10.ハエ型モンスター②
「みゃあ!(喰ってやるッ!)」
最初から最大出力だ。一気に勝負をつけてやる。どうやら黒い鎧はドラゴンの体に合わせて変化してくれたようだ。
スタミナを回復する魔石を使用する。
瞬間。俺の体が青白く発光した。
これで残りストックは六。飢餓状態は収まらないがスタミナは一時的に復活した。
「みゃみゃみゃ!」
竜の闘気をオンにする。ぶおん、と漆黒のオーラが体を包む。
今の俺はせいぜいバレーボールくらいの大きさだけど、通常時よりもあらゆる力が向上しているのが分かる。
「んみゃあ!」
洞窟内の空間を全速力で旋回する。どうだ? 周りをこんな風に飛ばれると鬱陶しいだろ?
よし、背後を取った。
――な、に!?
しかし、俺が攻撃を開始する前にハエが行動した。その巨体からは考えられないような速度で飛び、洞窟の天井にへばりついたのだ。
は、はえー! ハエだけに!
反射的にくだらないことを思ってしまったせいか、壁にへばりついていたハエが消えたことに一瞬遅れた。
次の瞬間、俺はハエに体当たりされ、吹っ飛んでいた。
ぐるんぐるんと回転しながら飛んでいき、俺は背中から壁に激突する。
体が岩の中に深く埋まった。がらがらと瓦礫が落ちる。
「みゃ……みゃあーん。(う、なんというパワー)」
あほか俺は。集中しろ。
□□□□□□□□□
名前:リュート
種族:竜人種/ミニチュアマジックドラゴン
状態:飢餓
レベル:7
HP:462/1656
□□□□□□□□□
ハエは俺の正面でホバリングすると、その尖った口から紫色の弾を雨のように撃った。
俺はすぐに壁から脱出し回避をはかったが、一発だけ尻尾に喰らってしまった。
「みゃ……みゃあ!(うぐ……くそ!)」
じゅうう、と鱗が溶けている。火傷したように痛い。
じわりじわりと命が削られていく感覚があった。
ま、まずい。
□□□□□□□□□
名前:リュート
種族:竜人種/ミニチュアマジックドラゴン
状態:飢餓・毒
レベル:7
HP:122/1656
□□□□□□□□□
「みゃあ(【治療】)」
俺は魔法で毒状態を解除する。
同時に、白の魔石の使用しHPを回復した。
これで残りストックは五だ。
ハエは高速飛行で俺を追ってきた。
煙をぼわんと広げる。煙幕を兼ねた拘束だ。
しかしハエの動きは速く、煙では捕まえられない。触れることさえできない。
ま、まずい。煙の力を使うと一気にスタミナが……。くらりと眩暈があった。
毒のライフルが上下左右あらゆる方向から迫る。ハエが高速移動し乱射しているのだ。明らかに致死量を上回っている。
「みゃああ!(うおおおおッ! 【風の障壁】!)】
ぼわん、と緑色の煙が俺の体から生まれた。
――なっ!
煙まじりの風が壁になって、毒の球を全て弾き飛ばした。
今のは。前も見た。
たしかここに来る前、ハチと戦っていた時だ。
この感覚は、もしかして。
俺は力を振り絞って煙を出現させる。
ぼわん。
今までの白い煙じゃあない。
緑色の煙だ。
緑色の煙はこれまでと比べ物にならない速さで移動した。まるでジェット機が煙を出しながら飛ぶようにハエへ向かう。
「みゃ、みゃみゃみゃ(や、やっぱりそうだッ! この煙は……『風の魔力』を含んでいるッ!)」
ハエが空間内と飛び回り、煙から逃げる。
ばしゅうううううう!
緑の煙がぐるんぐるんと宙に模様を描き、そして――。
ハエを完全に捕縛した。
ハエが煙の中でジタバタと暴れている。
「みゃ、みゃああ! みゃあ!(や、やったッ! 偶然だが新しい力を見つけたぞッ!)
これで終わりだ。確実に殺してやる。
ドラゴンブレス――!
周囲のエネルギーが俺の体内へ集まり、うねりながら束になっていく。
「みゃッ!」
ハエの顔面に着弾。
どっ――――。
――ぉぉぉん。
ハエは粉々になって吹き飛んだ。
【――レベルアップしました】
□□□□□□□□□
名前:リュート
種族:竜人種/ミニチュアマジックドラゴン
レベル:8(+1)
状態:飢餓
SP:2342
HP:1332/1659(+3)
MP:341/1719(+3)
攻撃力:504(+2)
防御力:504(+2)
敏捷性:504(+2)
魔法攻撃力:706(+2)
魔法防御力:706(+2)
魔法:
『火球』、『水弾』、『水の龍』
『氷の槍』、『切り裂く風』
『突風撃』、『風の障壁』、『飛行』
『雷の矢』、『雷鳴』、『閃光』
『雷歩』、『雷帝』、『土の槍』
『治癒』、『『回復(小)』
『強化加工』、『器物召喚』
『魔力灯』、『忍び寄る闇』
『疾風迅雷』、『大嵐』、『乱気流』
『癒しの風』、『癒しの雨』
『肉体増強』、『竜への変身』
『人への変身』
スキル:
『言語理解』、『根性』
『HP・MP自動回復上昇Lv1』
『MP消費緩和Lv3』
『格闘Lv2』、『片手武器Lv3』
『集中Lv2』、『範囲攻撃Lv2』
『隠密Lv3』、『防御Lv2』
『恐怖耐性Lv5』、『麻痺耐性Lv5』
『毒耐性Lv3』、『精神汚染耐性Lv5』
『石化耐性Lv5』、『雷属性魔力操作Lv3』
『水・風・回復属性魔力操作Lv2』
『火・土・付呪・召喚・特殊・闇属性魔力操作Lv1』
『★煙の支配者』、『☆ドラゴンブレス』
『☆竜の闘気』、『☆竜魔法Lv1』
称号:
『異世界からの来訪者』、『耐えるもの』
『クインティプル』
□□□□□□□□□
そこらじゅうにハエの肉片が散らばっている。
――に、肉だ!
俺はまるで中毒者みたいに肉片へかぶりついた。
「ぐる、ぐるるる!」
俺はまるで犬のように鋭い牙で硬い肉を噛み切って、腹へ肉を入れた。
即座に飢餓が解除される。
ようやく、HPの低下が止まった。
ぼんっ!
通常モードに戻る。
「……あ、危なかった」
だが生き延びたぞ。
必死すぎてハエの肉を喰らうことに嫌悪感など感じなかった。だけど……。
「……気持ち悪っ」
そりゃそうだ。誰が好き好んでハエなんて食うか。口の中が苦みで充満してる。
でも、他の肉片も食わないと。
よし、食うぞ!
【――スキル『毒耐性Lv4』を獲得しました】
【――スキル『毒耐性Lv5』を獲得しました】
* * * * *
しまった。回復の魔石を一つ使ってしまった。残りストックは四。
まさか毒があったとは……。危うく死ぬところだった。一気に毒耐性が上がったぞ。
でも腹は満ちた。
よし。俺はダンジョンをクリアするぞ。ここを抜けてやるっ!