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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者は名前を知らない

作者: 三谷玲

<ボーイズラブ要素を含みます>

ちょっと出来心で書いたものなので生ぬるい目で読んでください

 ヤバいヤバいヤバい。

 ちょっと使えるようになったから手を振ったら炎出ちゃった!

 村が燃え尽きたころに王都から騎士団が来たけど生き残ったのは僕だけだから、僕がやってしまったっていうことは黙っておこう。

 というかなぜ騎士団が? と思ったらこの村に勇者がいたらしい。

 勇者が火事で死ぬ訳ないから僕が勇者?

 いやいや、絶対違うよね?

 確かに孤児でしかもこの村では髪の色は金か赤で、僕は黒にしか見えないこげ茶だったからよそ者扱いで煙たがられてていつも汚れ仕事させられてたけど、別に焼き尽くすつもりはなかったんだよ? まさか村人に勇者がいるお告げがあったなんて、知らないし‼

 多分あいつじゃない?

 みんなから嫌われてた僕にも声掛けてきてた変わった奴。キラキラしてたもんな。金髪でキラキラしすぎていて直視することもできない、キラキラ男。

 炎に包まれてる僕の家に真っ先に来てそのまま……ごめん。

 名前知らないけど。


 って考えてる間に騎士団に拉致られて王都来ちゃったよ! どうすんのこれ!

 勇者じゃないのバレたらどうしよう?

 王様がなんだかんだと理由を言ってたけどさっぱり分からない。魔王が世界を滅ぼそうとしてるって言われても、村では特に何も起きてない。僕が焼き尽くすまでは……。

 勇者が現れたこと自体が前兆なんだって言われても、僕は勇者じゃないからね?

 それなのに無理やりなんか屈強な戦士さんとなぜかセクシーな僧侶さんと爺の魔法使いさんと魔王退治をする羽目に!

 ヤダヤダ! どうせならハーレムパーティーがいいよぉ!

 なんで男しかいないんだ! どうせならビキニアーマーのお姉さんとか、禁欲的な僧侶のお姉さんとか、かわいい魔女っ娘が良かったよぅ。

 

 って王都を追い出されたら、いきなり四天王のひとりにエンカウントとか聞いてない! 挨拶代わりってなんだよそれ‼

 ってコイツどっかで見たことあるなぁ。

 でもロングの黒髪の知り合いなんていないし……。しかもめっちゃ強いぃ!

 ボロボロにヤラレちゃった……。死んでしまうとは何事だって言われても‼ 僕戦ったことなんてないんだからねっ!


 なんだかんだで旅は続いた。何度も死んで何度も生き返らせてもらって、パーティメンバーからはお荷物扱いされている。申し訳ない。

 僕以外のみんなはレベルアップしていくのに僕のレベルはようやく二桁になったところ。魔法使いの爺さんは剣のスキルも取得して魔法剣士になったし、僧侶のお兄さんは今や大賢者。戦士さんはもういっそ勇者でよくない? 派手な鎧も着こなしてるよ。

 旅の途中で祠に行ったら女神だっていう鳥の羽と蛇のしっぽを持ったセクシーダイナマイトなお姉さんがお告げをくれた。

 勇者の剣を探せ? 知らんがな。

 剣なんて持ったことないし‼

 それらしいところを回ってみたけど結局、僕が焼いた村の地下にある洞窟で見つかった。

 これぞ、灯台下暗しってやつだね! 騎士団ちゃんと探しとけよな!

 早速装備をしてみろと促された。

 なん……だと? 装備出来ない……?

 やっぱり僕勇者じゃなかったー! お役ごめんだよね??

 え? だめ?

 一般人だから! ちょっと魔法が使えただけの、一般人だから‼

 だいたいあの炎だってあのときだけだしなぁ……。

 戦士さんも装備できないし、魔法剣士の爺さんもダメだった。大賢者様は触れるのさえ嫌がったから、結局僕が装備も出来ないまま持ち歩くことに。お、重い。


 村から出ようとしたらまたあの黒髪ロン毛の四天王って人が来た。

 今回は僕以外の人が頑張ったからね! ぼろ負けってことにはならなかたし、僕も死なずに済んだ。でもアイツ、途中動きがおかしかったな。大丈夫かなぁ……って敵の心配する必要はないか。

 でも、最後に僕を見たときの顔。やっぱりどこかで……。


 他の四天王すら来ないうちに魔王城まで来ちゃった。どうしよう?

