4.煙の支配者
【――スキル『煙の支配者』を使用しますか?】
えっ?
使う? 使うものなのか?
…………。
ちょうど今は敵もいない。それにこの部屋には逃げ道もたくさんある。
試してみるか。
よしっ! 使うっ!
すると――
こ、これはッ!?
俺の体の周りに、白い煙がぼわんとあらわれた。
この煙……これは……。
不思議なことだが、俺はこの煙が自在に操れるものなんだとすぐに分かった。いや、最初から知っていた――という感じか。
煙を旋回させて螺旋の渦を作る。
手や足を動かすのと同じように、自由に扱うことができる。
今度は煙で俺の体を覆ってみた。
動かせるだけじゃない。指で触れているように丸い体を感じ取ることができる。
煙で体をぎゅっと掴み、持ち上げる。
ふわり。
俺の体が宙に浮いた。この煙は、物を掴んで持ち上げることができるみたいだ。
そのまま移動してみる。
ふわ、ふわ。
成功だ。
……すごいぞ。これで移動すれば転ぶ心配をしなくてすむ。
だけど、こんな力を使いたい放題できるものなんだろうか?
…………。
どうなんだろう。分からない。ステータスを見てみるか。
□□□□□□□□□
名前:なし
種族:魔物のコア
レベル:3
SP:12
HP:7/9
MP:0/0
攻撃力:2
防御力:3
敏捷性:3
魔法攻撃力:0
魔法防御力:0
スキル:
『言語理解』、『片手武器Lv2』
『集中Lv1』、『★煙の支配者』
『☆パーツ作成』
称号:
『異世界からの来訪者』
□□□□□□□□□
今のところはSPやHPが減っているようなこともない。
どうしよう。ここぞという時に使うようにするか?
――いや。
限界は知っておくべきだ。
とりあえずこの煙はオンにしておく。こまめにステータスを確認しよう。
俺は宙に浮いたまま、三本の通路の先へ煙を広げることにした。
ある程度までいったところで、俺を持ち上げている煙のパワーが減ってきたことを実感する。
俺はいったん着地して、持ち上げていた煙のパワーを通路を進む方の煙へ回した。
するとさらに遠くまで煙を届けることができた。
通路の形が煙を通じて分かる。通路に敵がウジャウジャいるのも伝わってきた。
適当に一体選んで、さっき俺の体を持ち上げたように敵を持とうとしたが、それはできないようだった。
……そうか。分かってきたぞ。
煙を広げれば広げるほど力がなくなっていく。だが煙の中の動きを俺は感知できる。レーダーみたいな使い方ができるぞ。この感じなら50mは余裕だろう。
密度が高い状態をキープできるのは、せいぜいこの部屋の中くらい。俺から半径5m程度といったところだ。だがこの状態なら相当なパワーがある。
この煙は戦闘でも使えるだろうか。試してみたい。
一番近い敵の所まで行ってみるか。
煙を元に戻し、再び体を持ち上げる。
ひゅー、と煙に乗って通路を進んでいく。かなりのスピードだ。
そう、煙というのは意外と速いのだ。人が歩くのよりずっと速い。俺はそのことをよく知ってる……。
通路を歩く球体を見つけたので着地する。
四本足にツノが二本。最初に戦ったやつに似てる。クワガタ型の球体ってところか。
そいつは俺に気がついて近づいてきた。
よし……っ! 行けっ!
煙をそいつに伸ばしていき、がしっと掴んだ。
そのまま空中に持ち上げ、握る力を強めていく。
ぐ、ぐぐ……ばきんっ!
