7.シャルロッテ劇場
あれから迷宮を進み、俺たちは階層『4』までやってきた。
階層を上がってすぐに休憩部屋を見つけたので、今日はここで眠ることにした。
休憩室に入ってから、モンスターハウスで手に入れたカードをあらためて確認した。
元々持っていた自爆のカードのほかに、
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【地図】のカード
1.念じることで発動が可能。
2.周辺のマップが分かるようになる。
3.発動後、カードは消滅する。
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【麻痺】のカード
1.念じることで発動が可能。
2.対象の範囲に麻痺の効果を与える。
3.発動後、カードは消滅する。
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【ファイアストーム】のカード
1.念じることで発動が可能。
2.炎の嵐を召喚し、対象の範囲に火炎を巻き起こす。
3.発動後、カードは消滅する。
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【休憩部屋召喚】のカード
1.念じることで発動が可能。
2.発動した部屋が休憩部屋に変化する。
3.通路で発動した場合は、近くに休憩部屋を召喚する。
4.発動後、カードは消滅する。
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【一時しのぎ】のカード
1.念じることで発動が可能。
2.対象の範囲にいる者を同じ階層の違う場所へワープさせる。
3.発動後、カードは消滅する。
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と、色々と手に入れた。
アイリスは、カードを全て俺に預かってほしいと言ったが、俺は自爆のカードだけ預かることにして、あとはアイリスに持ってもらうことにした。
「で、でも。私、またパニックになって使っちゃうかも……」
「いいよ、別に。な? シャルロッテ」
「うんっ! それも含めて、アイリスちゃんに預けるんだよ」
「……本当に、いいの? 使っちゃっても怒らない?」
「うんっ怒らないよ、ふふ」
彼女はしばらく拒んでいたが、シャルロッテの笑顔に負けたのか、やがて慎重な手つきで俺からカードを受け取った。
まあ『自爆』さえ俺が持っていれば、変なことにはならないだろう。
ちなみに今回は見つからなかったが、武器や防具、アクセサリー、食料などが見つかる場合もあるらしい。
それにしても不思議だ……。この世界の神様は、なんでこんなシステムを作ったのか。
……ゲーム好きなのか?
うーん、分からん。
* * * * *
休憩部屋で仮眠を取り、俺たちは再び出発した。
ちなみに俺はベッドルームに入っていない。彼女たちは部屋へ入っていいと言ってくれたが、俺は断固拒否したのだった……。
順調にダンジョンを進み、階層『5』へ到達する。
あれからアイリスの動きはだんだんとよくなっている。これまでは緊張と恐怖で体がしっかり動いてなかったのだろう、と思う。
煙のアシストはまだ継続しているが、敵が一体であれば単独でも倒せるかもしれない。
今は探索をしながらも会話をする余裕が生まれている。
なので俺は素朴な疑問をぶつけることにした。
「なあ。思ったんだけど、ここの地図とはないのか? 色々準備をしてきたけど、地図がなかったなぁと思って」
「ダンジョンは入るたびにその形を変えるの。だから意味がないのよ。私たちはリュートの力があるから省略してるけど、ホントは地図を作りながら進むの」
「形を変える……?」
「うん、そう」
それが当たり前だという風にアイリスは言った。
どういう仕組みでそうなっているんだろう。神様が作ったというから、それくらいは謎の力でどうとでもなるのか?
「じゃあさ、この頭に浮かぶステータスってやつはなんなんだ? これも神様が作ったのか?」
「うん、そうよ」
「魔法も?」
「……それ以外に何があるっていうのよ」
たしかに。
「神様……何者なんだ」
「あ、私、知ってるよ」
シャルロッテがそう言った。
「本はいっぱい読んでたから、神様のお話もいっぱい知ってるの」
「神話ってやつか。よかったら、教えてくれないか?」
「うんっ、いいよ!」
シャルロッテは自慢げにそう答えると、神話の内容を語りだした。
「序章! 世界はぁ、混沌に包まれていたっ! ででん!」
「シャ、シャルロッテ?」
「ん? だ、ダメだよ。お話し中は話しかけないで」
「…………」
「序章! 世界はぁ、混沌に包まれていたっ! ででん!」
シャルロッテはやたら気合を入れている。っていうかその効果音はなんなんだ?
