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4.お母さんに怒られちゃうから

 絵画がたくさん飾られた二階の通路を歩いて行くと、すぐにシャルロッテを見つけることができた。


 手にほうきとちりとりを持っている。掃除してたみたいだ。


 彼女は俺に気がつくと、太陽のような眩しい笑顔を俺に向けた。


 シャルロッテがこちらに駆けよってくる。


「あ、リュートくん! おはよう。……来てくれたんだ」


「う、うん」


「よかった。う、嬉しいな……」


 そんな言葉を言われると、なんかドキドキしてくる。


「今、お掃除してたの。ごめんね、少し待っててくれる?」


「手伝おうか?」


「い、いいよ! お客さんにそんなことさせられないよ!」


 彼女はほうきとちりとりを使ってバツ印を使った。断固、拒否という姿勢だ。


「ここにはシャルロッテしか住んでいないのか?」


「うん。そうだよ」


「ふーん……。そっか、大変だな」


「うん。でも、しょうがないよ」


 しょうがないってなんだ……。


「ごめんね、急いで終わらせるから」


 まあ急ぐ用事もないし、無理に手伝うこともないか。


「分かった。じゃあ、一階に行ってていいかな」


「うん。待っててね」


 俺は一階へ降りると、ダイニングの丸いテーブルの椅子へ着席した。


 ぼーっとしながら待つ。こんなにのんびりするのも久しぶりだ。


 待つ。待つ。待つ……。


 ダメだ。暇だ。


 なんかしたい。


 そうだ。本当に玄関がないのか?


 ……。


 俺は少し悩んだけど、この屋敷を徘徊してみることにした。廊下を歩くだけにして、部屋に入らないようにすれば大丈夫だろう。


 ダイニングを出て廊下へ。


 通路をまっすぐ歩いて行く。


 木製の扉があった。プレートが貼ってあって『図書室』とある。


 外観と、中から歩いた感じから、だいたいの広さが予想できる。この図書室は結構広そうだ。本がたくさんあるんだろうか。


 続けて探索する。


 トイレ、浴室、キッチン、物置、機械室……。


 一人で住むには広すぎないだろうか?


 ある程度見終わった。


 結論から言うと、一階に玄関はなかった。廊下がロの字型になっていて、どこからも出られる場所はない。


 うーん、なんでだ? 分からん。


 でも、その代わりに、あるものを見つけた。


 鉄製のごつい扉だ。内装に合っていないせいで、めちゃくちゃ浮いている。


 これは出口じゃないと思う。建物の中心部にある部屋だと思われる。


 足で測った感じでは、おそらくそこまで広くない部屋だと思う。たぶん六畳くらいか?


 ここにはプレートがなく、何の部屋か分からない。


 なんなんだろう……。


 俺は好奇心に負けて、シャルロッテには悪いと思いながらもドアノブに手をかけた。


「ん……開かない。鍵がかかっている」


 おかしいな。鍵穴なんてないのに。どこかにスイッチがあるのだろうか?


