14.魔猿リベンジ戦②
上から声がした。やつが高い木の上で肩を揺らして笑っていた。観戦を決め込むつもりらしい。
くそ。……その慢心、後悔させてやる。
「みゃ!(【竜の爪】)」
黒いオーラが爪のようになって猿へ飛んでいく。
が、当たらない。猿が木から木へと高速で飛び移っている。
ど。どこだ? 目にも見えない速度。
やつを見失っているうちに、俺はモンスターたちに囲まれていた。
くそ、数が多いとはいえ、今の俺が死にかけのモンスターになど負けるものか。
「みゃみゃみゃみゃ!(【火球】! 乱れ撃ち!)」
動いているモンスターをまとめて焼いていく。着弾とともに炎が炸裂し、周辺が燃えていく。
「みゃあ!(【乱気流】!)」
俺を中心に不規則な気流が生まれ、辺りにいたモンスターを吹っ飛ばす。この魔法は雷を伴っている。死にかけのモンスターどもが焼かれて死んでいる。
火炎が風で大きくなり森へ広がっていく。ごうごうと燃える音。物が焦げた臭いが充満している。
炎がオレンジ色の光でこの場を照らしている。夜だというのに視界は昼間のように良好だ。
どこだ、あの猿はどこにいる?
どしん、と音がした。大地が揺れる。猿が目の前に降り立った。
「キャキャキャキャ!」
やつが大きな足音とともに近づいてくる。凄まじいプレッシャー。死の予感がする。
「みゃ!(【閃光】!)」
カッ! と強い光が俺と猿の間で爆ぜた。
強烈な光に、猿の体が一瞬だけ止まった。
しかし止まったのは一瞬のことで、すぐに猿が動き出した。とてつもないスピードだ。
俺は緑の煙で猿を掴もうとするが、猿はそのすべてをかわした。
あのハエやカマキリ人間よりもずっと速い。
俺の必殺が簡単に処理されてしまう。
「みゃっ……っ!」
ピシ、と俺の体が硬直したのが分かった。また魔眼を食らっている。
「キャ!」
猿が蹴りを繰り出した。緑の煙で自分の体をひっぱって無理やりかわしたが、猿のつま先がかすってしまった。
胸の肉が抉れて鮮血が舞った。
猿が追撃する。
咄嗟に俺は両腕でガード。が、威力は強烈だった。
腕がへし折れて、そのまま燃える森の中へ吹っ飛んでいく。
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名前:リュート
種族:竜人種/スモールマジックドラゴン
状態:麻痺
レベル:1
HP:102/1652
MP:321/2640
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周辺が燃えている。ぱき、ぱきと小枝を折るような音を上げながら、火炎が広がっている。
デジャヴってやつか? 最近、こんな場所で死んだぞ。
「キャキャ! キャキャキャキャ!」
嬉しそうな顔で猿がゆっくりと歩いてきた。
「キャキャキャ!」
こいつにとって、殺戮は遊びなのだ。今から俺を殺すことがうれしくて仕方ないらしい。
HP・MPを魔石を使って回復する。
くそ、こいつに何個使わされてるんだ?
「みゃ!(【閃光】!)」
カッと光ったが、猿は腕で目を隠していた。学習能力があるようだ。こいつはあの一度の攻撃で、この魔法を攻略してしまったらしい。
続けて緑の煙を何本ものムチのようにして連続で猿を掴みにかかる。
が。
「キャキャキャ!」
速い。速すぎる。目にも見えないのだ。捉えられるわけがない。そう、俺の力を正面からぶつけても、こいつを捕まえられない。
「キャキャキャ! キャキャキャ!」
猿が踊りながら頭の上で手を叩いている。
こいつにとって、これは戦いじゃあない。ゲームなのだ。
俺とこの魔猿は、それくらい力の差がある。
あぁ……終わった。
ぼん!
俺はドラゴン化を解除した。
突然のことに猿が不思議そうな顔をしている。
「どうして俺が逃げないのか不思議か? どうしてドラゴン化を解除したか不思議か?」
「…………ウキャ?」
「もう、いいんだ。もう、何もかも終わった……」
そう、終わったのだ。
……こいつを殺す準備がなッ!
「まだ気がつかないか? 貴様の体に、すでに触れているぞ。俺の煙が」
森の燃えさかる炎が生み出した煙に混じって、俺の煙が猿を拘束していた。
何のために見るのも嫌な炎を放ったのか? すべてはこのためだ。
まともに捕まえられないなら、搦め手を使う。
ただの煙に擬態して、こいつをひっそりと捕えたのだ。
「【忍び寄る影】!」
猿の頭に霧のような影がかかった。
「どうだ? 暗闇は怖いだろ?」
俺がカマキリ人間に食らった魔法だ。この魔法は相手の視覚と聴覚を奪う魔法。
その魔眼はお前の見たものに効果を与えるんだろう? さすがに何度も喰らえば分かる。
ようやく、その厄介な目を奪ったのだ。
ぎ、ぎぎぎぎと猿が力を入れている。
凄まじい力。俺の煙を上回ろうとしている。
だが、俺はそれも想定していた。
白い煙が、黒く染まっていく。
「潰れるがいいッ!」
どすん、と音を立てて猿が膝をつき、続けてうつ伏せになって倒れた。
地面に猿の体がめり込んでいる。
黒い煙は闇属性の力。重力を操る能力がある。
今こいつの全身は普段の十倍以上の重さになっているはずだ。ダンジョンを出てから、俺はこの煙を練習していた。こいつを倒すために。
「その驕りがなければお前の勝ちだったな。俺を侮ったことを、あの世でせいぜい悔やむがいい」
言いたいことを言えたので、俺は再びドラゴンへ変化する。
俺の体が閃光を発している。強い魔力が凝縮されていくのが分かる。
お前を倒して俺は前へ進むぞ! 喰らえ! ドラゴンブレス――!
