ある日ある時ある瞬間
キーワードにオチ予告が有りますので、ご注意下さい。
自分の朝は早い。
なぜならば、やることが沢山有るからだ。
起きて洗顔して、朝食を用意して、歯磨きして、洗濯して、今日の服を選んで、メイクして。
ほかにも色々やらねばならない。
男の朝なんて目ではない。
あんなパパッと済ませられるほど、雑に出来ていないのだ。
しかも今日は休日で気晴らしに歩き回ろうかと思っているので、淡い色で家具を統一した清潔感あふれる部屋で施すメイクにも、気合いが入る。
なぜ気合いが入るって?
女からの目が怖いからだよ。
女の嗜み、女の常識。
そう言ったモノが出来ていないと、女はこぞって敵意を向けてくる。
お前みたいなのがいるから、女は舐められるんだ。
こっちは気合いを入れないとヒトに見せられない顔なのに、オメーは気楽でいいよな。
メイクは女の標準装備なのに、身に付けてないお前はアホなのか?
良い歳して、メイクひとつも出来ないのかw
うわー、あいつの肌きったねー。
理由は様々だし、何も思わない人だっているにはいる。
でも、その悪意を向けてくる人が強烈過ぎて、埋もれてしまうのだから居ないも同然。
ついでに着る服ともメイクの質を合わせないと、それはそれで良い顔をされないなんて、世の無情もある。
よって、お出かけスタイルであるならば、嫌でもメイクに気合いを入れなければならない。
今は冬と春の間と言っても良い、不安定な気温も考慮して春用コートを主役とした装いに決定。
前は開けて、薄めのニットが見える様に。
下は歩き回る事を想定しつつも、春らしい色で大人らしい落ち着きを目指してレギンスパンツと膝下丈のスカート。
それにローヒールのショートブーツ。
…………全体で見たら失敗かも知れないが、気合は伝えられるだろうから、まあヨシ。
バッチリとキメ過ぎてもあれこれ言われるのだから、少し失敗に見える方がむしろ良いかも知れない。
ストレートロングの髪の寝癖チェックも済ませ、財布や小物を詰めた小さめのショルダーバッグを持って、いざ出発。
~~~~~~
家を出てのんびり歩く。
今日向かう先は決めてある。
小さい頃に、親と遊びに行った遊園地擬きの施設。
大型遊戯施設と言った方が近いかもしれない。
……大昔にデパートなんかで存在した、大型遊具が置いてある超大型のゲームセンターの方が、もっとイメージしやすいかもしれないが。
しばらく行っていない、それの現在を見に行ってみよう。 そんな目的だ。
もちろん満足するまで見て回ったら、そのままの足で買い物とかもするつもりだが、一番の目的はそれ。
すでに朧気になった記憶から、目的地への道をなんとか引っ張り出して歩く。
………………ああ、懐かしい。 と言える感じじゃない。
当時の記憶と合う風景、全く別物となった町並み。
どれもこれも覚えているような、いないような。
こんな家や店が有ったかな?
そこの畑はまだある。 こっちは建物が建っている。
あのボロ家、まだボロ家のまま残ってるよ。
そんな昔との違いを確認できる記憶は少なくて、その中でもなんとか覚えていた道しるべとなるモノを探す作業を優先する。
~~~~~~
ついた目的地は記憶の頃と比べて、随分ボロボロになっていた。
経年劣化もあるが、それ以上に補修らしい補修があまりされていなくて、その補修されたあととの比較で、傷むまま傷んでいる所がよりボロさを強調していた。
敷地内には年代の経過で増えた、合計で3つの建物があるが、どれもこれもがすでにオンボロ。
木の壁はペンキの塗り直しもほとんどされておらず、ハゲて地肌も削れるがままに草臥れている。
コンクリートの壁もシミなんかの汚れや削れ痕が目立ち、ひどい部分は隠す様子が 継ぎ接ぎみたく見えて、逆に惨めだと感じる。
遊園地に有りそうな的当てゲームなどの体を使う遊具の類いも、布当てやらビニールテープ補修やらで、原型しか留めていない。
ボサボサ頭で、メイクが落ちて、傷だらけのピエロがカクカク動く遊具なんて、もはやホラーの領域だ。
ビデオゲームが出る前から存在していたエレメカとよばれる、大型遊戯用筐体も同じ。
エレメカと一緒のスペースに置かれた、稼働しているビデオゲームの筐体はめっきり数を減らし、しかも遊べるゲームは10年は前の古いものばかり。
稼働していない筐体は建物の隅に固めて置かれており、それが一層の空しさを誘う。
この施設の利用者はみな、オールドゲーム愛好家や、なんとなくやってきた風の家族連れ位。
しかもその数は昔と比べるまでもない程に疎らで、時間の流れを嫌でも感じさせる。
自分はそんな施設の敷地内を、昔の思い出と共に歩き回る。
ここにあったあのゲームを、親に止められるまで良くやっていたな。
今は無いけど、カウボーイっぽい姿をしたおじさんのポップコーン自販機で、おじさんが手に持っていた紙コップをずーっと飽きずに観ていたな。
