表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/85

12.勇者

 俺たちを囲っていた箱が砕けた。俺はシャルロッテを煙で一気に地上に送った。


 と同時に、


 ――くたばれッ!


 魔法『雷帝』を乱れ撃ちした。


「オラオラオラオラァ!」


 しかし。


 炎の壁のようなものが突然出現し、貫通力の高い『雷帝』がいともたやすく防がれてしまう。


 俺は『閃光』の魔法を使用した。


 カッ! と強い光が視界を白く染める。


 続けて『疾風迅雷』と『肉体増強』を使用。加えて緑の煙をまとい高速でやつに迫る。


 接近戦だ。俺の全力を受けてみろ――。


「はああああ!」


 俺はやつにラッシュを叩き込む――はずだった。


「お父さんを殴ろうとする悪い腕はこれかね?」


「う、ああ、ああああ!」


 犀川が両手が俺の腕を持っている。


 いつだ? いつやられた?


 いつの間にか、腕が切断されていた。


「接近すれば炎はないと考えたか?」


「うぅ……ッ!」


 ぼっ! と犀川の腕が燃えさかった。紅蓮の炎が俺の腕を一瞬で燃やし尽くした。


 俺は距離を取るとともに、今度はやつの周囲を高速で飛行しながら、『雷帝』を撃ちまくる。


 が、これもダメ。炎に防がれてしまい、まったく効果がない。


「――ふははは! 死ぬなよ、龍斗!!」


 炎の壁が一気に大きくなり、渦のように俺の周囲に回転をはじめた。


 逃げようと思ったが、うまくいかなかった。いつの間にか翼が小型太陽に撃ち抜かれていた。


 炎の壁が上下左右から俺に迫る。


「【風の障壁】」


 俺の魔法はやつの攻撃の前には無力だった。あっという間に炎に負けてしまう。


 それなら――。


 ぼわっ。


 俺は煙を一気に噴出した。


 煙の防火壁だ。これならどうだ。


 が、


「な、なんだとッ!」


 煙が炎に焼かれている。


 この火炎の能力は、俺の煙よりも――強いのか!?


 煙が燃え尽くされ、迫ってきた灼熱の炎は、俺の体を激しく燃やした。


 じゅうう、と肉の焦げた音がする。


 全身が溶け始めている。悲鳴を上げたはずだが、喉の奥が焼かれてしまっていて声が出ない。


 や、ヤバい。これは火事で死んだときと同じ――命が燃えて消えていく感覚。


 し、死ぬ――。


 死、死――。


 激痛に意識が飛んだ。










【――スキル『根性』が失われました】


□□□□□□□□□

名前:リュート

種族:竜人種/ブラックマジックドラゴン

レベル:1

HP:1/2427

□□□□□□□□□


 ふと、その声で意識を取り戻した。


 即座に魔石を使いHPを回復。腕も回復した。


 しかし。


 炎はまだ俺を焼き続けている。HPがすごい勢いで削られているのだ。危機はまだ去っていない。


 ま、まずい。


 き、消えないッ! 炎が消えないッ!


□□□□□□□□□

名前:リュート

種族:竜人種/ブラックマジックドラゴン

レベル:1

HP:327/2427

□□□□□□□□□


 さらに追加で回復の魔石を使う。


「が、ふ……」


 全身から噴き出した血が、ぶくぶくと泡を立てている。沸騰ふっとうしているのだ。強烈な苦痛に全身が襲われている。


□□□□□□□□□

名前:リュート

種族:竜人種/ブラックマジックドラゴン

レベル:1

HP:392/2427

□□□□□□□□□


 さらに魔石を使用する。


 まずい、このままだとすべて使い切ってしまい、そのうち俺は死ぬ。


「ほう、しぶとい。『根性』のスキルと、あとは回復の魔石か? やるじゃあないか、龍斗」


「さ、犀川ぁーッ!」


 力を振り絞って声を出した。


「こ、殺してやるッ。お前は絶対に殺す。俺が殺す」


「ふふ、どうやって?」


「お、俺の最強の技を受けてみろっ!」


 ぼん! とドラゴンに変化した。


「なるほど、竜人というのは面白いな。好きにドラゴンへ変化できるのか」


 魔力を集中させる。と、同時に煙を出現させた。重力を操作する黒い煙だ。


 続けて、その煙の中から黒い龍が現れた。龍は螺旋を描きながら俺の周囲を周っている。


「ふむ、それも貴様のスキルか?」


 龍は凄まじい勢いで犀川に向かって一直線に飛んだ。


 犀川の前に炎の壁が現れた。


 ――喰らえ、これぞ俺の策。


 黒い龍が突撃。炎に触れる。


 その瞬間――。


 大砲のような爆音とともに、黒い龍が爆発した。黒い爆発は、世界を一気に暗黒に染めた――。






 * * * * *






 俺は煙が作り出した漆黒の中、シャルロッテを抱いて、彼女が耐えられるギリギリの速度で、森の中を縫うように飛行した。暗闇とはいえ、あれは俺の煙。森の中を飛ぶのは難しくなかった。