至近距離で魔力の砲弾を撃ち込んだ。俺が持つ最大最強の力。
爆音とともに、視界が白く染まった。
――――――。
――――。
――。
周囲が荒野に変わっていた。木々が消え、炎も消え去った。
俺はドラゴン変化を解いた。
進化後、初めてドラゴンブレスを使ったけど、威力が上がっている。
猿は、俺の目の前にうつ伏せになって倒れていた。
白い体毛は黒く焼け焦げていて、胴体に大きな穴が空いている。
「倒した、のか?」
かり、と音がした。
猿が指が動かしたのだ。
…………嘘だろう? さすがにもうないぞ。こいつを倒す策は全て出しきった。
猿がガバッと立ち上がった。
「キャキャキャキャキャキャ!」
「く、くそ!」
俺は構えを取る。
が、猿の動きが突然止まった。
「キャ……キャキャ?」
六つの目がぐるんと白くなって、そのまま泡を吹きながら仰向けに倒れた。
どすん!
…………。
【――レベルアップしました】
【――レベルアップしました】
【――レベルアップしました】
【――レベルアップしました】
【――レベルアップしました】
【――レベルアップしました】
【――レベルアップしました】
【――レベルアップしました】
【――レベルアップしました】
【――レベルアップしました】
【――称号『耐えるもの』の効果により、スキル『根性』を獲得しました】
【――スキル『防御Lv3』を獲得しました】
【――スキル『範囲攻撃Lv3』を獲得しました】
【――ステータスを表示します】
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名前:リュート
種族:竜人種/スモールマジックドラゴン
レベル:10(+9)
SP:442
HP:2127/2127(+27)
MP:1208/2667(+27)
攻撃力:731(+21)
防御力:731(+21)
敏捷性:731(+21)
魔法攻撃力:931(+21)
魔法防御力:931(+21)
魔法:
『火球』、『水弾』、『水の龍』
『氷の槍』、『切り裂く風』
『突風撃』、『風の障壁』
『飛行』、『雷の矢』、『雷鳴』
『閃光』、『雷歩』、『雷帝』
『土の槍』、『地震』、『泥の沼』
『治癒』、『回復(小)』、『強化加工』
『器物召喚』、『魔法の矢召喚』
『魔力灯』、『毒の霧(麻痺)』
『忍び寄る闇』、『疾風迅雷』
『大嵐』、『乱気流』、『風塵』
『土人形』、『癒しの風』
『癒しの雨』、『肉体増強』
『竜への変身』、『人への変身』
『竜の爪』
スキル:
『言語理解』、『根性』
『視覚・聴覚強化Lv2』
『HP自動回復上昇Lv1』
『MP自動回復上昇Lv2』
『MP10%アップ』、『MP消費緩和Lv3』
『格闘Lv2』、『片手武器Lv3』
『集中Lv2』、『範囲攻撃Lv3』
『隠密Lv3』、『防御Lv3』
『恐怖耐性Lv5』、『麻痺耐性Lv5』
『毒耐性Lv5』、『精神汚染耐性Lv5』
『石化耐性Lv5』、『雷属性魔力操作Lv3』
『水・風・土・回復・召喚・特殊属性魔力操作Lv2』
『火・付呪・闇属性魔力操作Lv1』
『★煙の支配者』、『☆ドラゴンブレス』、
『☆竜の闘気』、『☆竜魔法Lv2』、『л』
称号:
『異世界からの来訪者』、『耐えるもの』
『クインティプル』、『一のダンジョンを超えたもの』
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【――条件を満たしました。進化が可能です】
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以下の進化先が選択可能です。
・レッドマジックドラゴン
・ブルーマジックドラゴン
・イエローマジックドラゴン
・グリーンマジックドラゴン
・グレイマジックドラゴン
・ブラックマジックドラゴン
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「…………勝った」
……よな?
つんつん。
動かない。
「……は、はは! 勝ったぞ! うおおおおお! 俺は勝った! 勝利した! この猿をやっつけてやった!」
俺は一人で大笑いしてから、ばたんと仰向けになった。
めっちゃ疲れた。死ぬかと思った。
かなり危険な戦いだったが、リベンジ成功だ!
これで心おきなく森を出られるぞ。
よく勝てたな。マジで。
瞬殺されてもおかしくなかった。
やつは俺を格下だと侮っていたから、全力で殺しにこなかった。
そして魔猿は死んで、俺は生き延びた。
どんだけ強かろうが、この森はそれが全て。
勝ったのは――強かったのは――俺だ!