。
確かにアシュリーには山のような縁談が来ていた。
しかしーー
どこ吹く風ではないけれど。
全然関心を示さなかったんだよな。
言わずもがな婚姻は王族の義務。
世継ぎがいなければ、民は不安がる。
それが故に…魔導師であるリオが女に……。
ああ…ーー。
後の祭りだが。
王太子の婚姻を無理矢理にでも纏めなかった自分が呪わしい。
この後、どんな顔して王子に会えというのだろう?
ああ…ーー。
リオは未来を思うと不安になる。
三日間の祭事を行い。
そして三日後に公務が再開する。
しかしなんだ。
その三日間は。
婚姻の契りを三日連続行うのだ。
婚姻も急なら、初夜も急と来た。
凄いな。
神の審判の効力は。