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188話

たった一言(ひとこと)

そう、たった一言(ひとこと)『みかじめ料』を聞いただけ。

たった、それだけで、『なりすまし』だの、『偽物の姉弟(きょうだい)』だのと、決めつけられて手枷(てかせ)まで()められ、拘束されて、そのまま護送馬車に押し込められた。

どれくらい()ったのか、結構な距離を移動して、護送馬車は止まった。

扉が開き「トイレ休憩だ。」と、降ろされた時、メリル温泉へ来た道をバカみたいに戻っているのだと、分かった。

なるほど、強制送還する気だわ。

手枷を嵌めたまま、馬車から降ろされた。冗談じゃない。男に囲まれてなんて、あり得ないわよ。騎士が付いて来るなら「見るな!変態!」と、騒いで、一人になる状況をつくって、そして、そして、それから、何としてでも逃げてやる。

気合を入れて馬車を降りると、目の前に女が六人も立っていた。

(たたず)まいが違う。騎士の様にまでとは、いかなくても、鍛えられ訓練された女達だと分かった。六人は、無理でも、アタシだって、素人じゃ無い。短剣の(ひと)つでも身に付けているなら、奪って人質を取れば良いと考えたけど、全員ちゃんと見たけど、誰も剣を携帯していなかった。

来た時と同じトイレが使えるなら、逃げる機会もあるかも知れない。それが無理なら、大声を出して抵抗して、メチャクチャ嫌がらせをしてやろうと思ったのに、場所も完全に違った。一般人とは別の、騎士の詰め所に設置された、トイレを使う様に連れてこられた。


「ねえ。勘違いで、身分証とは別人だと勝手に判断されちゃっただけなのよ。話しがわかる人に会わせてくれたら、ちゃんと証明できるわ。」

アタシが、話しかけても、誰も返事すら返さない。

どうせ、公衆のトイレじゃ無いなら、来た時に使ったのとは違って、臭くて汚いだろうと思いながら扉の前に立った。

女の一人が扉を開けると、あの時と変わらず、良い香りのする綺麗なトイレだった。片手だけ、手枷を外された。

そして、用を済ませて手を洗い、渡された布で手を拭くと、また手枷をつけられた。

そうか、逃げ出す事は、不可能ってわけね。

たかだか、成りすましだけで、ここまで厳重に拘束するなんて、厳しすぎる。

きっと、あのガキ、フォルカーが裏切って、泣いて助けを求めたか、何もかもバカみたいに、白状したに決まってる。

もし、そうなら…強制送還じゃすまないかも。

次に護送馬車が止まったのは、留置場だった。

やっぱり、喋ったのよ。暗殺未遂の場合、どれくらいの罪に問われるのか、聞いとけば良かった。大事なのは、まだ殺して無いって事と、今回はアタシが実行犯じゃ無いって事。

切り札を使えば良いわ。依頼主が統治者ジュールって、事実を教えてやれば、アタシなんて、どうだって良くなる。逆に情報提供で、恩赦を引き出せるかもしれない。


小さな部屋へ通された。机の向こう側、部屋の奥の方の椅子に座らされた。

男は、机を挟んで、対面の椅子に座った。


「まずは、貴方の罪状を説明します。

(ひと)つ目は、貴方がお店の人に対して

『みかじめ料』の確認をした行為(こうい)が、我が国では、犯罪行為に当たります。他のお客さん達も、はっきりと聞いていたので、この件に関して無かった事にはできません。ここまでは、理解できますか?」


部屋の隅の机では、この男の話す言葉を書き留めているのか、二人の役人が、ペンを走らせている。

つまり、アタシの話す言葉も全て残すつもりってわけね。


「知らないわよそんな事。知らなかったのよ。アタシの国では、そこら辺で誰だって聞くわよ。お宅の店は、いくらぐらい払ってんの?とか。別にフツーの日常会話よ。次から気をつけるわ。」

「『次』は、無いのですよ。」

「え?」

「次は、無いのです。貴方には、二度とアークランドへの入国許可は、()りません。この罪に関しての処罰は、懲役一年です。次に、(ふた)つ目ですが、」

女だと思ってバカにして!!

思わず、大声で怒鳴った。

「冗談じゃないわよ!たかが、話しただけで何で牢屋に入んなきゃいけないのよ!!!アンタ頭イカれてんの?!」男は、表情を変える事なく言ってきた。

「どうされますか?このまま、説明を聞きますか?

