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最終話 王太子の心

 アシュリーは王宮の奥まった部屋で人に会っていた。

 相手は黒いローブと黒いマスク、黒いグローブと分厚いブーツを履いている人物で僅かに見える瞳だけが金色に瞬いていた。彼は壁に溶け込むように立っている。異様な出で立ち。そして見る者が見ればその身に宿る魔力量が半端ではないことが分かるだろう。普段は人の世と神の世の間に住んでいる。『神の審判』の年に、人の世界に降りてくる。所謂彼はかつての神の御使い、そして今は蛇と呼ばれている者だった。


「リオが君のことを探している」

「………」

「彼はいつも勘が良い……」


 王太子であるアシュリーには、瞼に焼き付いてる光景がある。

 毒の入った紅いワイン。そして降るような硝子の破片。

 

 そう、アシュリーはあの日あの時、廃人になってもおかしくない身だった。

 けど、紅い瞳の魔導師に助けられたのだ。

 今も鮮やかに思い出す。あの目の覚める美しい魔術を。

 無詠唱で展開する速さ。正確さ。あのような魔術を使える者は王国にはいない。

 唯一はここに居る者だろうが、彼は人という範疇の存在ではない。


 彼と僕は取引をした。僕は『神の審判』に見せかけて王宮魔導師リオを女にして欲しいと願った。

 彼は人の国に安寧と過ごせる領地と爵位が欲しいと言った。

 僕は王太子だから願いは容易いものだった。

 伯爵位と南の領地の一部。温暖な気候で作物が育ちやすい僕の母の故郷の地。

 王太子に立戴した時に賜ったもので、正式に彼に下賜した。

 リオには僕の遠い親戚だと言ってある。

 怪訝な顔をしていたが、問題さえ起こさなければリオは深追いしないだろう。

 どのみちいつか誰かの報奨として手放す予定の地だ。親戚に下賜した所でなんの問題もない。

 そして彼も決して問題は起こさないだろう。目立たず騒がず過ごすはず。


 十年前、全ての人間は第九王子を見捨てた。

 いらない王子。助けた所で何の益にもならない。

 リオだけが僕を助けてくれたのだ。彼だけが僕の命に価値を付けてくれた。

 リオが男でも猫でも豚でも蛙でも、僕はかまわない。どんな存在でも愛してる。

 けれどーーリオが僕以外の人間と結婚するのは想像が付かなかった。無理。

 考えると虚無のような感情が体中に広がって行く。


「君はエデンの門ではなく領地に戻ってね。そして静かに暮らして欲しい。僕はリオに旅なんて諦めさせるから。君は決してリオに会わないように」


 彼は無言で頷き、闇の中に姿を消す。正式な書類は全て揃えて持たせたから困ることは無いはずだ。そして領地の城は無人にしてある。


 男を女に変える魔術は呪いと同義。もしもリオに看破され呪いを解かれたら、魔術は魔術師と依頼主に返る。即ちそれはアシュリーでありアシュリーが死ねば契約の魔導師であるリオも死ぬ。

 リオの弟は何か勘づいているかも知れないが、この原理原則がある限り手出しはしてこないだろう。


 僕が生きて行くにはリオが必要で、僕と彼は神の盟約で結ばれた魔導師と王太子。

 運命を共にする者。一蓮托生。


 リオ。

 アシュリーは昨日触れた柔らかい黒髪を思い出す。

 君の赤い瞳も、君の白い肌も、君の声も、君の心も、全て僕のもの。

 僕の体中を君で満たして。僕から離れないで、僕が息をしている間は僕だけのものでいて。

 



 一年振りになりますが、完結の話を書きました。

 

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