「とぅるっとぅっとぅっとぅるーでででんっ!」
ポップなメロディを口ずさみ始めた。オープニングか?
「液体も個体も気体も、昼も夜も何もかもが混ざった一の世界。その混沌の中に、原初の神『アイ』は佇んでいたっ!」
「ほう」
「『アイ』はぼーっとしていたけど、そのうちやることがないので消えることにした。以降、物語の中に『アイ』が登場することはない。出番はこれで終わり」
「は? なんでだよ?」
「し、知らないよぉ、そうなってるんだもん」
……んー、まあ神話なんてそんなものか?
「第一章! 七大元素! ででん!」
俺は拍手した。
「そのうち、また別の神があらわれた。その神の名は『イソ』。この神は、世界を三界七層に分けた。三界とは、のちに天界、人間界、冥界と呼ばれるようになった世界のこと」
「よくある話だな。光あれ! 的な?」
「……もう、静かにしてて!」
怒られてしまった。
「七層とは、火、水、雷、風、土、光、闇のこと。これは七大元素と言われ、魔力の始まりだと言われている……」
「ほほう」
ってことは光属性ってやつもあるのか? どうやって覚えればいいんだろう。
「『イソ』は『ヒイル』と『バアル』という二人の神を生んで、三つの世界をその神たちに任せることにした。二人の神は、七層の元素を使って、それぞれの世界を思いのまま作っていった。第一章、完!」
「短っ!」
「ほんとはもっと長いんだよぉ。じゃあ次、第二章、ヒイルとバアル。――やがて、地上に人間が生まれた。人間は神に与えられた魔法とスキルで一気に繁栄し、世界が壊れてしまうくらいまで一気に数を増やしてしまった。これをどうにかしようとした『ヒイル』と『バアル』はモンスターを生み出し、人間と同様、魔法とスキルを与え、人間に死を与えることにした。だが――」
シャルロッテがくわっと表情をこわばらせた。
「増えては殺し、増えては殺し、そんな時間を過ごすうち、『バアル』は気が触れておかしくなってしまったのだッ! 『バアル』はモンスターに進化の力を与え、必要以上に人間を殺そうとした。『ヒイル』はそんな『バアル』を冥界の奥に閉じ込めたが、『バアル』は三界を跨ぐダンジョンを作り、モンスターを冥界の奥から送りこんできたのだった……」
ダンジョンって言葉が出てきたな。それから進化って言葉もあった。
俺の力は『バアル』ってやつに与えられたのか?
「『ヒイル』は人間を守るため、人間に『ジョブ』を与えることにした。凶悪なモンスターに対抗するために」
なるほど。次はジョブ、か。
「アイリスは【剣士】だったよな? どうやって決まるんだ?」
「神殿に行ってお祈りするのよ」
「そうすると『ヒイル』って神様がジョブをくれるのか?」
「うん、そう」
「例えばシャルロッテでも貰えるのか?」
「うん、神殿に行ってお金を払えばジョブを与えてもらえるわ」
「金かよ」
信仰心とかじゃないんだな。世知辛い。
まあそれはさておき、何となく分かった。ジョブとは、いわば人間の種族スキルみたいなものか。
俺は人間じゃないから、ジョブってやつは無理なんだろうな、たぶん。
「第三章! 七大ダンジョン! ででん!」
「シャルロッテ。ありがとう、もういいぞ。今度聞かせてくれ」
「え。いいの? こっからが面白いのにぃ」
シャルロッテは心底残念そうにそう言った。
彼女は本が好きだったな。こういう物語が好きなんだろうか。
「もったいないだろ? こんな歩きながら一気に聞いちゃったら」
「それもそっか。ふふ、じゃあ今度ゆっくり聞かせてあげるねっ」
「うん。じゃあその時は俺の世界の話も聞かせてやろう」
そんな話をしているうちに、次の階層への階段が見えてきた。俺たちは『6』へと進むのだった。