それとも、留置場の部屋へ行きますか?」

アタシの息が、フーフーと荒くなる。部屋?どうせ虫のわく汚い汚物まみれの部屋でしょ!とにかく、少しでもこの部屋に居座らなきゃ、それに、どこまでバレてるか確認しとかないと。

「他に何が有るって言うのよ!」

「貴方が、節度ある態度で、接すると約束できるのでしたら、このまま続けますが、その様に横暴な態度を改めないのなら、これ以上の会話は無意味ですので、ここで終了します。どうされますか?」

「あーーもう!分かったわよ!聞けば良いんでしょ!聞けば!」

アタシが、そう言うと、目の前の男は、表情を変えること無く言ってきた。

「どうやら、貴方は『節度ある態度』の意味すら、ご存知ない様ですね。今日は、ここまでにしましょう。」

そう言うと席を立って、部屋に居る他の人に、「ご苦労様」と声をかけると、そのまま出て行った。

「ちょっと!」ダンッと、両手で思いっきり机を叩いた。

何が気に入らないのよ!何なのよ!

そして、これから暫く厄介になる鉄格子の個室へ入れられた。部屋に入る前に、手枷を外されたので、ホッとした。


捕まったなんて、アイツに知れたら、ぶたれるだけでは済まない。何とかして逃げないと。

フォルカーさえ、口を割らなければ、アタシが何処の誰かなんて、こっちで分かるわけがない。


入れられた個室は縦長の造りで、廊下から部屋の中が見える様に、廊下側は全て鉄格子になっている。一人用のベッドが壁際に有り、ベッドの上には、きちんと(たた)まれた寝衣らしき服と、囚人服とまでは、いかないけど、簡素な服が置かれていた。ベッドの向かい側に、小さな机と椅子がある。机の上に紙が置いてあり、何か書かれているけど、読めないのだから、見た所で意味が無い。

そして、部屋の奥に個室のトイレと洗面台が添え付けて有り、カップと歯ブラシ、歯磨き粉の入った丸い入れ物と、石鹸が置かれている。奥の壁には、鉄格子が嵌められた小さな窓がついていた。トイレは廊下から見えない様に仕切られている。だけど、それだけ。他には何も無かった。床も壁も石造りで、想像してたよりかは、ずっと綺麗な場所で、一人用の部屋だったので、心底ホッとした。

何もする事が無いので、ベッドに腰を下ろした。


考えなくちゃ。そうよ。

男は偉そうにするのが好きなのよ。

自分は、女より偉くて賢いのだと、感じていたいから。

あの男は「今日は、ここまでにしましょう。」と、言った。それなら、明日も話すって事だわ。

アタシが(くち)を挟んだのが、気に入らなかったのよ。

明日は、何も話さないようにしなくちゃ。

暫くすると、とても美味しそうな良い香りがして来た。格子の一部が小さく開き、トレーに乗った食事が部屋に入れられた。

ここに、トレーを乗せる台が有ったなんて…。今、気がついたわ。お腹なんて()いて無かったけど、受け取ったそばから、少しなら食べてみようと思えた。

夕食は、野菜がたっぷり入った温かな茶色いシチューと、フワッフワッの丸パンに、鶏モモ肉を焼いたのと、ヨーグルトには角切りのリンゴが入っていた。飲み物はコーヒー。嘘みたいに、美味しい。普段、アタシが食べている食事よりも豪華で、味が良い。アークランドでは、囚人の方が、アタシより良い食事を与えられているなんて。

あぁ。本当に、たまらなく惨めな気分になった。

(から)になったトレーを台に、置いた。

歯磨きとトイレを済ませ、服を着替え、着ていた服を椅子に掛けて、簡素な服は机の上に置いて、それからベッドに横になった。

皮肉な事に、ベッドの寝心地は、アタシの家の物よりも良かった。ハハッ。本当(ほんと)、バカみたい。

ココは、犯罪者にとっても『夢の国 アークランド』ってわけね…。

どこまでバレてるのか、明日は拷問されるのか、考えれば考えるほど、震えてほとんど眠れ無かった。


朝が来た。朝食は、じゃがいも、ニンジン、ソーセージのさっぱりしたスープと、オムレツ。切ったパンにチーズを乗せて焼いた、美味そうなパン、それと、温かなコーヒーだった。

