十一話 血の繋がりし者
「お兄様?」
「なんだ妹」
三歳下の妹は、今年十六歳になる。
ルビウスとまではいかないが、淡いペールピンクの瞳に、藍色の髪をした少女。
魔力は父とリオに続き四番目に高い。
魔力を有する者同士、子供の頃から同じ環境で育っただけあって、近しい存在だ。
「凄いですわ、お兄様。どこからどう見ても女性です。さすが神力による執行ですわ。魔導師が放つ魔術とは一線を画しますね」
「ああ、そうだな」
反抗のしようもないので、素直に頷く。
「直ぐに分かったか?」
「それはもう。その魔力量といい、美のオーラといい、私のお兄様に相違御座いません」
「……それなー」
リオは深々と嘆息する。
「しかして、今日からお姉様と呼んだ方が良ろしいでしょうか?」
「………どうするよ?」
「成る程、成る程、承知です。さすがのリオ兄様も今度の事では大変な戸惑いようなのですね」
「それはなー。戸惑うだろうよ? お前、自分が朝起きて男になっている所を想像してみろよ? 笑っちゃわない?」
少し考える様子を見せたブレンダは首を横に振った。
「男子でも女子でもどちらでも良いのです。生きてさえいれば」
「ほー」
「ルビウス家の人間はそんなことでは動じません」
「へー」
この妹、ホントにデリカシーないよな。
傷心の兄にもう少し気の利いた言葉がありそうなものだが。
まあ、ブレンダは魔術馬鹿で、他のこととか興味ないもんなー。
「あのお兄様、お体も拝見して宜しいでしょうか?」
「は?」
「変化の再現度を確認したいと言いますか? 体の細部までチェックしたいと申しますか」
「断る」
「今は女同士ではありませんか? 湯浴みとか一緒にどうでしょうか」
「断る」
「良いではないですか? 妹のお願いです」
「断る」
昨日まで男だったんだぞ。
妹と湯浴みなんて絶対嫌だ。
小さな妹ならば兎も角、ブレンダは十六だ。
有り得ないだろ?
「ブレンダ」
「何でしょうか? お兄様」
「お前の将来が心配だよ? もう少し淑女になりなさい」
「ルビウス家の人間が淑女になって、どんな得があるのですか?」
「嫁に行けなくなるぞ?」
「嫁になど元より行きませぬ。ルビウスの子女は女子でも嫁がずに、魔力研究をし家を支え、庶民と結婚をし、屋敷の離れに住み、血を繋ぐ。婚家ではなく生家に繋がれるのが決まりでは有りませぬか」
まあそうだな。
例外はあるが、基本はそうだ。
しかもリオが王妃になり家を継がないとなると、この娘が婿を取る事になる。
弟もいるにはいるのだが、あいつは部屋から一歩も出てこない。
所謂引き籠もりだ。
「エセルはどうしてる?」
エセルとは引き籠もりの弟だ。
ブレンダと双子になる。
「そうでした」
ブレンダはポンと手を叩くと、思い出したとでも言わんばかりに、要件を口にした。