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3.攻略に向けて

 俺たちは小さな喫茶店にやってきた。


 作戦会議をするためだ。


 あらためて、試験の内容を確認した。


 ダンジョン『青の塔』というところの十階のボスを倒し『ドロップ品』を取って来ればいいそうだ。あの森のダンジョンとは違う場所にあるらしい。


 うーん、やっぱりゲームみたいだよなぁ。なんなんだ、この世界は。


 そのダンジョンの入口は複数あるみたいで、貰った紙に場所が指定されていた。


 今日を含めて十五日以内に達成できれば、見事合格。シンプルで分かりやすい。


 なお合格するためには、パーティの合計レベル二十五(最大四人までらしい)が最低ラインだと言われているそうだ。安全に合格するためには、三十以上は欲しいとのこと。


「……悔しいけど、さっきの男が言ってたことはホントなの。私は、あんたたちを守ってやれるほど強くないわ」


 アイリスは悔しそうな顔でそう言った。


「でも、私はどうしても試験に受かりたい。だから挑戦したい気持ちはある。……だけど、あんたたちを無理やりダンジョンに連れていくつもりはないわ。さっきはああ言ったけど、やっぱり、よく考えてほしいの」


「俺たちが行かないっていったら、どうするんだ?」


「…………ソロで行く」


 一人で、ってことだよな?


「レベルが全部で二十五ないと危険なんだろ? どうしてそこまでして冒険者になりたいんだよ」


「……い、いいでしょ、別に」


 言いたくないようだ。でも、本気だというのは伝わってくる。


 俺たちは……どうしようか。


 アイリスが一人で行くと分かっていながらこのまま別れるのも嫌だし、さっきの男たちに腹が立った気持ちも分かるし、俺も俺で強くなりたいから、ダンジョンに挑戦したいと思ってるけど……。


「……なあ、シャルロッテは、どうしたい?」


「ん? リュートくんはどうしたいの?」


「俺は、行きたいと思ってるけど……」


「……? じゃあ行くに決まってるよ。どうしてそんなこと聞くの?」


 さも当然、というようにシャルロッテは言った。


「あっ! リュートくん、私を置いていこうとしてるでしょ。私、行くからねっ。平気だもん。箱の力があるもん。……どうしてそういうこと言うのかなぁ。私だってリュートくんのこと守りたいんだよ」


 ぷいっと顔を背けて口を尖らせた。


「ち、違うぞ。俺は置いていこうとなんて……ただダンジョンはめちゃくちゃヤバいところなんだ」


 シャルロッテをモンスターから守る自信はある。彼女自身の箱の力もあるし。だけど、あの食糧難だけはどうしようもない。


「シャルロッテ。虫、食えるか?」


「え……?」


 シャルロッテの表情が青ざめてく。


「や、やだよ……なんで?」


「だよなぁ。でも、足だけだったらそこまで苦くないし、エビとかカニだと思えば――」


「ちょ、ちょっと! 虫? 虫って何よ。そんなの食べないわよ……」


 アイリスがそう言って割り込んだ。


「え? じゃあ食料はどうするんだ?」


「持ち込み分と、あとはダンジョン内で食べ物が調達できるのよ」


 虫を食わなくてもすむ方法があったのか? マジかよ……。


 でも、そこさえクリアできれば不安はないか。


「……よし、アイリス。俺たちは行くぞ」


「……危険なのよ? 死んじゃうかもしれないの」


「分かってる」


 シャルロッテは必ず守る。ダンジョンのモンスター如きに怯えていたら、犀川から彼女を守れないしな。


「シャルロッテも分かってるの?」


「うんっ。リュートくんが行くなら全然こわくないよ」


 な、なんて嬉しいことを。絶対守るからな!