「あ、リュートくん」


 と声がした。振り返るとシャルロッテがいた。


「こんなとこにいた。なにかあったの?」


「あ、いや。ちょっと廊下を散歩してた。なあ、この部屋はなんなんだ?」


「ここは『受け渡し部屋』だよ」


「……? なんだそれ?」


「料理の材料とか、飲み物とか、本とか、画材とか、必要なものをここで受け取るんだよ」


「……受け取る? 誰が?」


「私が」


「誰から?」


「お母さん!」


「……ふーん」


 謎だ。


 そんな部屋がある理由が分からない。


 それに、一人で住んでるってさっき言わなかったっけ? この屋敷には入口がないのに、どうやって四方を囲まれているはずのこの部屋に来るんだろう。


「開けてもいいか?」


「あ、開けられないよ。中に何もないときは入れないの」


「なんで?」


「分かんないけど……そうなってるの」


「ふーん。でも、俺は開けられるぞ」


 ぼわん、と煙を出す。


「開けられる時があるってことは、普段は何かでロックしてるってことだ。なら、煙で解除できる」


「だ、ダメだよ! 怒られちゃうよ」


 シャルロッテは俺と扉の間に割って入り、扉を守るようにばっと両手を広げた。


「誰に?」


「お母さんに……。と、とにかくダメったらダメなの!」


「…………」


 俺は煙を引っ込めた。


 気にはなるけどしょうがない。


 俺だってこの子に嫌われたくないんだ。今はいいとしよう。


 別の話題を振るか。


「そういえば、さっき画材って言ってたな。シャルロッテは絵を描くのか?」


「あ、うん。二階にいっぱい絵があったでしょう? あれ、私が描いたんだよ」


「なに!? マジか?」


「う、うん……どうしたの?」


「めちゃくちゃ上手じゃないか!」


 美少女で、クッキーを焼くのが上手で、絵も上手って、そんなのありなのか?


「な、なんか恥ずかしいな。でもありがと」


「あらためて見てみたい」


「うん、いいよ」


 俺たちは鉄製の扉のある場所を離れ、階段を上がり、二階の廊下にやってきた。


 すごい数の絵だ。これを全部シャルロッテが描いたのか?


 油絵ってやつだろうか。一枚一枚がすごく丁寧に描かれている。プロが描いたみたいだ。


 大きな滝、険しい山、美しい空、花が咲き乱れる森……。物語に出てきそうな魅力的な景色ばかりだ。


「風景の絵を描くのが好きなのか?」


「う、うん。それはね、行ってみたいところを想像で描いたの。いつの間にか、こんなに増えちゃった」


「へぇー」


 これは、海だろうか。ナイトプールみたいに七色に光っている。自然現象なのか?


「そこは行きたいところナンバーワンのとこだよ。海って言うの」


「ほぉー」


 この世界には、こんな景色があるのか。俺も見てみたい。


 端から順にじっくり見ていって、ドラゴンの絵の所までやってきた。この絵もじっくりと観察する。


 うーん。俺もこんな姿なのかな。いくらなんでも、こんな恐ろしい顔はしてないと思うんだけど……。


 ドラゴンモードで鏡を見てみたいけど。今はサイズが大きくなってしまったから、この家じゃあ無理そうだ。


「怖いよね、そのドラゴン……」


「ん? あぁ、そうだな」


「それもね、想像で描いてみたんだ」


「ふうん。すごいな、うろこまで見てきたように細かく書いてあるぞ」


「うん。その鱗は、触っただけで手がただれて腐り落ちちゃうんだよ」


「え? 急にこわいぞ!」


「ふふ。そういう設定なの。あとね、そのドラゴンは残り二回の変身を残してるの。ただでさえ強いのに、変身する度にパワーが増すんだよ」


 なんか聞いたことあるぞ。


「あとね、そのドラゴンはすごい極悪で、人間のお姫様をさらっちゃうんだよ。それでね、勇者様に退治されちゃうの。これは、その最後の戦いの場面」


「……極悪か」


 俺が竜人だとカミングアウトしたら、シャルロッテはどういう反応をするだろう。


 …………嫌われるだろうか。


 それはちょっと――いや、かなり辛いな。


「あの、今度リュートくんのことも絵に描いてもいい?」


「もちろんいいぞ。むしろ描いてほしい」


「やったぁー! うん。頑張って描くよ!」


 ガッツポーズしている。可愛い。


 絵か。俺は手先は器用なんだが絵だけは苦手だった気がするな。転生後でも変わってないのだろうか?


「なあシャルロッテ。せっかくだし俺も絵を描いてみたい」


「本当? じゃあ一緒に描こう! こっちに絵を描くお部屋があるの。来て!」


 シャルロッテは嬉しそうにそう言うと、廊下を早足で歩いていき、俺を部屋へ案内した。


 シャルロッテが扉を開ける。


 ふわりとオイルっぽい匂いがした。絵の具の匂いだ。


 アトリエって感じの部屋だ。


 中央にイーゼルがあって、布のかかったキャンバスがかけてある。シャルロッテが描いている途中のものだろうか。


「道具はいっぱいあるから、リュートくんに貸してあげるね」


 部屋の隅に、たくさん道具が置いてある。


「よかったら、今から描いてみる?」


「そうだなー。よし、やってみるか」


「うんっ! じゃあ、準備するねっ」


 ………………。


 …………。


 ……。

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