8.レベル15
敵と戦うには、こちらが先手を取る必要がある。
だから基本的に煙の索敵をこまめに行って探索を続けた。
俺はその煙で見つけた標的に向かって、気配を殺して近づいていた。
クモのような姿の球体だ。壁にべったりとくっついている。かなりでかい。
一面にはクモの巣が張り巡らされている。たぶん、こいつがSPを使って作った罠だろう。
クモの糸を避けながら隠密で接近するのは大変だったけど、ようやく射程範囲内まで近づけた。
奴は俺に気がついていない。
ぼわん。
俺は煙の能力を発動し、クモの体をがしっと掴んだ。煙の手がロケットのような尾を作りながら上昇して――、
「ウラァァァ!」
近場の岩へクモを全力で叩きつけた。
ぐしゃり、と気持ち悪い感触が煙を通して伝わってくる。
瞬殺だ。
【――レベルアップしました】
【――スキル『隠密Lv2』を獲得しました】
【――ステータスを表示します】
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名前:なし
種族:魔物のコア
レベル:14(+1)
SP:84
HP:30/30(+2)
MP:12/13(+2)
攻撃力:12(+1)
防御力:12(+1)
敏捷性:12(+1)
魔法攻撃力:7(+1)
魔法防御力:7(+1)
魔法:
『切り裂く風』、『飛行』、『忍び寄る闇』
スキル:
『言語理解』、『根性』、
『片手武器Lv3』、『集中Lv1』
『隠密Lv2』、『防御Lv2』
『毒耐性Lv1』
『風・闇属性魔力操作Lv1』
『★煙の支配者』、『☆パーツ作成』
称号:
『異世界からの来訪者』、『耐えるもの』
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……よし! 倒したぞ!
この階層で倒した敵は、こいつで四体目だ。
レベルは14になった。この階層は敵は強いが数は少ない。煙の支配者の力を使えば安定して勝利することができた。
散らばったクモ型球体のそばに縦穴がある。事前に調べたところ、この先にも宝箱があるのだ。
このクモは不幸なことに縦穴のそばにいたせいで俺に始末されてしまったというわけだ。
ばさばさと翼を動かして縦穴の中をのぼっていく。
すぐに奥へたどり着いた。
ここも小さな空間に宝箱が一つぽつんと置いてある。
開けようとしたが、鍵がかかっているようだ。ふふん、俺には関係がないけどな。
煙を鍵穴に入れてカチリと開く。
「フフ。ヤッタゾ」
想定したとおり、ここにも赤い魔石があった。スキルを覚えられるやつだ。
実はここに到着するまでにも宝箱をいくつか見つけていたが、他の宝箱は簡単な場所にあったし、鍵もかかっていなかった。
それらの中にあったのは二階で見つけたのと同じ魔石だ。
現在のストックはこうなった。
白の魔石:HPを回復する。×7
黒の魔石:MPを回復する。×9
青の魔石:STを回復する。×8
紫の魔石:対象を鑑定する。×3
これももちろん助かるけど、やっぱりスキルを覚えられる赤い魔石の方が嬉しい。
きっと貴重なものだから、こういう感じで隠されているんだろう。レアアイテムってやつか?
さて、この魔石の力はなんだろう。
――お、これは!
説明を見てから、俺はさっそく魔石を口に放り込んだ。
【――スキル『雷属性魔力操作Lv1』を獲得しました】
【――スキル『雷属性魔力操作Lv1』の効果により、魔法『雷の矢』を習得しました】
【――条件を満たしました。魔法『疾風迅雷』を習得しました】
やった。色々、覚えたぞ。
あらためてスキルを見てみるか。
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名前:なし
種族:魔物のコア
魔法:
『切り裂く風』、『雷の矢』、『忍び寄る闇』
『疾風迅雷』
スキル:
『言語理解』、『根性』
『片手武器Lv3』、『集中Lv1』
『隠密Lv2』、『防御Lv2』
『毒耐性Lv2』
『風・雷・闇属性魔力操作Lv1』
『★煙の支配者』、『☆パーツ作成』
称号:
『異世界からの来訪者』、『耐えるもの』
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なかなか充実してきた。
スタミナ切れで煙のスキルが使えない時に魔法はきっと役に立つ。
俺が生きのびるための力になってくれるだろう。
一度実践で使っておきたい。いざというときに使えないと困るからな。
どこかに獲物がいればいいんだけど。
なんにせよ、探索に戻るか。
今のところ、この洞窟には上の階層へ向かうための階段も、出口らしきものも見つかっていない。
うーん。ここに出口なんてあるのだろうか? ちょっと不安になってきた。
それに出口があったところで、俺はどうするだろう。
…………。
こんな姿で、俺は幸せになれるだろうか?