アタシは認めて無いけれど、少なくとも犯罪者として、収監されたのに、嘘みたいに待遇が良い。そう感じた。

アタシの生きて来た環境が、本当にゴミだったのが身に染みてわかった。

食事を済ませ、支給されてた簡素な服に着替えて、歯を磨き、準備した。

男が三人やって来て、アタシは手枷を嵌められて、移動した。


昨日と同じ部屋に入ると、今度は女が座っていた。


アタシが座る椅子の横まで行くと「お早うございます。」と、女が言ってきた。

舐められるわけには行かない。女を睨みながら、黙って机を挟んだ向かいの椅子に座った。


「それでは、昨日の続きから、始めます。

貴方の犯した罪は、昼食に入った店で、みかじめ料の確認を行った事です。それは、理解できましたか?」

真っ直ぐにアタシを見て話す女の表情からは、どう返事をすれば正解なのか、わからなかった。ただ、ここで上に立たないと、この先どうにも、ならないぐらいは、分かった。凄みをつける為に、低めの声で脅しをかける様に言ってやった。

「何で、罪になるのよ。みかじめ料なんか、何処の店だって払ってるでしょ?それを聞いただけで、何でこんな目に遭わなきゃならないの?ねえ。アタシは、聞いただけよ。」

女は、本当に、ほんの少しだけ、憐れむ様な顔をした様に見えた。意味…わかんない…。

「みかじめ料と称した搾取自体が、違法行為だからです。人を脅し、難癖をつけ、金を巻き上げる。それらの行為(こうい)は、人道に反する行いですから、違法なのです。」この女は、世の中を知らないだけじゃない。

「アンタみたいなお嬢さんには、分からないでしょうけど、店がトラブった時に、解決できるのが、腕っぷしの男なのよ!」

本気で、怒鳴ってやった。勝てるわ!こんな女。世間知らずの、おめでたいだけの女なんて、相手にすらならない!

女は表情を変える事なく、アタシに聞いてきた。

「そもそも、どの様な客がトラブルを起こしているか、知っていますか?」

ほらね。やっぱり、知らないから聞いてきたじゃ無い。

「裏組織の連中に決まってるでしょ?アンタから見たら(やから)よ!」

簡単だわ。この女ならやり込めれる。

「その通りです。その事は理解しているのですね。裏組織の人からの嫌がらせを、裏組織の人が解決する。そして、支払わなけれは、嫌がらせを行う。」たった今、アタシに聞いて来たクセに、分かっていたフリをするなんて!あーーー。イライラする。

「だから、そう言ってるじゃ無い!人の話しを聞きなさいよ!」バカ女に、怒鳴った。

「聞かなければならないのは、貴方です。そして、きちんと理解しなさい。お金を巻き上げる為に嫌がらせを行う行為(こうい)は、犯罪です。そして、しのぎ料を支払わなければ恫喝し暴れる。その様な行為(こうい)も、アークランドでは、許されません。理解できていますか?」

「誰だって、してるじゃ無い!何なのよ!綺麗事だけじゃ、やってらんないわよ!バカなんでしょ?ねえ?アンタってバカなの?バカには、説明するだけ無駄よ!」

そう怒鳴ってやっても、女は表情を変えなかった。

そして、変わらずにアタシに言ってきた。

「どうやら、話しになりませんね。もう、これ以上は、結構です。その口を閉じて説明だけ聞きなさい。」

何を言ってんのよ…。話しが噛み合って無いじゃない。

「昨日から、話した通り、貴方は『みかじめ料』の確認を行った罪で、服役する事になります。期間は一年間です。また、身分証の偽造の罪により、同じく牢にて服役する事になります。こちらは、五年間です。実刑六年。今のところ、アークランドで刑に(ふく)する場合、これが貴方に下される刑期です。」

六年……!!!

「冗談じゃ無いわよ!何でアタシがマチルダじゃ無いって決めつけるのよ!」感情に任せて、立ち上がりながら、怒鳴った。

「そうですか。貴方の名前は、マチルダと言うのですね。本当の名が判明して良かったです。早速、隣国に問い合わせるとしましょう。どちらの国で刑期を務めるかは、貴方が出国した国と、協議の上で決定します。今後も、その様な物言いしか出来ないのであれば、業務妨害と脅迫罪も追加します。話しは終わりです。」

そう言うと、後ろに控えている男に、

「彼女を部屋へ、戻してください。」と言って、女は部屋を出て行き、アタシは鉄格子の小部屋に戻された。

アタシの、偽名は…確か…アメリア…。

しくじった。



待って…

じゃぁ、フォルカーは、何も話して無かったってこと?


