表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/85

3.フィーネの場合

 フィーネはダンジョンを歩いていた。


 ここは街のすぐそばにあって、フィーネはよくここへ来る。というか、ここ以外へは行かない。街に往復さえできればどこでもよく、このダンジョンに不都合がないので、ここへやってきている。


 どこか手ごろな部屋を探す。適度に広い部屋であれば、どこでもいい。


 通路を歩いていき、目的の部屋を見つけた。ここなら、十分だろう。


 フィーネはスカートのポケットからカードを取り出した。


□□□□□□□□□

【モンスターハウス召喚】のカード

 1.念じることで発動が可能。

 2.発動した部屋がモンスターハウスに変化する。

 3.通路で発動した場合は、近くにモンスターハウスを召喚する。

 4.発動後、カードは消滅する。

□□□□□□□□□


 合計、三枚ある。


 通路で使ってしまうと、部屋のサイズがランダムになってしまうので、毎回、こうしてしっかりと部屋を選択する。


 フィーネは一呼吸してから、仮面を外した。


 ようやく息苦しいから開放される。


 カードで召喚したモンスターハウスは、扉を見ればモンスターハウスだと分かるようになっている。だから誰も入ってこないはずだ。


 仮面をつけていても戦闘に問題はないのだけど、これ(・・)をやるときは、余計なストレスを感じたくない。


 一呼吸してから、フィーネは一度に三枚のカードを同時に使用した。重ねがけすることで、モンスターの総数を増やすことができるのだ。


 黒いオーラの旋風が部屋に吹き荒れて、異形の敵の大群が、瞬く間に部屋に誕生した。


 ぐるる、とモンスターが唸っている。


 やつらの姿を見ると、声を聞くと、マグマのような熱と粘度を帯びた怒りが、腹の底から生まれてくる。


 モンスターの大群がフィーネを認識し、一気に押し寄せてきた。


「……ひひ!」


 ――銃魔法。カウンターマーチ。


 フィーネが念じると、銀色の閃光が空間に煌めくとともに、銃身が身長と同じくらいある銀色の銃が何本もフィーネの周囲に出現した。


 何本もの銃が宙に浮いたままフィーネの周りを旋回している。


 フィーネは一本の銃を手に取り――、


 ドォンッ!


 ――ぶっ放した。


 爆音とともに銃口から放たれた強い魔力の波動は、その射程内にいたモンスターを全て薙ぎ払った。


 フィーネは銃を捨て、また別の銃を取った。


「ひゃはっ、くひゃはははははは! 死ね! 死ね! ひゃはは!」


 銃を撃ち、捨てて、また別の銃を取る。


 フィーネはくるくるとダンスをするように回転しながら、爆裂音を鳴り響かせた。


 圧倒的殲滅力により、部屋を覆い尽くしていたモンスターが数を減らしていく。


 だが、モンスターはまだまだいる。当然だ。これくらいで終わってしまっては困る。せっかく三枚も使ったのだから。


「くひゃあっ! 滅殺、滅殺、滅殺、滅殺ぅぅぅ!」


 憤怒ふんどを両手の銃に込めて、敵を抹殺する。得体の知れない快感が足元からやってくる。モンスターに対する怒りと同じレベルの幸福感が、同時に体に満ちていく。


 頭がぼおっとしてきた。足が震える。よだれが止まらない。


 もう少しで最高点に達する――そんな時だ。


 ばたん! と扉が開いた。


「大丈夫かっ!?」


 ……誰だ?


 黒い鎧の男。見覚えはない。


 せっかくいい所だったのに……。


 行き場を失ってしまった怒りを、フィーネはこの男に向けた。


 ――どうして私の邪魔を。宝箱を横取りに来たのか?


「助太刀する! 【水弾】! 乱れ撃ち!」


 黒い鎧の男の指先が青く輝いた。


「どらららららっ!」


 そして――。


 フィーネを上回るほどの殲滅力を持って、瞬く間に部屋中のモンスターを皆殺しにした。


 男がこちらへ駆け寄ってきた。


「平気……ですか?」


 歳はフィーネよりやや下だろうか。背が高く肩幅は広い。目つきは少し悪いけど、いたって普通の若い男だ。


 ――その時、フィーネは名状しがたい不思議な感覚に包まれた。


 例えるなら、広大な自然に圧倒された時のような、感動と畏怖の混じりあった、そんな感覚。


 ――本能だろうか。不思議と確信できることがある。


 この男は、いや、この方は、私よりも遥かに強い――。


「あ、あの?」


 フィーネははっとした。


 仮面をつけていなかったことを思いだしたのだ。スカートのポケットから慌てて仮面を取り出し装着した。


 顔のタトゥーを見られてしまった。せっかく、自分よりも強そうな方に出会えたのに。


「どこか怪我でもされましたか? 大丈夫、俺は回復の魔法も使えるんです」


 どくん、とフィーネの胸が弾んだ。


 今、間違いなくタトゥーを見られたはず。


 なのに。


 何も言わず、表情にも出さず、ただ、優しくしてくれる……。どうして……。


 心配そうに私を見ている。宝箱には目もくれない。


 優しい人、なのだろうか。本当に、ただ助けに来てくれたのだろうか。


 どくん、どくん、どくん。


 知りたい、この人のことを。


【――紫の魔石(対象を鑑定)を使用しますか?】


「ちょっと見させてください」


 彼は一歩こちらへ近づいた。


「……っ!」


 フィーネは思わず、脱出用に持っていたスペルカードを使って――。






 ――その場からワープした。


 しまった。つい、恥ずかしくなって逃げてしまった。


「あの方は……」


 フィーネは指先が震えていることを自覚して、胸元でぎゅっと手を握った。


 彼を思いだそうとすると、胸が締め付けられるような、せつない気持ちになる。


 鑑定の魔石を使い損ねてしまった。せめて名前くらい知りたかった。


 どくん、どくん、とまだ鼓動が脈を打っている。


 この灰色に塗られた人生に、春風のように爽やかな眩しい光が射している。


 なんだろう、この気持ちは。


 この気持ちに名前があるとするのなら、それは――。


 ――初恋?


 そうだ。そうかもしれない。


 もう一度、あの方に会いたい。


「……好き……です」


 あえて言葉に出してみた。


 心に言葉が染みていき、あやふやだった心が形を持ちはじめていったのが分かった。


 間違いない。


 あの方こそ、自分が尽くすのにふさわしい人だ。


 フィーネは決意を固め、再びダンジョンを進むのだった。



 次回より第四章がはじまります!


 #少し書き溜めたいので、10日ほど間をあけると思います。すみません。(2020/7/18)


 面白かった! 続きが気になる!と思って頂けましたら、ぜひ『ブクマ』と『ポイント(下にスクロールするとボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を宜しくお願い致します。


 引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うん?あれー?こんなキャラ居たか?新キャラか?またリューのハーレ、ゲフンゲフン新しいパーティーメンバーか?今度はトリガーハッピーか?Σ( ̄ロ ̄lll)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