62話
61話 加筆しました。
すみません。
クソが可愛い弟をボコボコにしやがって、絶対に挙げたる。真守を送って本部に行くと親父が「ご苦労やった。真守はどないや。」と聞いてきた。肋骨は二本折れとった。肩と両太腿も刺されとった。拷問やな。顔は打撲、目も検査せんとわからん。左は視力が落ちるかも知れん。本人も言うとったけど、あっちに飛ばされてへんかったら死んどった。何でバレたんや。おかしいやろ。「そーゆー事や。まぁ、そっちは済んだ。」はあ?「済ませた。」身内におったんか?「かなり上の方にデッカイゴキブリが入り込んどったんや。真守が死んどったら掴めんかった。一匹おったら百匹出てくるもんや。これから忙しなる。全部は無理でも駆除はせんとあかん。今年の年末の休みは無理や思とってくれ。日本にも保護プログラムが有ったら良いんやけどな、こんな目に遭わせておいて守ってやれへんのやから、殺生な話しや。」殴らせてくれ。どいつや。「殴るくらいで終わらす気は無い。今日は帰って休みなさい。」その週末、一人の議員が死んだ。人をかき分け赤信号を無視し大通りに飛び出し大型トラックに轢き潰された。その時、所持していたアタッシュケースの中身が公表されることはなかった。その数日後、TVにもよく出ている有名な弁護士が死んだ。市内の大きなビルから人々の見ている前でしばらく笑ってからダイブした。どちらも怪我人は出なかったが、それぞれの現場に居合わせた人の何人もがPTSDに苦しめられている。他の何人かは収賄や選挙法違反で挙げられた。どいつも秘書の責任にして逃げる気満々で嫌になる。仕事をしても結果潰される。
一子も波留ちゃんも心配してるやろな。
思てるよりも不便やんけ。
昨日、台風23号の影響で酷い暴風と雷雨が続いたにも関わらず私はアークランドに戻る事ができないでいた。ユリア様も首をかしげていた。不本意であっても、私がこの世界で誰かのお役に立てる事は何も無い。それが身に染みてわかっているので装飾品もお借りして間違いなく地肌に身につけた。それでも私は戻る事が出来なかった。この世界では私はただのお荷物でしか無い。消えてしまいたかった。夜まで我慢して一人で泣いた。泣いて鼻をかむので私の部屋のティッシュは無くなるのが早かった。ユリア様もユキ様も、きっと気がついていて私の気持ちが落ち着くのを見守ってくださっていたのだと思う。私の部屋にはいつもティシュを二箱用意してくださっていた。
皆様はとても優しく接してくださるし何も不自由する事は無かった。それでも身の置きようが無く辛かった。
しばらくしてヒカル様にワクチンを打ってもらった。
熱は少し出たけれど一日で治った。一日中、ユリア様とユキ様が交互に付き添ってくれて子供に戻った様で恥ずかしかったけれど同時に嬉しく思った。ウィリアム王子は39度を超える熱が出て、下がるまで数日要したと聞いていたので、少し怖かったがヒカル様の言われた通り個人差があるのだど理解した。簡単な日本語を少しずつ覚えていった。有難いのは単語で伝わるところ。
「あのー、これ」と言えば買いたいので値段を教えてくださいと言わなくも「はいよッ。毎度ありッ、○○円ッす。」と教えてくれる。だんだんと楽しくなってきた。
ジューシロー様やユリア様の朝は早い。私にゆっくり休む様にと仰ったのには大切な理由が有った。毎朝、お二人でキカイでは無くケトルでお湯を沸かし自らアークランドと同じ方法で互いのコーヒーと紅茶を淹れてお二人で静かによばれている。家の人達は皆寝ていて、六時頃にユキ様が起きて来られて朝食の準備が始まる。私も目覚まし時計の使い方を教えてもらいユキ様と同じ時間にキッチンへ行くようになった。
料理も楽しい。巻き寿司の時は端のところを切って三人で先に味見をする。美味しく出来たわね。って一切れでは終わらない。小さな秘密みたいで楽しい。
朝食の後は散歩に出るのが日課になり、何人かの人とは挨拶を交わすようになった。
散歩の道にシロツメクサが沢山自生していたので花冠を作っていると子供と母親がやって来て「教えてもらえますか?」と声をかけてくれた。勿論喜んで教えた。出来上がった花冠を三人で頭に乗せて、似合ってるね。可愛い。うまく出来て良かったね。と言っていると「マリー」と、懐かしい声で呼ばれた。ずっと聞きたかった声。振り向くとマモル様が立っていた。