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11.再会

 ぼっ。


 と、そんな音が上から聞こえた。


 なんだ。


 ――炎?


 小さな太陽のようなものがいくつも上空に浮いている。


 瞬間。


 なッ――!


 その火炎の球体が、俺たちを目掛けて飛んできた。


「うおおおッ! 【風の障壁】!」


 風の壁に炎がめり込む。


 ぼぼぼぼ、と炎が風に揺れている。が、球体そのものは消えていない。少しづつ風の壁を侵食している。


「くそ! なら! 【水弾】!」


 連続で水のライフルを撃つ。が。


 ぱん!


 炎に触れた瞬間、爆発したように水が弾け飛んだ。煙のように水蒸気が舞っている。凄まじい熱に、一瞬で気化したのだ。


「うおおおおお!」


 構わず撃ちまくるが、結果は同じ。爆竹のような音を立てて水弾が爆発している。


 風の壁を小型太陽が突き抜けた。


 ま、まずいッ!


「――【はこの支配者】」


 シャルロッテがそう呟いた。


 ふと気がつくと、こちらに向かっていたいくつもの小型太陽が全て、小さな箱に閉じ込められていた。


「こ、これは……シャルロッテがやったのか?」


「う、うん」


 箱の中で火の球が暴れている。が、シャルロッテの箱は絶対に壊れないだろうということが、見ていて感覚的に分かった。


 次第に炎が小さくなり、そして、消滅した。


「すごいぞ、シャルロッテ」


「そ、そんなことないよ」


「なんなんだ、今の」


 ……火炎が襲ってくるなんて、恐ろしすぎるぞ。


 彼女はうーんと頭を悩ませている。シャルロッテにも分からないようだ。


 魔法、だったんだろうか。


 いや、あの感じは違う。魔力の波動を感じなかった。むしろあれは――。


 俺の『煙の支配者』に似ていた気がする。


 …………ッ!


 ふと背後から殺気を感じた。振り返る。


 男だ。男が宙に浮いている。


 歳は二十前半くらい。金髪で、藍色の瞳。白金色の鎧に身を包んでいる。まるで神話から飛び出してきたような、恐ろしく顔の整った男だ。


 その男は、ゾッとするような冷たい目で俺たちを見ていた。


「……誰、だ」


 俺は乾いた声でそう言った。


 気圧けおされている。なんだ、このプレッシャーは。さっきから冷や汗が止まらない。


 きっと俺の本能が、この男を恐れているのだ。


 何者だ。


 こいつは――俺よりも、遥かに強い。


「――勇者である」


 男は薄っすらと笑みを浮かべて、そう答えた。


 勇者。そういえばあの男女がそんなことを言っていた。


 この男のことなのか?


「運命というものを、信じるかね?」


 勇者が言った。


「私はそんなもの信じていなかったのだが……ふふ……今は信じているよ。――偶然、なのだ。私がここへ、やって来たのは」


 偶然……?


 よく分からないが、こいつはヤバい。ヤバい気配がある。


 さっさと逃げなければ。


 だが背中を見せた瞬間に殺されるのではないかという考えがさっきから頭の中にこびりついている。


 俺は蛇に睨まれたかえるのように動けないでいた。


「そこの女。貴様がはこの魔女シャルロッテだな」


 勇者と名乗った男がそう言った。


「……は、はい。たぶんそうです………」


「よろしい。あと数年もすれば、私好みの女になるだろう」


 ……なッ。


 こ、こいつは一体何を言い出しているのだ。


 男はシャルロッテに向けてねぶるような不快な目つきを向けている。


「シャルロッテ。私の質問に答えろ。簡単な二択だ。『はい』か『いいえ』で答えればいい」


 シャルロッテが俺の肩をぎゅっと握ったのが分かった。


「私の妻になれ」


 じっとりとシャルロッテを視線で犯している。


 まともじゃあない。なんなんだ、こいつは……。


「い、いやです」


「――【審判しんぱん】」


 男がそう言った瞬間。


 俺はとてつもない魔力の波動を上空に感じた。


 なッ!?


