1.ドラゴンブレス
火事で死んだ俺だが、何故か白い部屋で目が覚めて、謎の白い球体になっていた。
何回か死にそうになりながら白い迷宮を進んでいき、今はドラゴンの手足と翼とツノがある三歳児くらいの竜人をやっている。
……俺の第二の人生がいきなり波乱万丈すぎるぞ。
さっさとこの森を出なくては。そして幸せな人生を送るのだ。
さて、俺は白い部屋で目覚めた時と同じように、まず周囲の調査から始めることにした。
何をするにしても安全を確保してからだ。
とりあえず思ったのは、服がめちゃくちゃほしい、ということだ。
全裸で森を歩くってのが落ち着かない!
いくら幼児の体とはいえ、俺の心はれっきとした十五歳の男なのだ。
あと、できれば武器もほしい。
SPを使って武器や防具を作ることができなくなってしまったみたいだ。
でもこっちはなくてもいいかもしれない。
この鱗に覆われた黒い尻尾は鋼鉄のしなる棒を持っているようなものだし、この爪で試しに軽く木をひっかいてみたら、溶けはじめのアイスクリームみたいに簡単に木が抉れた。どちらも十分武器になるだろう。
がさ、がさがさ。
茂みの方から葉っぱのこすれる音がした。
なんだ……?
警戒していると、茂みから影が飛び出した。
「うげっ!」
全長1mくらいの羽蟻のような虫だ。球体の虫じゃあない。サイズはおかしいがちゃんとした虫っぽい虫だ。
蟻はこちらに向かってジャンプしてきた。
能力を使うまでもない。本能なのか俺の力がこいつを上回っていることが分かった。
俺は尻尾を振って、向かってくるその虫をぶっ叩いた。
尻尾の打撃は強烈で、そいつは一撃で地面に落下して動かなくなった。
「……死んだ……のか?」
頭がべこりとへこんでいる。俺が尻尾で叩いた場所だ。たぶん死んでいると思う。今までみたいに破裂はしないみたいだ。
がさ、がさがさ。
うん? また音が……。
がさ、がさがさ。がさがさがさがさ。
な、なんだ? 四方八方から音が――。
次の瞬間。
「ま、マジかよ!」
さっき倒したのと同じサイズの蟻が全方向から一斉に襲ってきた。
俺は咄嗟に翼を広げ地面を強く蹴った。びゅーっと空中に高く舞って、その場で体を維持する。
不思議なことに翼をゆっくりと動かすだけでも浮いてられるようだ。
飛行能力も気になるが、今は下のこいつらだ。
「うぅっ! す、すごい数だ」
五十体は軽くいる。地面に黒いものがうじゃうじゃと蠢いている。
あいつらは明確に敵意を持っている。俺を集団で殺しにきた。
今ここで倒さなければならない。
新しいスキルを使ってみるか。
――ドラゴンブレス。
周囲の魔力が渦を巻いて俺の肉体へ集まっている。魔法を使う時と同じ感覚だ。
ばちちちと音を立てて、俺の体から黒色の閃光がいくつも走った。
俺は体内にため込んだ魔力を――。
「破ァッ!」
口から一気に放出した。
凝縮されたエネルギーの塊が猛スピードで放たれた。蠢いていた黒い蟻どもの中心に着弾。
――どぉぉぉん!
着弾と同時に爆発。強い衝撃波が発生した。爆発は蟻をごっそり吹っ飛ばし、その余波は周囲の木々をなぎ倒しながら放射状に散っていった。
【――レベルアップしました】
【――スキル『範囲攻撃Lv1』を獲得しました】
【――ステータスを表示します】
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名前:リュート
種族:竜人種/ミニチュアドラゴン
レベル:2(+1)
SP:3120
HP:1323/1323(+3)
MP:983/983(+3)
攻撃力:273(+3)
防御力:273(+3)
敏捷性:273(+3)
魔法攻撃力:223(+3)
魔法防御力:223(+3)
魔法:
『切り裂く風』、『飛行』、『雷の矢』
『忍び寄る闇』、『疾風迅雷』
『竜への変身』、『人への変身』
スキル:
『言語理解』、『根性』
『HP・MP自動回復上昇Lv1』
『片手武器Lv3』、『集中Lv2』
『範囲攻撃Lv1』、『隠密Lv2』
『防御Lv2』、『毒耐性Lv2』
『風・雷・闇属性魔力操作Lv1』』
『★煙の支配者』、『☆ドラゴンブレス』
『☆竜の闘気』、『☆竜魔法Lv1』
称号:
『異世界からの来訪者』、『耐えるもの』
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俺の口の端から残り火のような魔力が煙のように漏れている。
俺は蟻の消えた地面へ降り立った。
地面がクレータ状に削れて、茶色い土がむき出しになってる。きっと中心にいた蟻は木っ端みじんになったに違いない。
「……す、すげえ。なんだこの威力」
でも、さすがに連発はできないみたいだ。
冷却時間が必要なことが本能で分かる。たぶん三時間に一回くらいしか使えない。
けど、それでも十分だ。このスキルは武器になる。
それと戦ってみて気がついたが、隠しステータスのスタミナ値も球体の時よりも高くなっている感じがする。
これなら煙の支配者のスキルも長い時間使えるかもしれない。
ふと気配がした。
今の音で敵を呼び寄せてしまったんだろうか。
気配のする方を見ていると、巨大な狼のような化け物がやってきた。体毛は青い。頭に角が生えている。
狼はぐるる、と涎を垂らして牙を剥いていた。
こいつは、強いな。
さっきのように勝てるという確信が持てなかった。
狼が口をがばっと開き、
「ガァ――――!」
咆哮した。その巨大な声に空気が振動する。
うぅ……! こ、これは。
う、動けない。俺は足がすくんでしまっているッ!