 振り返ればやつがいるような気がして、気が気じゃなかったけど、それでも飛び続けて、俺たちは険しい山の奥へと逃げこんだ。


 あの黒い龍の正体は、魔法『水の龍』だ。


 俺は数十発分の『水の龍』を、重量を操る『黒い煙』を使って限界まで圧縮した。


 あの爆発は、その圧縮された水が炎に触れて水蒸気爆発を起こしたのだ。やつにダメージはないだろうが、目くらましには十分。


 わざわざ『殺す』と言ってみたり『最強の技』なんて言ったのは、やつに確実に炎で防御させるため。


 俺がああ言えば、気まぐれにかわしてしまうことはないと思った。自分の能力を見せつけるのに炎を使うに違いないと思った。


 結果は狙い通りになった。策を発動させる前に、まさかあれほどのダメージを負うことになるとは思わなかったけど……。


 三十六計逃げるに如かず。どうにか俺たちは逃走することができたのだ。


 『根性』のスキルも戻ったし、俺を殺そうとしてた業火も、離れたことにより消えてくれた。さすがにここまで来れば大丈夫……だと思いたい。


「リュートくん、大丈夫?」


「あぁ、もうなんともない」


 俺は腕をぶんぶんと振って見せて、回復したことをアピールした。


「ううん、そうじゃなくて、その……」


 何を言われているか、俺はすぐに分かった。あれだけ狼狽えたところを見せてしまったのだ。


「うん、もう大丈夫だ……かっこ悪いところ見せてごめんな」


 シャルロッテは首を振った。


「か、かっこ悪くなんてないよ。かっこよかったよ」


 気をつかってくれているんだろうか。逆に情けなくなってくる。


 泣きそうだ。……泣かないけど。


「あの恐い人は、リュートくんの知り合い?」


「うん。……あいつなんだ。俺を閉じ込めてたのは」


 まさか犀川までこっちに来ているとは。俺と同じ火事で死んだのか? しかも、『火炎』を操る能力……。


 運命、か。たしかに信じたくなる。俺の場合は、呪われた運命だろうが。


「ごめんな。俺、強くなるから。シャルロッテのことは俺が絶対に守る。絶対に……。だから、心配しないでほしい」


 自分を言い聞かせるように俺はそう言った。


「……ありがとう。リュートくんも、心配しなくていいからね」


「え?」


「リュートくんのことは、私が絶対に守るから」


 ぶおん、と透明な箱が俺たちを覆った。


「今度会ったら閉じ込めちゃうもん。私の箱は無敵なんだよ? 誰にも壊せないの。たった一人を除いて……ね?」


 シャルロッテはにこっと笑った。


 俺を不安にさせないように笑ってくれているのだ。きっとシャルロッテだって、恐い思いをしたはずなのに……。


 俺は、彼女を絶対に幸せにすると豪語したくせに、いきなり何をやっているのだ。


 もしも、シャルロッテに何かあったら、俺は。


 ――俺は。


「リュートくん」


「……ん」


「心配しないでって言ったでしょう?」


「ご、ごめん」


「幸せにしてくれるんでしょう?」


「……もちろんだ!」


「ふふ。じゃあ、笑ってよ。今日は旅立ちの日なんだよ?」


 ……そうだ、こんなんでどうする! しっかりしろ!


 くそ! くそ! くそ! 元気出せ! 俺! 落ち込んでる場合か?


 よし。


「シャルロッテ!」


「ん?」


「か、可愛いな」


「………っ!」


 彼女はカァー、と耳まで真っ赤になった。


 可愛い……。


 よし、完全に癒された。立ち直ったぞ。


 よく考えてみろ。俺はこれからシャルロッテと一緒にいられるんだぞ? 絶対楽しいに決まってる!


「よーし! 気を取り直して出発だ!」


 どこに行こうか。


 犀川の目から逃れるためにも、できるだけ大きい街に行ってみるのがいいんだろうか。


 それに、金を稼がなければ。


 シャルロッテが一緒なのだ。これからは何日も食事をしなかったり、木の上で眠ったりすることなんてできない。


 ――よし。


「俺たちは自由だ!」


「おー!」


「幸せになるぞ!」


「おー!」


 負けるものか。


 あの男が立ちはだかるのなら、俺の障害となるのなら、倒さなければならない。


 いつか倒す、必ず――。


 俺は、絶対に、幸せになってやるからなっ!

 今回で第二章は終了です。




 面白かった! 続きが気になる!と思って頂けましたら、ぜひ『ブクマ』と『ポイント(下にスクロールするとボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を宜しくお願い致します。




 引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろいです [気になる点] リュートが犀川を見て本人だとわからなかったってことは犀川は赤ん坊として転生して見た目が変わったってことですよね。なのに何故名前が変わらないんですか?リュート…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