…………。
……あー! やめだやめだ! うだうだ考えててもしょうがない。
行こう!
俺はクモがいた空間へと戻る。すると。
――あれは。
別の個体がいる。物音でも聞きつけてやってきたか?
ぷかぷかと風船みたいに宙に浮いている球体だ。サイズは大きくない。俺と同じくらいだ。
そしてその風船型球体の周囲には立方体の物体が四つあって、衛星のように球体の周りをぐるぐる回っている。
なんだあれ?
まあいいや。好都合だ。あいつを倒そう。
俺はしゃかしゃかと動き、物陰に姿を隠した。
距離は遠くない。ここから先制攻撃をしかける。
俺はやつに向かって手をかざし、照準を定める。
俺の手に魔力が集中する。稲光のようにバチバチと手の周囲が輝いている。
集中しろ――。
ここだッ!
「【雷の矢】」
魔力が俺の手を離れ、敵に向かっていった。
と同時に。
ばしゅう、と焦げるような音が鳴って、球体の周囲にあった立方体衛星が一つ落下した。
――防がれたッ!
俺の魔法は凄まじい速度だったはずだが、敵の防御の速度がさらに上を行ったのだ。
風船型球体が俺を認識した。
すーっと音もなく空中をこちらに向かって進んでいる。
同時にやつの球体に赤い光が集まりだした。もしてかしてこれは――魔法か?
まずいッ!
「――【疾風迅雷】!」
覚えたもう一つの魔法を発動する。
すると俺の全身にエネルギーが満ちたのが分かった。
「ウオオオオ!」
まさに疾風迅雷の速度で俺はその場を離脱する。
直後。
俺のいた場所へ火球がぶつかり、炸裂して一気に燃え上がった。
これは火の魔法か? すごい威力だ。
う。火を見ると、なんか胸が苦しいぞ。
……。恥ずかしい話だが、俺は火を怖いと思っているみたいだ。暗い所、狭い所に続き、火も弱点になっちまったってのか? おいおいマジかよ。
ちくしょう。さっさとこいつを倒そう。ここを離れるんだ。
まだ『疾風迅雷』の魔法の効果は持続している。
「オオオオッ!」
俺は一気に敵へ駆けていきハンマーを持って飛び掛かる――。我ながらとんでもない速さだ。
しかし、立方体がしゅんと俺の目の前に突然あらわれ、俺の前方を塞いだ。
――このッ!
俺は立方体を避けようと空中を高速で乱舞する。
しかし。この立方体はことごとく俺の目の前に現れて攻撃を妨害した。
――なんだこの四角いのは。自動防御か?
こいつは雷の矢でさえ防いだのだ。いくら俺が速くても、こいつの方が上かもしれない。
きぃんと音が聞こえた。再びやつの球体が赤い光を帯び始めている。
――ならば。
ぼわん。煙を出現させて、球体の周囲にいる立方体を全て煙に絡めてロックした。
同時に敵球体の背後に周る。今度は衛星に防がれることはなかった
喰らえッ!
球体をハンマーで殴る。
ばきっ!
速度が増しているおかげか、一撃で大きなひびが入った。
「ウラァァァ!」
高速でラッシュをしかける。
がががががが!
びき、びきき!
亀裂の入った球体が落下する。
そして。
ぼんっ!
【――レベルアップしました】
【――スキル『集中Lv2』を獲得しました】
【――ステータスを表示します】
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名前:なし
種族:魔物のコア
レベル:15(+1)
SP:100
HP:32/32(+2)
MP:5/16(+3)
攻撃力:14(+2)
防御力:13(+1)
敏捷性:14(+2)
魔法攻撃力:9(+2)
魔法防御力:8(+1)
魔法:
『切り裂く風』、『飛行』、『雷の矢』
『忍び寄る闇』、『疾風迅雷』
スキル:
『言語理解』、『根性』
『片手武器Lv3』、『集中Lv2』
『隠密Lv2』、『防御Lv2』
『毒耐性Lv2』
『風・雷・闇属性魔力操作Lv1』
『★煙の支配者』、『☆パーツ作成』
称号:
『異世界からの来訪者』、『耐えるもの』
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――よし。あの距離で魔法を撃たれていたら危なかったが、どうにか勝利したぞ。
予定通り魔法の性能も試せたから上々だろう。『雷の矢』は防がれたが、なかなかの威力と速度だった。体の動きを強化する『疾風迅雷』も使いやすい魔法だ。MPがなくて『忍び寄る闇』は試せなかったが、まあいいだろう。
【――条件を満たしました。ボーナスSPを支給いたします】
【――条件を満たしました。SPによるスキル取得が一部開放されました】
お、またこれか。
【――条件を満たしました。進化先を選択してください】
……なんだって?