昼食も夕食も、ちゃんとした食事で、その夜は、浴室を使う事も許された。ゆっくりとまでは、いかなかったけど、サッパリしたし、温かい湯に浸かれたのが良かった。

牢屋が、どんな場所かは知らないけど、ここと然程(さほど)変わらないなら、むしろ安全だし、良い暮らしが出来る。看守と良い仲になれば、楽勝でしょ。

無理して逃げるリスクを考えたら、大人しくして、(あと)から組織に助けを求めれば、刑期は途中で免除されるかもだし、アタシにだって箔がつく。

アタシは、ただの付き添いでアークランドに来ただけ。頼まれたから、何も知らずに来ただけよ。暗殺なんて、何も聞いてない。何も知らない。コレで通せば、良い。

その夜は、昨日より震えずに眠れた。


翌日、この収監されている部屋から出る事は無かった。

昨日のアレで終わり?あんなに短い会話で、アタシの人生を何年も、奪うつもりなわけ?

冗談じゃない!あのガキはどーなったのよ!


「ねえ!弟がどうなったか教えなさいよ!」

「一緒に来た弟は、何処に連れて行ったのよ!」

配膳の男や看守の男に、何度 聞いても、誰一人として、返事すらしてこなかった。

イライラする。このアタシを無視するなんて、有り得ないでしょ!!

