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十二話 血で繋がれた者

 リオは九歳から、つまりアシュリー王子と契約を結んでから、王宮に住んでいた。まあそういう決まりなのだ。王子とは寝食を共にする。

 なのでルビウス家には用がなければ帰らないという状況なのだが。

 

 ブレンダの要件は、弟のエセルの様子がおかしいから見に来てくれといったもの。

 様子がおかしいというよりは、兄の名前、リオの名前を連呼して連れて来てくれと叫んでいるらしい。そんなに騒がずとも。

 落ち着け。

 

 そしてーー


 とっとと転移魔法。

 リオが二本の指、即ち人差し指と中指を立てて額の前に持って行くと、足下に紅く明滅する魔方陣が出現する。

 

 デリカシーなんてないからな。

 部屋の中に直接行ってやる。

 

 転移魔法の瞬間ブレンダの声が耳を掠ったが。

 あいつがいるとうるさいからな。

 つまりは弟との兄弟喧嘩が始まるから。

 だからさくっと置いて行く。


 この王国の魔力保有者は三番目と四番目に海より深い差がある。

 つまりはナンバースリーまでが桁違いということ。


 ブレンダに転移魔法は使えない。

 今頃王宮の中庭で、一人残されて怒っているに違いない。

 まあ、平和のためだ。馬車で帰ってきてくれ。


 勝手に思いを馳せながら、リオは転移魔法の出口座標で己の姿を顕現させた。

 させたと同時に後方に横転しそうになる。

 転移魔法を察知して、部屋の主が抱きついて来たのだ。


 ゴンと嫌な音がして、後頭部に激痛が走る。

 武闘派じゃないんだぞ。

 お手柔らかに頼む。


「お兄様っ!」


 腰の辺りにエセルが抱き付いていた。

 リオが後ろに倒れた所為で、エセルも当然転んでいる。


「どうしたエセル?」


 銀色の星を砕いたような髪の色をしている。

 ブレンダが夜空なら、エセルは夜空を彩る星々だ。

 双子とは思えないほど相反する髪の色をしているが、瞳は同じペールピンクだ。

 二卵性だからな。

 こういうものなのかも知れない。


「お兄様!」


 女性化したリオを見ていたエセルは、ショックを受けたのか、一瞬絶句した後、しくしく泣き始めた。


「王子の所為で、お兄様がお姉様に。あの不甲斐ない王太子っ」


 エセル、外ではそういう事を言うなよ?

 不敬罪で捕まるぞ。


 王子め。

 王子め。

 悔しさからか、エセルは何度も毒を吐く。

 うんうん。

 もっと怒ってくれ。

 誰も怒ってくれないかなら、お前くらいは兄の為に怒ってくれ。

 しかし一頻り怒ったエセルは、小声で何かブツブツと言い出した。


「お兄様がお姉様に? 僕とは異性? 僕とも結婚出来る??」

「エセル?」

「何ですか? お姉様」


 ほう。もう切り替えて姉と呼ぶか?


「お前と俺は血を分けた兄弟だと知っているか」

「知っていますが何か?」

「いや確認したかっただけだ。遺伝子は遠い方が有用だ」

「………」


 返事をしてくれ。

 黙り込んだ弟をリオは心配そうに眺める。


「お姉様、ルビウスの血は大変貴重なものです。遺伝子を継ぐ為にハーレムを持つ事を提案します」

「は?」

「ですから、王宮にお姉様のハーレムを持つべきです」

「………」


 弟の頭は大丈夫だろうか?


「妃がハーレムを持ってどうする?」

「王子より余程大切な血筋です。王に代わりはいますが、魔導師には代わりはいませんからね」


 何度も言うが、外では言うなよ?

 分かっているか? 弟よ。


「契約の王子に代わりはいないぞ?」

「王子に代わりはいなくとも、子を残す必要はありません。第二王子の元にも第三王子の元にも第四王子の元にも男子は生まれていますからね。ルビウスの血族を残す事が最優先事項」

「弟よよく聞け。ルビウスの瞳を持った赤子が生まれれば、俺の子でもお前の子でもブレンダの子でも次期ルビウス家の当主にかわりない。義務というならお前こそ婚姻を結ぶ義務がある。俺は王妃になるらしい身。この家を継ぐのはブレンダかお前になる。どうする?」

「ならばブレンダで良いのではないですか? あの出来損ないの妹ーー」


 リオはそっとエセルの口を塞いだ。

 そして首を左右に振る。


「紡いではいけない言葉を紡がない方がいい」

 

 ペールピンク色の瞳が激しく燃えている。


「お姉様のそういうところ嫌いです」


 リオは険の強い弟をすっと腕の中に抱く。

 小さかった弟が、自分と同じくらいの背丈になっている。

 兄の沽券を守るのも難しくなってきたか?

 女の体だからな。


 哀れな弟。

 彼の魔力はこの国でナンバースリーに当たる。

 妹が受け継ぐべき魔力が、誤って弟の体に入ったと言われている。

 本来は彼らは、ルビウス家に生まれる筈だった魔導師の正当な替えだった。


 けれど双子で生まれてしまったから、ルビウスの瞳を持っていなかった。

 不完全な魔力が弟の体に流れ込み。

 必要な魔力が妹の体から欠落した。


 彼らはーー

 

 二人で一つのルビウスの欠片。

 今でもお互いがお互いを誰よりも憎んでいる。



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