ひびが入った。
そのまま強く握っていく。
ぼんっ! 俺の煙の中で、そいつは破裂した。
……すごい力だ。
いったんステータスを確認する。
□□□□□□□□□
名前:なし
種族:魔物のコア
レベル:3
SP:16
HP:8/9
MP:0/0
攻撃力:2
防御力:3
敏捷性:3
魔法攻撃力:0
魔法防御力:0
スキル:
『言語理解』、『片手武器Lv2』
『集中Lv1』、『★煙の支配者』
『☆パーツ作成』
称号:
『異世界からの来訪者』
□□□□□□□□□
変わっていない。というかむしろHPが増えてる。
この現象はたぶんスキルとは関係ない。
HPは時間が経つと少しづつ回復する。そのことには気がついていた。
……うーん。問題なさそうだ。
とりあえずSPを増やしたい。この力を使って他の球体を倒していくか。
ぼわあ、と煙を広げる。
俺の煙のレーダーが何体もの球体を検知した。
よし、倒していこう。
* * * * * *
全部で十二体の球体を倒し、俺は二回のレベルアップをした。
□□□□□□□□□
名前:なし
種族:魔物のコア
レベル:5
SP:46
HP:13/13
MP:0/0
攻撃力:4
防御力:4
敏捷性:5
魔法攻撃力:0
魔法防御力:0
スキル:
『言語理解』、『片手武器Lv2』
『集中Lv1』、『★煙の支配者』
『☆パーツ作成』
称号:
『異世界からの来訪者』
□□□□□□□□□
よし、SPがだいぶ溜まったぞ。
――しかし、やっぱり無制限に使えるわけじゃないみたいだな。
ここまでやって気がついたことがある。
この煙を操作する力、めちゃくちゃ疲れるのだ。
三時間ぶっ通しで全力で泳いだあとに、三時間ぶっ通しで難解な数学の問題を解いたあとのような感じ、と言えばいいだろうか。
集中力も保てないし、煙もうまく操作できない。
これ以上この力を使い続けると、立っていられなくなる予感がある。
ステータスに変化はないが、たぶん間違いないだろう。
時間が経てば治るといいが……。人間なら食べたり寝たりすれば回復すると思うけど、この謎生命体はどうだろう?
ここには食べ物がないし、これだけ敵がいると眠るのも難しいだろう。
というかこの謎生命体にそれが必要なのかも分からないんだけど。
とにかく。この力はいったんストップだ。
まだ少し余力はあるから、ピンチの場面が来たらその時に使おう。
これだけSPがあれば、有効なパーツが作成できる。この力にそれほど頼らなくても大丈夫なはずだ。
よし、パーツを作るか。
必要なのは、まず左腕、そして左手。あとは耳。
びりり、と電流が一瞬走ったような感覚があって、新しいパーツが完成した。
生えてくるというより、召喚されて突然現れるような感じだ。
耳を作ると、一気に世界にリアリティが増した。
ツノで床を叩く。カンカンと金属を叩くような音が聞こえた。
ふー、やっと聞こえるようになった。
あとは口も必要だ。食事が必要になる可能性もある。その時に口がないと困るからな。
口を作ったあと、発声してみた。
「……ア……ア……アアア。コンニチハ」
これが俺の声か? 機械の音声みたいだ。
……ま、まあ喋れないよりマシだろう。
さて、残りSPを使って、今度はバランスよく立てるように足回りを強化したい。
とはいっても四本足にはしたくない。虫みたいな見た目はイヤだ。
どうすればいいんだろう?
人間みたいにはできないのか?
【――SPを消費し以下が作成可能です】
□□□□□□□□□
所持SP:40
・鼻:2
・首:4
・胸:18
・腹:6
・腰:6
・大腿(1本):2
・下腿(1本):2
□□□□□□□□□
お、これを全部作れば人間っぽくなるのか?
…………ん。待てよ。
ち、ちくしょー! ちょっと足りてねえじゃねえかっ!
どうする? 作れるだけ作るか? でもバランスが悪いよなぁー。武器だって作れなくなるし。
うーん……。
走ったり振り返ったりできれば、それでいいんだけどな。
それこそ幼児向けのアニメとかに出てきそうな、丸っこい一頭身のキャラみたいに。
【――SPを消費し以下が作成可能です】
□□□□□□□□□
所持SP:40
・性質変更(弾性力アップ):20
・足変更・強化(1本):2
□□□□□□□□□
ん、なんか出た。
これを選べば、イメージしている感じになるのか?
よし、実行だ!
びり、と体に痺れるような感覚。
そして――。
「オ、オォ……! イイゾ!」
丸っこい体がゴムボールのように柔らかくなって、捻じることができるようになった。腕や手も弾力が生まれている。
上下左右、前後、しっかりと目線を向けられるし、腕の可動域もうんと広くなった。
足に関しては大きな楕円っぽいものに変更になった。こっちにも弾力があって動かすことができる。
試しに走ってみた。
ててててて!
ふふ、ふふふ!
やったー! アニメチックな体だけど、ちゃんと走れるぞ。
ぴょん!
ジャンプもできる! 素晴らしい!
よし。残りSPは16。あとは武器と防具も作ろう。
ハンマーをまず作成し、右手にあったツノをハンマーへ持ち替えた。
次に円形の盾を作成する。体を隠せるくらい大きな盾だ。こっちは左手に装備する。
これで残りSPは0だが、かなり充実した。
よし、探索を続けよう。