90話
百合さんに見つけて貰えなければ保護して貰えない。そう考えていると波留が話しかけてきた。
「アル達が実家の近所の河川敷に現れたのって、きっと偶然じゃ無いよな。」ハッとした。百合さんに共鳴して近くに現れたって事?「お婆ちゃんに、もっと聞いとけば良かった。でも、それどころじゃ無かったもんなぁ。」確かに。「でも、アルとお婆ちゃんは同じ一族やからかも知れんし。それならサラは全然離れた所に飛ばされてても不思議じゃ無い。」本当にそれは分からない。「サラってアシェルと、そう言う関係になったって言ってたやんな。」サラの一目惚れって言ってた。「アシェルやったら、サラのもとに移動したりとかせーへんかなぁー。」波留って何か、適当過ぎやのに時々、良いとこ突く。「え?何で?真面目に考えてるよ?」波留がいてくれて良かった。「今更?」今更。
私以外の適任者。それはアシェルかも知れない。
でも、そんな酷い事をさせる訳にはいかない。
もし、誰かに行って貰ったとして、どれくらいで戻って来れるだろう。弾かれるのは確かだ。問題はその期間だ。
私の日記にマリーが最後に真守と来た時の会話で、血で移動したからか、台風による落雷が激しかった日にネックレスをつけても戻れなかったようだと書いてあった。マリーがどれくらい日本で過ごしたのか書いていない。真守と来れたのだから、いく日か過ぎれば移動できるのかも知れないが両方の世界の時の進み方は余りにランダムで一貫性がまるで無い。最悪、戻ってきたら何十年も経っている事だってあり得る。他の人に頼むなんて出来るはずがない。
城に到着しアルに報告して何か移動するのに百合さんが使っていた物が残っていないか探して欲しいと頼んだ。波留、アシェル、リチャードの前だったのに激しく怒鳴られた。
「ふざけるな!!!!」彼はそのまま部屋を後にした。
気付かれたんだ。慌てて後を追う。寝室のベッドの下、真守達の残した証拠品袋に入れて木箱にしまっていた。
燃やされる。
真守のシャツを。
イチコの言い方、ハルの手前、言葉を慎重に選びながら俺に報告しているのが分かる。
イチコは大切な物はベッドの下か寝室の何処かに置く。だから定期的に俺は確認する様になった。マモルの服を洗わずに保管しているのも知っていた。もとの理由は、この服にマモルをこんな目に合わせた人間の証拠が残っているから洗わずに取っておく。とイチコが言ったからだ。そしてマモルとマリーから、あの日の会話で、血で移動すれば落雷がおきても、ユリアの装飾品を身につけても、しばらく戻る事が出来なかったと聞いたと書いてあった。この世界の何処にも移動に使えるユリアの物は残っていない。ユリアが身につけたまま移動した物でなければその力は無い。だから受け継いだ首飾りをいくら手にして夜を過ごしても俺は移動できなかった。「移動してくれる「人達」がいるならその「人」にユリさんの住所と連絡先と地図を渡すので、その間アルは何かユリさんの「物」が残って無いか探して欲しい。」言葉がおかしい。子供達と俺を残して逝く気だと分かった。死ぬだろう。向こうの世界に身元不明の女の死体が横たわるだけだ。
何を言ったのか自分でも分からない。ただ怒鳴って寝室へ行き箱ごと暖炉に捨てた。後から追って部屋に入ってきたイチコを抱きしめて離さなかった。かなり強い力で振りほどこうとしながらイチコは泣いていた。ハルに泣きながら辞めさせてと頼んでいた。お願いだから燃やさないでと泣いていた。もっと早くに話し合って処分しておけば良かった。
ハルの後ろに控えていたリチャードとアシェルは俺の前に跪き自分達に行かせてください。と言った。
行った所で彼女達が無事に生きていてユリアの力を借り戻れても、お前達は戻れず、その後に戻れたとしてもお前達を知る者は皆、死んだ世界に戻ってくる事になるかも知れない。と教えた。それでも構わないので命令を下してくださいと言われた。この状況で行くなとは言えない。「いいだろう。」燃える暖炉に桶の水をかけ木箱をファイヤーフックで取り出して中からマモルのシャツを出し彼らに渡した。イチコは本当に、ごめんなさいと言いながら彼らにスマホを手渡した。ここを押せばユリアに繋がると。そして状況を説明すれば必ずサラとリリーを見つけ出して助けてくれる。と言っていた。二人は迷う事なく自ら短剣で手のひらを傷つけるとマモルのシャツを掴み消えた。サラに一生恨まれる。とイチコはつぶやいた。ハルはイチコを叱った。俺が怒るよりもかなりキツイ言葉の数々だった。最後にバカイチコと言って少し涙ぐんで抱きしめていた。イチコはもう一度、ごめんなさいと謝って泣いていた。
こんな夜は泊まってもらおう。ハルにお願いした。勿論そのつもりだと答えてくれた。