「本当に分かってるのかしら……」


「分かってるって。ダンジョンだってクリアしたことがあるんだぜ。ほら、これ見ろよ。ドロップ品って、こういうやつのことだろ?」


 俺は森のダンジョンで見つけたカードをアイリスに見せた。


「……『幽世かくりよへの扉』? こんなの知らないけど。作り物じゃないの?」


「お、おい! 嘘じゃないぞ!」


「……じゃあ、どこのダンジョンよ?」


「知らないけど……変な森の地下にある虫だらけのダンジョンだ」


「……でも『レベル1』なんでしょう?」


「それはそうなんだけど……」


 くそ、ドラゴンだってことを隠すと話が難しいな。こんな場所で魔法や煙を見せたくもないし……。


「まあ心配すんなって。とにかく俺たちは行くから」


 アイリスはしばらく考え込んでいたが、


「……分かった。じゃあ準備をしましょう。あんたたちの装備を整えるわよ」


 そう言った。


「俺たち金を持ってないぞ?」


 ちなみに、ここの代金もアイリス持ちだ。


「貸してあげる。いつか返してくれればいいわ」


「……い、いいのか?」


「いいのよ。私だって合格する確率を上げたいから。でも……絶対返してよ。私がずっと貯めてきた大切なお金なんだから」


 アイリスはそう言って立ち上がった。


「行きましょう。時間が惜しいわ」






 * * * * *






 女の子に金を借りるなんて最低だろうか? きっとそうだろう。俺もそう思う。


 でも借金しなければどうしようもなかったので、仕方がない。


 揃えたのは登山道具みたいなもの一式。


 ロープ、ハーネス、ピッケル、ハーケン、ナイフ、ライト、水筒、携帯レーション、腕時計、簡易医療セット、調理道具、裁縫セット、ファイアスターター、などなど…………。


 アイリスが買ったものの中には、正直、煙があるからいらないと感じたものも多かったけど、


「これも必要だから買いなさい。あ、あとこれも! あとはそうね、これとこれも……ん、何よ、その顔」


「あ、いや。金は大丈夫なのかなーって」


「だ、大丈夫じゃないわよ……。これでも節約してるのよ? お買い得な初心者用セットを選んでるし」


「…………でも」


「あのねぇ、お金よりも命の方がずっと大事でしょう? いいから私の言うとおりにしなさい。ね?」


 と、アイリスが親切に用意してくれるので断れず、言われるがまま道具を買っていった。シャルロッテについては、服や靴も新調した。白いローブだ。とても可愛い。


 そんなこんなで買い物が終わった。最終的な金額を聞いたけれど、異世界の単位にはまだ慣れておらず、どれくらいの金額なのかよく分からなかったが、たぶん全部で二十万から三十万くらいだと思う。


 働く前から巨額の借金を負ってしまった……。なんとしても冒険者にならなくては。


 ちなみに、かなりの物量を買ったと思ったけど、意外なことに、かなりコンパクトかつ軽量に収まってくれた。


 俺の世界の登山道具がどんなものか分からないけど、きっとそれよりもずっと軽い。もしかしたら特殊な加工とか、特殊な素材が使われているのかもしれない。


 ダンジョンまではバスで向かうことになった。


 日が沈み始めるころにバスに乗車し、そこから三時間くらいだろうか?


 すっかり夜になってからバスが停車した。だだっ広い草原に、バスの停留所だけあるような不思議な場所だった。


 他にも冒険者試験を受けるだろうと思われる人たちがたくさん乗車していて、彼らは降りると同時にぞろぞろと集団で歩き始めた。


 ここから先は徒歩で向かわないといけないそうだ。モンスターが出現するらしく、バスでの移動はできないとのこと。


「……んー、よく寝た」


 アイリスがのびをした。彼女はバスの中ですうすうと眠っていた。少しの時間でも寝ておいた方がいい、と彼女は俺たちにも眠るよう指示していた。


「シャルロッテは眠れた?」


「うん、いっぱい寝たよっ! バスの揺れって、なんか気持ちいいよねぇ」


「あんた、のんきねぇ……。リュートはどう? 眠れた?」


「おう、ばっちりだ」


 嘘だけど。


 人の気配がすると眠れないのだ。森とダンジョン生活が長かったせいだろうか。


「じゃ、行くか? あいつらについていけばいいのかな?」


 そう言ったがアイリスは質問に答えず、


「ねえ、あんたたち――不安だからもう一回言うけど、本当にいいの?」


 昼間、散々言っていたことを再び口にした。意外と心配性なんだろうか?


「あのなぁ、だから俺は初心者じゃないって言ってんだろ? 俺はな、でっかいハエとか、叫ぶカマキリ人間とか、目が六個あるでかい猿にも勝ったんだぞ! 特にあの猿はヤバいぞ! マジでヤバイ。俺はあいつに何度も体をもがれて――」


「リュート、お願い。ちゃんと聞いて? 大事な話をしてるの」


 くそ。信じてくれない。


 まあしょうがないのかもしれない。俺たちには冒険者の知識がないし、初心者にしか見えないだろう。『レベル1』は本当のことだし。


 それに、結局、魔法も能力も見せてないからな。


「私はね、今年絶対に冒険者になりたいと思ってる。もしかしたらあんたたちを見捨てて、自分だけ助かろうとするかもしれない。どういうことか、分かる?」


 アイリスは俺とシャルロッテのことを交互に見た。真剣な瞳だ。


「アイリス……俺たちのことは心配するな。合格したいんだろ?」


 彼女はしばらく黙っていたが、やがて諦めたように頷いた。


「分かった……。じゃあ行きましょう」


 アイリスがくるっと背中を見せた。


 俺たちはダンジョン『青の塔』に向けて歩きだしたのだった。

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