派手な演出や動きをするメダルゲームを好きで遊んで、使いきれなかったメダルを預かるサービスがあったけど、もう保管期限はとっくに過ぎているな。
改めて見てみるが、昔からあのピエロのゲーム筐体は怖かったけど、今は凄みさえ感じるな。
あのピエロに「ハイ、ジョージ!」なんて不意に話しかけられたら、直ぐ様逃げる自信がある。
……いや、腰を抜かして動けなくなる線もあるか。
そんな懐かしがる気持ちのまま散歩していたが、どうしても気になってしまう部分がある。
「………………」
途中からどうにも、目障りなモノがチラチラと視界に入るのだ。
「………………」
ほら、また。
それは目に余るほど軽薄で、周囲へ無駄に威圧感を振りまく迷惑者。
その名も“オラオラ系チャラ男”
そいつが歩き回る先々で現れて、薄気味の悪い視線でこちらを見てはニヤニヤニタニタと、不快感しかないニヤけ面を残して去って行く。
この静かな場所に相応しくない、場所を目的とせず、場所に集まった獲物を目的とする迷惑な捕食者。
もちろんこんなのがこの場に何人もいる訳は無いので、一人の人物がそれを行っている。
――――折角の気晴らし散歩だと言うのに、こんなのと会うなんて。
いい加減、しつこさに負けて散歩は終了。
買い物しようと気持ちを切り替え、ここから離れた。
「………………」
離れたのは良いのだが、悪くもあった。
「………………」
ロックオンした獲物の隙を狙う鮫の如く。
先程と変わらずニヤニヤニタニタと、たまにこちらの視界に入っては姿を消す動きを続けている。
――――本当に最悪だ。
こいつらにリアクションは厳禁。
なにか反応をひとつでもしようものなら、獲物とした相手へ無造作に食いついてくる。
こちらに出来る事は、大声をあげるか防犯ブザーを鳴らすか通報するか――――
――――逃げるか。
~~~~~~
どこをどう通ったのか、覚えていない。
あのオラオラ系チャラ男のロックを外す為に、とにかく歩いたからだ。
それでもついてきてニヤニヤニタニタし続けるチャラ男から逃れるべく動き、気が付いたらどこかの大型スーパーらしき店内に居た。
辺りを見回してチャラ男がいないのを確認するが、念のためにテナントの本屋で立ち読みするふりをして、いましばらく警戒。
流石にもう、諦めただろう。
飽きるほどに近くを通る者の監視をしたが、奴は現れない。
ほっと、一息吐いて本屋から出た。
のだが――――
「………………」
いた!
しかも目の前に!
まだこちらを狙っていやがった!!
オラオラ系チャラ男の視線は変化を遂げて、イライラニチャニチャしていた。
奴の内心ではどうせ、
手間をかけさせやがって、このクソアマが!
なんて一方的で理不尽な怒りが込み上げているのだろう。
身の危険しか感じられない状況に、足は意識せずとも速く動き始めた。
相手は男。
ならば男が入りにくい場所まで逃げ込めば良い。
その判断で女性用下着売り場まで行こうとして、その近くにある女性用衣料品売り場まで来た。
もうすぐ逃げ切れる。
はずが、そこで不意に脇から伸びてきた手に腕を掴まれた!
思わず掴んだ者を確かめようと、犯人を見たのが悪かった。
「………………」
そう。 犯人は誰あろう、オラオラ系チャラ男だ。
これは不味い。
こんな展開になれば、碌な事にはなりゃしない。
嫌な未来と共に掴んできた手を振り払おうとする。
が、それは無理だった。
この体は女の体。
相手は威圧感を放つ、がっしりした体格。
力の差は歴然。
自分の腕にどれだけの力を込めてもビクともしない。
これには恐怖しか無かった。
自分の体なのに、自分で動かせない。
掴んできた不届者に、自分の体を自在に動かす権利が奪われた。
恐怖に完全に染められてから、それへの反発じみた嫌悪感しか抱けない相手に、自分が好き放題される。
このギラギラヌチャヌチャした瞳の、クソ野郎に。
それを否として、いくら抵抗しようが無意味に終わる。
……終わる。
今日の出かけた先で何か良いことに出会えれば良いなと、期待するウキウキも。
好い人と巡り会って、何も悩みなんて無く幸せになりたい未来も。
なんだかんだ心の奥底にある、表に出すのは恥ずかしい乙女な部分も。
なにもかもが終わる。
いやだ。
そんなのは認められない!
認めたくない!!
この体に反発心から来る怒りが沸々と沸き立ち、爆発する寸前にふと、自覚してしまう事があった。
~~~三人称から一人称へ~~~
これ、夢じゃん。
夢オチ? 最低だろ。
そんな事を思っても、仕方がない。
だってこれ、本当に夢の中の世界なんだから。
明晰夢って奴だよコレ。
ははは、なんで今まで違和感が無かったんだろうね。
さすが夢って所か。
だって俺は、現実では男なんだから。
ならばこのゲス野郎を追い払う方法はいくつか有るだろう。
夢の中なんだし、何をしても願った結果が出るだろうから。
さて、ではでは強いのを一発、やってみましょうか!