食事のスプーンで、鉄格子をカンカン叩いて

「弟に会わせろ!」「呼んで来い!!」と、何度も何度も、声が枯れるまで騒いだ。

それでも、誰も来なかった。

ただ、食事のスプーンは、こちらがトレーに戻すまで、食事に付けては、くれなかった。

留置場が、ガラガラだとは思ってた。だけど、今日まで気づかなかった。この留置場には、アタシ以外、誰もいない。

騒ぐのを辞めた。



そうして、誰とも会話すること無く、何日も過ぎて行った。

もし、この建物に置き去りにされたら、アタシは餓死するしか無い。

音を立てない様に、何度も鉄格子を()すってみたけど、びくともしなかった。

何だって良いから、人の居る牢に移して欲しい。

恐ろしくて、ただ恐ろしくて、給仕の男に何度も話しかけた。

考えるかぎり、丁寧な言葉で。

「食事をいつも有難う。アタシは、いつ移送されるの?」

「今日も美味しかったわ。出来ればで良いのだけど、次の尋問が分かれば教えてほしいの。」

「おはようございます。ねぇ、アタシとは、挨拶も禁止されてるの?アタシが話しかけたら不快かしら?ご、ごめんなさいね。」


髪が抜け始めた。

せっかくだから、一本だけ、椅子の脚に結んだ。

コレで、何日経って行くのか、忘れないで済むわ。

けれど、二日に一度の入浴の後、結んでいた髪の毛は無くなっていた。

あぁ。そうか。入浴の間に、掃除してくれていたのだわ。

「掃除をしてくれていたのね。有難う。椅子の脚に髪を結んだりしてごめんなさい。嫌がらせじゃ無いのよ。日数を数えたかっただけなの。もうしないわ。」

あいかわらず、誰も口を聞いてくれなかった。

それでも、挨拶だけは辞めなかった。

「美味しかったわ。有難う。」

「部屋の掃除を有難う。」

そして、さらに何日か経ったある日、中庭の様な所に出してくれて、しばらく芝生の上を歩いたりした。

お風呂は二日に一回。その間に、ベッドのシーツを交換してくれたり、掃除を済ませてくれている。

中庭に出して貰えるのは、五日に一回。

数え出してから、間違えてなければ、三週間以上が経ったある日、あの、尋問された時と同じ部屋に、連れて行かれた。

部屋に入ると、この前と同じ女性が座っていた。

その他にも白衣を着た女性が入口側の角に用意された椅子に座っていた。その女医の座る壁際に、簡易ベッドが置かれている。前には、無かったのに。

もしかして…拷問…


恐ろしくて、吐きそう。



もう、失敗はできない。挨拶しなくちゃ。

今日(こんにち)は。」

自分でも思った以上に、声が弱々しくて、手がカタカタと震え出した。




白衣を着た女性が、「緊張していますね。何か、飲み物をお持ちしましょうか?」と声を…そう…私に声をかけてくれた。

何も喉を通る気は、しなかったけれど、断ると気を悪くするかも知れない。

小さな声で「ありがとう…ございます。」と、だけ答えた。


木のカップに、ハーブティーを入れて、私と、私を尋問する女性に出してくれた。

尋問の女性は、女医に「有難う」と言って受け取ったので、私も「ありがとう…ございます。」と言って、置かれたカップに(くち)をつけようとしたけど、手が震えて、上手く持てそうになかったから、そっと手を机の下に下ろした。


「それでは、始めましょう。先日、看守から報告が有りました。」

騒いだからだわ。スプーンで、カンカンしたから…だから、だから、何か言わなくちゃ。あ、あぁ。

私が焦っていると、私の返事を待たずに話してきた。

「食事は、とれている様ですが、抜け毛が酷くなっているとの事ですので、先生に診てもらいます。医師の質問には、素直に答えてください。分かりましたか?」

私は、「はい。」と、小さく答えた。

尋問する女性と、女医さん以外の男性は、部屋を出て行った。

医者に診てもらうなんて、これまで無かったから、何をされているのか、分からなかった。私は子犬みたいにカタカタ震えた。


「どこか、痛いところは有りますか?」


「食事の前後で、腹部に違和感や痛みは有りませんか?」


「睡眠は、とれていますか?」


「下痢が続いていたりは、していませんか?」


拷問されるかもと思った小さなベッドは、診察台だった。

ひと通り診てもらって、それから、その女医さんは、部屋を出て行った。



そして、書く人と、男の人が入って来た。



目の前の、私を尋問する女性をとにかく見つめた。

「まず、以前に話したところからもう一度、説明しますね。

しのぎ代にみかじめ料、挨拶料に、守料(もりりょう)

これらの言葉は、脅迫、恐喝、シルシの単語で、

意味を理解する者にとっては、説明する必要すら無い、(ちから)を持つ単語です。よって、ここアークランドでは、それらの言葉を使って、他者に確認したり、提案したりすること自体が禁止されていて、処罰対象になっています。

貴方は、その言葉を口にしました。(ゆえ)に拘束され、罪に問われています。その事は理解していますか?」


「はい。」


「貴方の身分証は、アメリアとなっていますが、ご自身で仰った様に、本名はマチルダですね。その事について貴方の(くち)から説明してください。」


「アメリアと言う名の女性から、借りました。どうしても、ある男の子をアークランドへ連れて行かなければならないからと、それで、紛失した事にして、私の顔の似顔絵に差し替えて貰い、本物の身分証を作って、それで、…それで、この国に入って…誰に頼んだのかは知らないの。」


「貴方は、闇組織、掃除屋と呼ばれるセタースの組織の人間ですか?」

びっくりして、思わずそのまま聞いてしまった。

「フォルカーが、そう言ったの?」


「いいえ。あの少年には、いっさい尋問をしていません。保護対象者ですから。これから先も、我々が彼から何か情報を得る事は、ありません。子供ですからね。けれど、自分の名前だけは、病院で教えてくれました。それだけです。」


「病院?ど、何処(どこ)か怪我でもしたの?そ、それとも病気に、」


「大丈夫ですよ。少し足を引き摺っていたので、病院で診てもらっただけです。酷い靴擦れをしていたので、消毒と軟膏を処方してもらいました。今は綺麗に治っているので、心配いりません。」

そんな事、私には、一言も言わなかった。傷が治ったと知っているなら、拘束されたに違いない…これくらいなら聞いたって問題無いはず、だけれど、また、いつ話しを打ち切られるか分からない。それでも、聞かずにいれなかった。

「その…。フォルカーも牢に入っているの?」


「いいえ。保護対象者が、拘束される事はありません。まだ、とても幼いですからね。先程も言いましたが、彼が尋問を受ける事はありません。したがって、牢に入る事もありません。他に質問は有りますか?」


