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12.帰還!

 休憩部屋を出てからさらにまた二時間程度が経った。


 俺たちはボス部屋の前までやってきた。


「すごい……本当、あっという間ね」


「飛ばして来たからな。――よし、行くか」


 アイリスは下ろしている。人間モードにも戻った。


 ここまで来れば、あとはボスを倒して出るだけだ。


 俺たちがボス部屋へ入ると、扉が勢いよくしまり、例のごとく部屋の中央に黒いオーラの球体が出てきて、中からモンスターが出現した。


 トカゲのようなモンスターだ。


 一階のボス部屋でやったように『切り裂く風』を放った。


 ひゅっ。


 ずばっとモンスターは真っ二つになって、ぼん! と弾けた。


「え……? う、うそ……もう倒したの?」


「そうみたいだ」


 何階まで進めば、強敵に出会うのだろう。この様子だと、相当上まで行かないといけないようだ。こいつではSPすら増えない。


 ぴか! と光って、宝箱が現れた。


「んじゃあ、あいつをゲットして外に出るか」


「うんっ!」


 宝箱を開けてみた。カードが入っている。これは、なんだろう?



□□□□□□□□□

【青のネックレス】のカード

 1.念じることで実体化することが可能。カードには戻らない。

 2.魔法防御力+5

□□□□□□□□□



 カードに絵が描いてある。女物のネックレスのようだ。シルバーのチェーンに、涙型の小さな石がぶら下がっているデザインだ。その石はこの塔のような青白い色に輝いている。


「どうする、これ?」


「試験には関係ないから、リュートの好きにしていいわよ」


「え? いいのか?」


「うん。このドロップアイテムは、そのまま自分のものにしちゃっていいの」


「ふうん」


 俺はカードを実体化した。ぼん、という音とともに、俺の手の中にネックレスが現れた。


「じゃあ、出会った記念にアイリスにプレゼントだ」


「…………え? な、なんで?」


「だから……出会った記念だけど」


 まあ本当は、アイリスに似合いそうだと思ったからなんだけど。恥ずかしくて言えない。


「い、いいの?」


「おう」


 アイリスが遠慮がちな手つきで俺からネックレスを受け取った。


「嬉しい。あ、ありがとう……私、今回の冒険のこと、ずっと忘れないから!」


「はは、俺もだ。だけど、あいつらのことはさっさと忘れようぜ」


 二人で顔を合わせて笑いあった。


 ごご、ごごごご! と音が鳴って、出口が二つ現れた。


 外へ出るための扉と、上の階に行くためのものだろう。


「リュート……」


「ん?」


「助けに来てくれて、ありがとう。すごく嬉しかった」


「……うん。俺も助けられてよかった」


「…………」


 アイリスはなんだか他に言いたいことがあるような顔をしていたので、しばらく待っていたが、何も言わなかった。


 俺たちはしばし見つめ合うことになってしまった。彼女は目線を外すでもなく、じっと俺の顔を見ている。


 ……そのまま待っていると、彼女ははっとした顔で、目を反らした。頬が赤くなっている。


 またそれかよ……?