出す声を意識して、いつもよりドスの効いた感じに……っと。
よし。
「俺は男だ馬鹿野郎っ!!!」
「っ!? すみませんでしたー!」
某男装で有名な劇団の頑張って作った様声ではない、圧のある威嚇する男の声を受けたチャラ男が逃げて行く様子を見ながら、夢から覚める感覚が俺を包んでいた。
ある日=一回り半位は前の日
ある時=寝ている時
ある瞬間=これが夢だと自覚した瞬間
はい、マジモンの夢(で見た内容を書いた)小説です。
こんなのを自ら晒すなぞ、なんて盛大な恥晒し( ̄▽ ̄;)
…………自分でやっといて、なに言ってんでしょうかね(錯乱)
いやー、20年近く前に見た夢ですが、所々を忘れていたりしましたが覚えているもんですね。
大筋は書いた通りです。
欠けている描写があるとすれば、自分が忘れてしまった部分かそもそも夢に登場していなくて認識外だったか。
あとは話を盛り上げる?説得力を持たせる?馴染みやすくする?為に、現代風に少~しだけ書き直したり書き足したりした位の違いしかないですね。
ガラケーが普及しはじめたり、防犯グッズが碌にない時代でしたし。
出来るだけオチで「なんじゃそりゃ!?」や「ふざけんな!!」感を出すために、一人称(俺の方)を出さない様に気を付けました。
ちなみにセリフが少なすぎる理由ですが、実際に夢の中で明確に喋ったのは「俺は男だ馬鹿野郎!」のみなので、そこは忠実に再現してあります。
ノクターンな物だと「俺は男だ」なんて、そっちのシーンへ移るトリガーワードみたいな物ですが、男声をちゃんと出せたので追い払えたんでしょう。
…………夢の中だから~とか、大声を出したから周りに注目される事を嫌って逃げたんだろとか、そう言った意見はミエナイキコエナイ。
つーかアレですよ。
腕を掴まれて逃げられなくなる恐怖と嫌悪感を、まさか夢で体験するとは思いませんでした。
それ以降、どんな女性にもあんな無体はしちゃならん。 そう心に刻まれました。
以下、毒にも薬にもならない余談
この夢の話には(個人的に)面白い裏話がありまして。
実は自分、小さい頃からハタチになるくらいまでに見た夢で、いくつか見たあともハッキリ覚えていたのが有ったんです。
それは大体共通していて、みんな同じ世界観の夢だったんですよ。
現実の知り合いが夢に出てくるのは序の口。
時には連日で連続した夢を見ていたり。
以前見た夢から時間が経った夢で、経った時間分だけ夢の中の町も変化したり。
特に今作の大型遊戯施設も、大昔の夢で新築だった頃に遊びに行った夢を本当に見ていたり。
電車に乗った夢で、しばらく後に再び乗った夢を見たら、以前は行けなかった駅まで線路がのびていたり。
中学生の頃までだったかな? ちょっと特殊な気合いの入れ方をすると、宙に浮いて飛べたり。
……飛べる様になり始めた頃は本当に飛べたんですが、時間が経つと(もちろん夢の中で、ですよ?)飛べる気合いの入れ方が分からなくなって来たり。
近くの商店街まで行って迷子になったけど、時間が経って改めて見た夢だと迷子になった記憶から、今度は迷わないよう学習していたり。
その商店街の外壁が、以前と比べて古くなっていたり。
小学生の頃に見た夢の中の遊園地が、高校生の頃に見た夢だと、遊園地が縮小されてお土産コーナーのなごりみたいな、ここに遊園地があった記録を展示した商業ビルしか残ってない芝生になっていたり。
海と見間違える程に大きい湖を誇る、クジラを目玉にした超特大アミューズメント施設が、時間が経つと閉鎖されていて世の無情を感じたり。
前述のとは違う大きな遊園地は時間が経つごとにアトラクションが増えていったり。
その遊園地のアトラクションで、ヒトの命に関わる位やり過ぎな物があって問題になったり。
同じ遊園地で大地震が起きて、絶体絶○都市ばりに衝撃展開をしたり。
地震から復旧した同遊園地に、一人に一体護衛兼用のメードロボが配備された女児達の内のひとりになって、修学旅行?遠足?っぽいもので遊びにきて、なぜかまた大地震が起きたけど2回目だから落ち着いて行動して。
途中で何作品かの有名なアニメキャラと鉢合わせるイベントをしたり、帰る直前でメードロボが消えて、見付からないままに帰ることに……なんて夢だったり。
今回のほどハッキリと思い出せるものは無いですが、夢の世界でも自分が生きていたんですよねぇ。
最近はそう言った夢を見てません。
もしかしたら、ただ忘れてしまっているだけかも知れませんが。
ああ、またあの夢の世界を見られたら面白いかも……程度だし、見られても今更感が無いわけでもないですが。