【――スキル『恐怖耐性Lv1』を獲得しました】
ばち、ばちばちと狼の体が閃光を発している。魔力が働いているのだ。
ばしゅうっ!
「……う、うあああああ!」
稲妻の矢がいつの間にか俺の肩を貫いていた。これは俺が持っているのと同じ『雷の矢』。
肩に強い熱と痛みを覚える。肉が焦げるような匂いもする。
ばしゅうっ! ばしゅう、ばしゅう!
雷の矢の雨が降り注ぐ。そのうち何本かが胸や足など突き刺さった。
【――スキル『麻痺耐性Lv1』を獲得しました】
まずい。全身が痺れている。動けない。
「ガァ――――!」
こ、この野郎ッ! いい気になるなよッ!
「おらあああああ!」
ぼわあん!
大量の煙を出現させ、巨大狼を四方から掴みにかかった。しかし――。
「は、速いッ!」
一瞬だけ狼の足が黄色く輝き、瞬く間に消えた。
目に見えないほどの速さ。煙が追いつけない。狼は俺の周りを回転しながら距離を詰めている。
なら――。
ぼわっ。
固めていた煙を爆散させる。ほんのわずかな先さえ見えないほどこの場に白い煙が充満した。
そして。
繭のように煙に巻き取られた狼が、ずざざざぁ、と地面に激しく転がった。
「へっ! 掴めないのならこうして煙をネットのようにしてやればいいのさ! 動きまわれば煙が引っかかる! ワタアメをかき回すみてーにな!」
続けて俺は煙を凝縮して一気に締めつけた。
ぎりぎりと力を込めるうちに、べき、と骨の折れる感触があった。
【――レベルアップしました】
【――レベルアップしました】
【――ステータスを表示します】
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名前:リュート
種族:竜人種/ミニチュアドラゴン
レベル:4(+2)
SP:3320
HP:923/1329(+6)
MP:989/989(+6)
攻撃力:278(+5)
防御力:279(+6)
敏捷性:278(+5)
魔法攻撃力:228(+5)
魔法防御力:229(+6)
魔法:
『切り裂く風』、『飛行』、『雷の矢』
『忍び寄る闇』『疾風迅雷』、
『竜への変身』、『人への変身』
スキル:
『言語理解』、『根性』
『HP・MP自動回復上昇Lv1』
『片手武器Lv3』、『集中Lv2』
『範囲攻撃Lv1』、『隠密Lv2』
『防御Lv2』、『恐怖耐性Lv1』
『麻痺耐性Lv1』、『毒耐性Lv2』
『風・雷・闇属性魔力操作Lv1』
『★煙の支配者』、『☆ドラゴンブレス』
『☆竜の竜の闘気』、『☆竜魔法Lv1』
称号:
『異世界からの来訪者』、『耐えるもの』
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「……う」
勝ったのはいいが、安堵よりも別の感情が湧いてきた。
生き物を殺してしまった、という嫌な感覚だ。それは足元からざわざわと這い上がってきて、首筋をきゅっと絞めた。
う、ヤバい。こんな気持ちになるなんて。
今までも敵を倒してきたが、今回は見た目が動物っぽい感じだったからだと思う。
「なあああああ!」
俺はでかい声を出した。
「……俺は! 俺は死にたくないっ! 絶対に生きのびてやるぞ!」
襲ってくるなら獣だって殺す。迷うもんか!
自分にそう言い聞かせ、俺はどうにか活力を取り戻す。
行こう! この森を出るんだ!