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1.死亡~転生

 嘘だろ……?


 俺の人生、こんなんで終わりかよ。


 凄まじい煙と火炎が、この部屋を包囲している。


 どこにも逃げる場所はない。この部屋が焼け崩れるのも時間の問題だろう。


 サイレンの音が遠くに聞こえる。


 だけど、きっと消防車はもう間に合わない。


 俺はもうすぐ、たぶん死ぬ。


 これは呪いか?


 俺の家族は七歳の時にみんな火事で死んだ。八年前のことだ。


 そして俺も今、同じ火事で死にそうになっている。


 きっとご先祖様が火事でも起こして、誰かに祟られたに違いない。


 それで俺たち末裔(まつえい)は、煙と火炎に殺される運命だったんだ。


 そうじゃなきゃ、なんだっていうんだよ。


 ぱき、と炎の()ぜる音が聞こえ、そのあと天井の一部が大きな音を立てて崩れ落ちた。


「……けほ」


 屋根裏に溜まっていた(すす)の混じった濃い煙が、一気に流れ込んできた。


 苦しい。鼻と喉の奥がひりひりする。目にも激しい痛みがある。さっきから涙が止まらない。この煙のせいだ。


 ヤバい。意識が遠くなってきた。


 本当にこのまま死んじまうのか?


 俺はまだ何もしていない。


 俺は俺が望むことを何一つやれてない。


 家族が死んだあと俺を引き取ったのは、どうしようもない人間の(くず)だった。


 遠い親戚にあたるらしいが、よくは知らない。


 やつの話によれば、保険金を受け取るのが目的だったそうだ。


 どれだけ殴られたか分からない。どれだけ殺してやろうと思ったか分からない。


 だけど俺は我慢した。何もかも我慢した。


 死んだ家族の分まで幸せにならなきゃいけないと思っていたからだ。


 中学を卒業したら、すぐに家を出るつもりだった。


 俺を雇ってくれる店だって、もう見つけてたんだ。


 もうすぐ、あと数か月で俺の新しい日々が始まるはずだった。


 なのに――。


 俺はもうすぐあっけなく死ぬ。


 クソみたいな人生の果てに、何もかもが煙に染まった地獄のようなこの場所で、俺はあっけなく死ぬのだ。


 ちくしょう。


 死にたくねえ。死にたくねえよ。


 普通でいいのに。普通の人が普通に送る普通の人生。たったそれだけでいいのに。


 ああ、なぜだろう。


 今になって幸せだった頃のことを思いだした。


 夏の終わりには毎年決まって家族みんなで花火をやるんだ。


 あの日見た色とりどりの煙の色は、とてもきれいだった気がする。


 父さん、母さん、りん


 みんな元気かな? 天国にいるんだろう? 俺も、もうすぐそっちに行くよ。


 そしたら、会えるのかな。


 そう考えれば、死ぬのも悪くないのかな。






 ああ、ダメだ。


 怖い。


 消えたくない。


 悔しい。


 やっぱり死にたくねえ。


 死に、たく――。


 死に――。


 死、死死ししししし――。














【――称号『異世界からの来訪者』を獲得しました》】


【――称号『異世界からの来訪者』の効果により、スキル『言語理解』を獲得しました】


【――称号『異世界からの来訪者』の効果により、ユニークスキル『煙の支配者』を獲得しました】




 * * * * * *




 うわああああぁぁぁっ!


 って。……ん? え?


 あれ……?


 なんだ?


 生きてるぞ、俺……。


 夢だったのか?


 はは、ははは!


 んなわけねぇぇぇ!


 あんな痛みを伴うものが夢であってたまるか!


 俺は死んだ。間違いなく死んだ。命が溶けていく不気味な感覚があった。死んだ瞬間が分かったんだ!


 じゃあ……。これはなんだ?


 っていうかここはどこだ?


 真っ暗……。目が見えない。ってか動かない。


 やめてくれよ……暗いところダメなんだよ、俺。


【――SPを消費し『目』を作成しますか?】


□□□□□□□□□

所持SP:10

・目(1個):1

□□□□□□□□□


 はっ!?


 な、なんだこれは? 頭の中に変な声と、変な文字が……。


 わ、訳が分からないッ!


 頭がおかしくなりそうだ。


 なんでもいいから、とにかく暗いのを何とかしてほしい。


 そう思った瞬間。


 ぱっと目の前が明るくなった。


 …………え?


 ここは……。


 白い部屋のようだ。教室くらいの広さ。何も物が置いてない。壁が光っているのか、照明はないが部屋は明るい。


 部屋の奥には通路があるみたいだ。だけど角度があってここからじゃその先が見えない。


 そして俺は地面に伏せているような体勢でいるらしい。視界の下半分が床なのだ。


 そういえば体の感覚がおかしい。手足の感覚がない。


 ぐっ、と体を動かそうと力を込めると、景色が右回転しはじめた。


 あ、あれ? なんだ?


 ぐるぐると回転しながら、俺はどこかに転がっていく。


 うお……止まれないぞ……。


 ころころ……ごつん。


 何かにぶつかった感覚があって、ようやく回転が止まった。


 壁にぶつかったのか? 見えないから分からない。


 俺は一体どうなっちまったんだ?


【――ステータスを表示します】


□□□□□□□□□

名前:なし

種族:魔物のコア

レベル:1

SP:8

HP:5/5

MP:0/0

攻撃力:1

防御力:1

敏捷性:1

魔法攻撃力:0

魔法防御力:0


スキル:

『言語理解』、『★煙の支配者』

『☆パーツ作成』


称号:

『異世界からの来訪者』

□□□□□□□□□


 は?


 なんだこりゃ。


 こういうのは知ってるぞ。ゲームとかでよくあるやつだろ? やったことはないけど、それくらいなら俺にだって分かる。


 なぜゲームみたいな文字が頭に……?


 ここはもしかして、天国……いや、地獄なのか?


 ……む。


 視界の中に動きがあった。頭(?)を動かしてみる。


 通路の奥から、白い球体に虫のような足と触覚がついた変なやつが近づいてきてる。


 なんだ、この謎生命体は?


 球体の虫チックなやつは部屋へ入ってくると、触覚を動かして、まるで俺を察知したかのようにこちらへ方向転換した。


 四本の足を器用に動かしてこっちに来てる……。


 なにか、ヤバい。


 直感だが、このまま何もしなければ俺は破滅するという予感がある。


 そして不思議とこの直感は間違いないという確信があった。


 ふんっ!


 後ろへ動こうとしたが、なかなか力が入らない。


 動けたとしてもあの虫の方が動きの方が速い。追いつかれる。


 ――どうする? このままではまずい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 煙が能力なのは結構珍しくていいと思います! 煙をどう使うのか....楽しみです! [気になる点] 家族や主人公の死因を、もっと煙に関することに寄せた方がいいと思います。 どちらかというと火…
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