 なんか拍子抜けというか、魔王城は静かすぎて迎え入れられたって感じ。誰も襲ってこないまま、魔王の間に着いちゃった。


 魔王様に世界をやるって言われたよ。

 半分じゃなく、全部。

 そんなもの要らないんだけどな。


 そっか、やっぱり僕勇者じゃなかったんだなぁ。

 彼が勇者だったんだって。

 あの炎の中助けに来てくれた彼、キラキラ男。

 僕が騎士団の人に連れられてる間、彼は……魔王様に助けられたんだって。

 魔王様がなんで、彼を助けたかって?


 僕が魔王様の子どもだから。


 僕の魔法を感知した魔王様が村へと舞い降りたけど、そこに残っていたのは勇者の彼。瀕死の彼に魔王様は勇者の力を奪うため力を与えた。

 その時彼は一切抵抗をしなかったって。

 彼は魔王様の子どもである僕のために勇者じゃなくて、魔族になりたいって。そのとき記憶を消されたらしい。魔王様、マジ魔王様。


 そう、あの黒髪ロン毛の四天王がキラキラ男で本当の勇者だった。


 勇者の剣の力ですべてを思い出したけど、もう彼には勇者の力は残ってなかった。

 僕が魔王様の後を継ぐなら四天王として残るので問題ないって。


 バカだな。

 僕、君しか話しかけてくれないのに君の名前も覚えていないのに。


 世界なんて要らないから戻してあげてって魔王様、もといお父様に泣いてお願いしたけどもう無理だって。

 彼も勇者なんかにならなくていいって。


 バカだな。

 僕、髪の色が変わっただけで気付けないくらい君のこと知らないのに。


 だから、僕は世界をもらうことにした。

 僕が魔王になれば、人間と戦うの辞めたらいいんだもん。

 魔王様にはもうほとんど力は残ってなくて、だから魔王様の子どもである僕を器にしようとしていたらしい。どうやら魔王様、昔人間界に降りたときにうっかり唾を吐いたらしくそれが僕らしい。僕、唾から生まれたんだ……。

 唾から生まれたひ弱な僕じゃ、いくら弱ってるとはいえ魔王様の力を全部もらうのは無理で彼が半分もらってくれた。さすが勇者、いや元勇者?

 ふたりで魔王をやることになった。

 魔王様の知識みたいなものがどばぁっと頭の中に流れてきて、飲み込まれそうになったけどそこは勇者の彼のおかげか、どうにか僕は僕のまま魔王になった。

 彼の髪色はさらに黒くなった気がするけど、気のせいだと思うことにした。もうキラキラ男だったころの面影がないけれど、あの頃みたいに彼だけは僕を見捨てないんだって今は分かる。

 これも魔王様の力を分けたおかげかな?

 彼の気持ちがストレートに伝わってくるので、僕はときおり困ってしまう。

 多分、いつか彼に喰われちゃうだろう。もちろん、比喩的な意味で。


 問題は山積みだけど、僕は偽勇者のまま魔王を倒したことにして王様に報告した。パーティーのみんなと相談して、僕が魔族に対して牽制を効かせることで、彼らに悪さしないようにお願いするってことに。

 魔族って別に大した悪さをしてたわけじゃないらしい。勇者が現れるのは魔族を倒すためだーっていう古代文献のせいで王様が早合点したらしい。魔王様は僕を器にして復活したら世界制覇を目指していたらしいけど。魔族の総意ってわけじゃないらしく、だから四天王も彼しかいないらしい。じゃあ四天王なんて言わなきゃいいのに……。

 ある意味僕は世界を救ったのかもしれない。

 お荷物だった僕だけど、みんな最後まで助けてくれた。ありがたい。

 どうやら彼らは最初から僕が勇者じゃないことには気づいていたみたいだけど、勇者なんて面倒ごとは任せてしまえばよいと思っていたらしい。ちょっとひどい。


 今僕は魔王城に住んでる。

 四天王の彼と一緒に。

 相変わらず名前は知らない。


 実は僕もない。



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― 新着の感想 ―
[良い点] スッキリ文章読みやすかったです。 悲劇から始まったかと思えばそんなこともない。 世界は主人公にとってシビアかと思えば、そうでもない。 なんだかんだで丸くおさまってホッとしました。 攻めの健…
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