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九州大学文藝部・新入生歓迎号

チップス

作者: 蜂蜜飴

作者コメント


好きな人に読んでもらう。をテーマに書いた作品です。

小さな飴を一つ舐めるのにかかる時間で読み切れると思いますので、是非読んでみてください。


寒いとも暑いとも言えない季節、昼とも夜とも言えない時間に、女の子からはかわいいと言われ男の友達からは微妙だと言われる彼女を待っている。昼頃まで続いた雨のせいで、少しジメジメする駅前は、こんな時間から少しずつ慌ただしくなっていく。スーツ姿のサラリーマンやランドセルを背負った私立っぽい小学生の中に、学ラン姿の三人組の高校生が歩いているのを見つけた。人の動きがある中でこんなふうに一人で外に立っていると、ふと中学時代のいじめを思い出す。

そういえば、その始まりは唐突だった。野球部の中で二年生のリーダー的な奴があいつ最近調子乗ってるよなと言い、誰かがそうだなと返したところから始まった。みんなで誘い合ってグラウンドに行っていたのが誘わないようになり、グラウンドからの帰りもそいつ以外でしゃべりながら帰っていた。今でも、僕らが歩く道路の反対側を一人で歩く姿はよく覚えている。今になって連絡などは全くしないが、最近結婚して子供が生まれたと噂で聞いた。

当時、その流れに逆らえなかった僕は人間として生きる価値があるのだろうか。生きることが許されても、幸せになる資格があるのだろうか。もしこの話を彼女にしたならどのくらい嫌われるのだろうか。そんなことをかんがえていると彼女がやってきた。

「ごめんね、遅れてしまって」と何の穢れも知らなそうな顔で彼女が僕に言う。

ふと顔をあげると、きれいな夕焼けが見えた。オレンジ色とも朱色とも言えるような微妙な色だったが、その美しさだけは疑いようがなかった。まぶしくて少しだけ顔をしかめると、彼女も夕焼けに気付き

「うわぁ、綺麗だね。いいもの見ちゃったね」と同意を求めてくる。

僕が少しだけうなずくと、

「じゃあ、いこっか。今日のパスタ楽しみだね」と言って、夕陽と同じくらい綺麗なロングヘアをなびかせながら歩き始める。

お店に入る前にデパートの前でもらったポケットティッシュが普通のよりも高級なもので喜んでいた彼女は、おいしいパスタとピザをお腹いっぱい食べて、とっても幸せそうな顔をする。そんな彼女を見ていた僕も、幸せを感じる。少し涼しくなった夜の街を歩きながら、こんな日々がずっと続いていけばいいなと心の中で思う。

「家に帰ったら、また連絡するね」といった彼女が改札の奥に入っていくまで見送り、僕は家までの10分の道のりを歩きながら考えていた。

その時間には日はすっかり沈んで、曇っているのか真っ暗な空には星の一つも見えなかった。お互いにもうアラサーになって結婚も口にはしないが意識しているのは伝わってくるし、自分の方は彼女と結婚することに対して何の不安もない。もし僕が求婚したら、きっと彼女は喜んでくれるだろう。ただ、彼女に自分がふさわしいのかは全く自信がない。世間の結婚してる人たちはどうやったら幸せにすることを誓います、なんて言えるんだろう。そんなことを思っていると、スマホに彼女からのメッセージが届いた。スマホのロック画面には「今日はごちそうさま。おいしかったね。また行きたいな」という彼女からのメッセージの通知の下に、二か月前に二人で行った美術館の前で撮ったツーショットが見えた。暗い夜道の中では不釣り合いな4.7インチは僕に勇気をくれるような気がした。

ふと顔をあげると、雲のすき間から細い三日月が見えていた。


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