 なんだか勘違いしてしまいそうだ……気をつけよう。


「じゃ、じゃあ行くか?」


「う、うん」


 妙な気恥しさを感じながら、俺はアイリスと連なって出口へ向かう扉の方へ歩いていく。


 扉の向こうは白く輝いていて、近付いても向こう側がどうなっているのか分からなかった。


 恐る恐る一歩入ってみると、すると――。


 白い輝きが消えて、景色が見えた。


 ここは、塔の外――地上だ。青い空が見える。


 入ってきた扉のすぐ近くに、別の扉が現れて、俺たちはそこから出たようだ。


 ごご、ごごごご! と音がして、扉が閉じた。


 どうなってるんだ? エレベーターに乗ったわけでもないのに、一瞬で一階に……。


 これも神様の謎パワーか。いいな、便利で。


「あ、おーい! リュートくん! アイリスちゃん!」


 遠くから声がした。シャルロッテの声だ。


 手を振りながら、こちらに駆けてきた。


 彼女は肩で呼吸をしながら呼吸を整えると、ぱっと明るい顔を見せた。


「おかえりっ!」


「ただいま。……シャルロッテ……待たせてごめんね」


「ううん、いいんだよ。……その……無事……で?」


 途中から、言葉が弱くなった。不安そうにしながらアイリスの服装を見ている。破れている部分に気がついたのだろう。


「うん。何もされなかったわよ。リュートが助けてくれたの」


 シャルロッテは表情を明るくした。


「はぁーよかったぁー! やっぱりリュートくんは凄いなぁ……」


「シャルロッテのおかげだ。ありがとな」


「……リュートくんは、私がいなくても、きっとそうしてたよ」


 シャルロッテがグリーンの大きな瞳をきらきらと輝かせて俺を見上げている。


「リュートくんは、かっこいいもん」


「……あは、ははは!」


「ね、ねえ!」


 笑って誤魔化していると、突然、アイリスがそう言った。


「あ、あんたたちってさ……」


「なんだよ」


「……あ…………うぅ。な、なんでもない……」


 なんだ?


「気になるだろ? 言えよ」


「なんでもないったら! う……なんで私……」


 サイドテールの金髪を揺らしながら、頬に手を当ててそう呟いた。なんなんだ?


「さ、さあ、行きましょうか!」


 アイリスは誤魔化すかのようにそう言った。


「冒険者になる手続きをしなくちゃ。バスの停留所まで、モンスターがいるからね。気をつけましょう」




 * * * * *




 急ぐ必要もなかったので、俺たちはのんびりと歩いてバスの停留所に向かった。


 道中、アイリスは俺に聞かせてくれた話を、シャルロッテにも伝えていた。


 シャルロッテもまた、自分の生い立ちについてアイリスに伝えたようだ。


 そのタイミングで、俺は気になっていたことを聞いてみることにした。


「俺とシャルロッテは、このまま冒険者になって大丈夫かな?」


「えっと、どうして?」


「ダンジョンは国の所有物で、冒険者は何らかの取引を国とするんだろう? シャルロッテは国に軟禁されていたようなものだったし、俺も問題を抱えている。だから、あんまり接点を持たない方がいいんじゃないかな、と思って」


「そうねぇ。無責任なことは言えないけど、少なくとも当面は平気だと思う。冒険者っていっても上から下まで大勢いるし、それに冒険者の活動を支援する団体の運営も民間なの。よっぽど目立たなければ国に名は知られないわ」


「なるほど……」


 俺の世界で言うと、冒険者は準国家公務員的な感じか?


 末端の社員が名前を知られることはないのと一緒で、例えば大企業の役員になったり、問題を起こさない限りは、名前があがることはない、的な。


「リュートたちはどうして冒険者になろうとしたの?」


「ぶっちゃけ働ければ何でもよかったんだ」


「ふふ、そうなのね。それなら大丈夫よ。私みたいに上級ダンジョンを目指していなければ、他の所で働いているのとあまり変わらないわ」


 心配性のアイリスがそう言ってくれるなら、少し安心できる。


 ……でも、アイリスの目指している冒険者とは、違う形になりそうだな。


 …………。


 ……。


 やがて停留所が見えてきた。ちらほらと他の冒険者の姿もある。人数は多くないから、一回目のバスで街へ戻れそうだ。


 そのままバスに乗って、元の街へ向かった。


 バスの中で、アイリスとシャルロッテはよく眠っていた。きっと緊張から解き放たれて、気が緩んだのだと思う。


 街へ到着したころには日が沈みかけていた。


 アイリスに聞いたところ、まだ受付はされているとのことなので、その足で会場に向かうことにした。


 会場には俺たち同様、冒険者試験の受験者がそこそこ集まっていたが、滞りなく処理がなされた。


 数名の立会いのもと、例の十階のドロップ品をカードからアイテム化して見せた。


 なんでも、カードをその場で実体化することに意味があるらしい。よく分からなかったので、今度聞いてみようと思う。


 合格の手続きはドロップ品を渡すことで手数料を省略できるようだ。それに身分証明みたいなものは必要なかったようで、俺はほっと溜息をついた。


 アイリスの言ったとおり、そこまで厳密な管理がされている印象はなかった。現代日本人の俺からすると、そんないい加減でいいのか? と思ってしまったけど。


 それから冒険者に関する冊子みたいなものをもらった。これに色々と書いてあるので、よく読んでおくように、とのことだった。


 こうして俺たちは、晴れて冒険者になった。


 受付会場を出た頃には、すっかり夜になっていたので、俺たちは、安そうな店に入って夕食をとることにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] さてさて無事に合格したがこれからどんな依頼を受けることかやり過ぎてランクを駆け上がったら悪目立ちするらな(|| ゜Д゜)
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