二話 『神の審判』2
リオはリオ・ソルジャー・ルビウスというフルネームを持つ王宮魔導師次官であり、王太子の第一補佐官。父は王の宰相であり王宮魔導師長官である。
宰相であり、王の魔導師というと、力がかなり一極に集中している事になる。
だがしかし、この力配分は破られない。
それはそうだろう。
何と言っても神のいる神界と自分の身を繋げて、神力を召喚し、この世に魔力として顕現させられる、いわばチート級の力を擁した神の子孫なのだから。
文官はもちろん武官だってクーデター等起こしようがない。
その上、決して王と国を裏切らない、裏切れない盟約を交わしているのだから、国としては最高級の働き者という位置になる。
リオはこの最高級の働き者の家に、次期魔導師の証である、ルビウス色の瞳を持って生まれた。ルビウスという石の力を宿した瞳、つまり紅い色の瞳を持って生まれたわけだ。
守りの石は各国によって異なるが、オルコット王国の魔導師はルビウス石により守られている。
この瞳を持って生まれし者は、ほぼ人生確約状態である。
王家に仕え、王と共にあり、王と死ぬ。
一生、王家と王国の為に働き尽くすのだ。
休みなんか有りはしない。
一日中。
一年中。
一生。
生きている限り働く。
ブラック商会だって真っ青だと思うね。
それが故に多大に権限を与えられている。
まずは第一に尽くす王を自分で選べる。
長子だとか男子だからだとか関係ない。
王の子の中から自分で選び忠誠を誓うシステムだ。
そして二番目は、王立学院時代より有能な人材をヘッドハンティング出来る。
リオは自分の理想的な政治を行えるように、学生時代はヘッドハンティングに勤しんでいた。
無能など使おうものなら、自分が潰れる。
善良で優秀な人間を使えば、国は潤う。民にも還元出来る。
しかし。
部下は有能。
権限は絶大。
なのに仕える王子はへっぽこ?
リオは明日の『神の審判』により、アシュリーが豚や蛙に変えられるのじゃないかと心配で心配でならなかった。
まず第一に。
彼は仕事をしていない。
下手に仕事に精を出されると迷惑? な立場でもあるが、印すら押さない。
やる気ゼロである。
どうなんだろう?
リオが世話を焼きすぎているのだろうか?
だかしかし。
次期宰相なのだから、焼くのは当たり前ではないか。
いちいち細かな物まで判断していたら、忙殺して眠れない。
眠れなければ健康を害す。
そんなものは本末転倒であるため、適度に力を抜くことは良い事だ。
リオだって優秀な部下に大分頼っている。
報告内容と視察状況の一致確認には余念がないが。
報告と現実が食い違っていたら大事だしな。
「お前が豚になったら俺は悲しい」
この王太子とは、そもそも年が近くて身分も近い事から、兄弟のような近しい間柄だ。しゃべり方も口調もぞんざいなものになる。
「僕が豚になったらどするつもり?」
王子はまるで人ごとの様に尋ねる。
「過去に豚になった王はいるが、豚といえども王だからな、見捨てる事は不可能だ。宰相閣下は豚の面倒を見つつ余生を送ったらしぞ」
「ふーん」
王子はアンニュイな視線をリオに送る。
「リオと離宮で豚として余生を送るのも悪くないな」
「いや悪いだろ。俺は豚の面倒をみるのはごめんだ」
「激務からも国からも解放される」
「豚からは解放されない」
「懐くらしいよ? 可愛くて平和な日常といえる」
「お前は豚になりたいのか?」
「それほど悪くはないと言っただけだ」
リオは小さく溜息を吐く。
この王子は豚に決定じゃないのか?
明日を迎えるのが怖くてしようがない。
「とりあえず、仕事をしている振りくらいはしろよ。明日なんだぞ」
「神が振りなんかに騙されるとは思えないな」
それはそうだろうけど。
豚って何を食べるんだ?
穀物か?
トウモロコシとかだろうか?
アシュリーとリオの関係は、王子と契約を結んだ魔導師であるから、運命は一蓮托生になる。アシュリーがもしも豚になったなら、リオは後世まで豚の宰相と伝えられるだろう。
しかし。
平和といえば平和だろう。
国の政治から一線を引き、離宮にて豚と過ごす。
朝、散歩をして豚を撫で、餌をあげる。
昼は一緒に日向ぼっこをして豚を愛でる。
夜は共にベッドで寝る。
考えるだけで頭が腐りそうなんだが。
「せめて猫にしてくれないか」
そういうリオの切実な意見に、王子は神に言ってくれと返した。
それはそうだな。
この激務とも今日でお別れか。
そう思うと懐かしくもある。
では明日までに引き継ぎの資料を纏めるのもリオの仕事なのかもしれない。
今夜は残業になりそうだ。
リオの中で王子が豚や蛙もしくは猫に変えられるのは、最早決定事項としか言いようがなくなっていた。
他者を動かすのは、自分が動くよりも余程難しい。
リオの後々の課題である。
各省へのまごまごとした引き継ぎをし、目を掛けて来た文官に国の未来を託すと、文官たちはおいおいと泣いて引き留めてくれた。
(ごめんな。明日から俺は豚の世話に明け暮れる日常が待っている)