「あの子だけ、帰って、私は、これから…も、あの鉄格子の部屋で、その、一年と、それと…それと五年を一人で、過ごすの?」

誰も口を()いてくれない。この建物に、一人だけ。

話しを打ち切られたら、どうしようと思いながらも、どうしても知りたかった。

「少年は、我が国が責任を持って、育てていきます。ですから、隣国へ帰ることはありません。その為に保護しました。彼は安全な場所で、穏やかに暮らしています。

ですので、今後は彼に関する心配は、不要です。

貴方の処遇については、我が国における犯罪行為は、先に伝えた、みかじめ料の件と、公的文書偽造の二件です。ですが、貴方の祖国、隣国で既に貴方が犯罪を犯していた場合は、貴方の身柄を隣国へ移送する事になります。」

犯罪?国に居た時、私は、別に捕まって無い。何が有るって言うの?凄く嫌な予感がした。私が黙っていると、


「他に質問は有りますか?」と、尋問の女性が聞いてきたので、「私の所為(せい)で、セタースが罰金を払うの?」と、咄嗟に思ったまま、聞いてしまった。

それでも、尋問の女性は、表情を変えること無く言ってきた。

「それ以前に、ボスや幹部連中と構成員は、全て牢に入れたと、随分前に報告を受けています。貴方が、我が国へ入国した日と、同じ頃だった筈です。ですから、彼らが貴方の為に、何かをするのは不可能でしょう。入院中の、ジュール氏との接触が確認され、組織の捜索許可が下り、暗殺依頼書が発見されたので、双方とも捕まりましたよ。」


言葉が見つからなかった。だったら、そうよ、それなら、そう、あいつらは、私のことなんて、自分可愛さにいくらだって売れる。有る事、無い事、なんだって喋る。

情報の出所はフォルカーじゃ無い。普段は偉そうにして、肝心な時には、逃げることしか考えていない、あのクソったれな連中が、私を売ったんだ。それで、こんなにも、留置場で待たされるハメに…。



怒りで、頭が割れそう



翌日も、尋問の部屋へ行った。

知ってるわ。この顔。

確か、前の法の番人。ブチ切れて、国を捨てた男。

そんな偉いさんが、私に一体、何の用が有るのか、検討もつかなかった。



まず、今まで一度も見たことの無い、線の絵を机に置いて説明し始めた。

ジュールの指紋と掌紋。殺害依頼書に残された同じ証拠。

筆跡鑑定。


レイ長官の、暗殺依頼についての証拠説明だった。


そして、私の指紋。

私のDNA。

あの日の、短剣。

どす黒く変色した洋服。

夫婦と少女の似顔絵。


あぁ。そうだった。そんな事もあったわ。

随分と、昔の記憶が、鮮明に蘇った。

それは、私の初仕事だった。



殺害依頼書と今のボスの証言。実行犯は私だと、そう組織が、認めたと言われた。

その証拠も聞かせてくれた。白い小さな四角い物から、聞き慣れた声が次々と溢れ出した。

みっともないほど、ペラペラと、必死で話す声の数々。

アイツには、プライドが微塵も無い。

組織の男どもも、同じ様に腐った連中だった。


13年。あの男の、女になって13年。それなのに、こんなにアッサリ裏切るような、そんなグズだとは、流石に思いもしなかった。


「愛してるいるのは、お前だけだ。」


「今、婚姻するのは、無理だが、子供が大きくなるまで、待っていてくれ。必ず一緒になろう。」


「嫁とは、とっくの昔に終わっている。愛しているのはお前だけだ。」


「マチルダ。お前が居てくれるから、俺は生きていれる。」


「お前と居る時だけが、本当の俺でいれる。」



「お前と別れるくらいなら、俺は死ぬ。」





いつだって、会えば「愛してる」と言って

私を抱いた。何度も、何度も、優しく抱いたくせに。



その同じ声が、「一緒に、なるわけが無い。」と、バカにしながら笑っている。

どんな要求にも応える女。

他の男とは寝ない。

だから性病の心配も無い、都合の良い女。



自慢げに、大物ぶって、話してる。





その夜、人生で初めて、吐きそうになりながら、溢れる笑いが込み上げてきた。ハッハハハ。

騙されていたのだと、これ以上無いほど、ハッキリと自覚した夜だった。

涙が、たった三滴、石の床に、ポタ ポタ、ポタりと、落ちた。



あー。殺したい。




数日後、私は、もと居た、ゴミ溜めの国へ護送された。




お読みいただき、ありがとうございます。

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