 豪雨のようなノイズ音とともに、瞬く間に視界が一気に白く染まった。


 強烈な魔法を発動されたのだと理解する。


 と同時に――。


 白い視界が晴れていく。


 ……いつの間にか、半透明の箱が俺たちを囲っていた。


 そうか、シャルロッテが箱の力で守ってくれたんだ。


 彼女がいなければ、――今、俺たちは死んでいた。


 それに気がつくと、ぞわりと背中に冷たいものが走った。


「ふ、ふふ、はは、はははッ! いいぞ、とてもいい! ますます貴様を私の女にしてやりたくなったぞ」


 い、異常だ……。こいつは今、躊躇ちゅうちょなく人を殺そうとした。


 あらゆる意味で恐ろしい。


 逃げなければ。


 ――だがどうやった逃げる? シャルロッテを抱いたままでは全力で飛べない。人間の体では高速に耐えられない。


 ならば戦うか? だが頼みの綱のドラゴンブレスも、まだ冷却時間が終わっていない――。


「どうした? 恐ろしいかね?」


 男は俺を見て、にい、と口を歪めた。


「だ、黙れ……っ!」


「威勢はいいが、怯えが表情に出ているぞ。虐待を受けた犬みたいにな。ふふ、ふふふ」


 ぼっ、と小型の太陽がいくつも男の周囲に現れる。


 やはり、こいつの能力だったのか……。


「いつかのように、裸で仰向けになって許しをうてみろ。犬のように、服従していることを体で表すのだ。ほら、得意だろう? やれよ――龍斗」


「――――え」


「ふ、ふふ、ふははは!」


「……ま、まさか。そんな馬鹿な……ッ」


【――紫の魔石(対象を鑑定)を使用しますか?】


□□□□□□□□□

名前:ミツオミ・サイカワ

種族:人間種

レベル:732

SP:521

HP:9769/9769

MP:11321/11321

攻撃力:2673

防御力:2674

敏捷性:2943

魔法攻撃力:3260

魔法防御力:3691

魔法:

 この情報は取得できませんでした。


スキル:

 この情報は取得できませんでした。


称号:

『異世界からの来訪者』、『勇者』

『虐げるもの』、『魔導を極めしもの』

『二のダンジョンを超えたもの』

□□□□□□□□□


「……そ、そんな………」


「……リュートくん?」


「あ、ありえないッ!」


 手が震えている。足もそうだ。


 動悸が激しい。眩暈めまいもする。


「う、嘘だ……ッ! 嘘だッ!」


「だ、大丈夫。落ち着いて」


「はぁっ、はぁっ! ……あのくずがまさかこっちまで……。お、俺を追ってきたのか……うぅ……」


「リュートくん!」


 シャルロッテの声にはっとした。


「大丈夫。この壁は、絶対に壊れないから……」


 シャルロッテがまるで小さい子に話しかけるような口調で俺に言った。


「安心して……。ね?」


 その声と表情で、俺ははっとする。


 ……お、俺はなんて情けない男なのだ。ビビっている場合か。俺はシャルロッテを連れているんだぞ。


「……あ、ありがとう、落ち着いた」


 集中しろ。シャルロッテを守るんだ。


 以前の俺とは――死ぬ前の貧弱な俺とは違う。


「相変わらず情けない男だ。……ふん、いいんだぞ、見逃してやっても。……あぁ、そうだ。お前、その魔女が成長するまで彼女を守れ。私の将来の妻の護衛役をしばらくの間だけ命じてやろう。くくく。何なら抱いても構わんぞ。私は寛大なんだ。中古でも構わん」


 ――いかるな。


 冷静になれ。


 俺はシャルロッテとともに、この森を出る。そして幸せになるんだ。目的を見失うな。


 恐怖に、怒りに、身を任せるな――。


「――よし、シャルロッテ、箱を解除してくれ」


「……え?」


「……戦う」


「ほう。私を鑑定したのだろう? 私のステータスは開示してあったはずだが? 面白いことを言う」


 俺はやつを無視して続ける。


「箱を解除したら、俺はシャルロッテを地面に下ろす。君はすぐに自分の身を守ってくれ」


「で、でも。私は自分が箱に入ってると、別の箱を作れないの。リュートくんのこと、守れないよ」


「いいんだ」


 策は練った。


「いいか――」


 俺はシャルロッテに考えを耳打ちした。


 シャルロッテは少しの時間、解除を躊躇ちゅうしょしていたけど、結局は「分かった」と答えた。このまま箱に入っても希望がないことが彼女にも分かったのだろう。


「作戦会議は終了かね? いいだろう、少し遊んでやろう」


 シャルロッテが小さな声でカウントダウンをはじめた。箱を解除する俺への合図だ。


 三、二、一。

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