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魔楼骨董店の奇怪譚  作者: 静 霧一
黎明編
2/29

新宿怪奇①

とりあえず1話。

訂正箇所は随時直していきます。

ご評価お願いします。


※3/8 書き直し訂正

 空閑とノーラは、警視庁の地下、とある一室に来ていた。


 事の発端は、警視庁の特殊犯罪を取り扱う課の室長である加納からの事件解決依頼である。

 時折、加納から事件の依頼が舞い込んでくるが、そのほとんどが猟奇的思考者や知能犯による犯行であり、それは日本の警察が行うべき調査であり、私達の関与するべき領域ではないと、そのほとんどを断っていた。

 だが、今回の依頼案件には、どうもこの世界とは別の匂いがすると、空閑は勘付いていた。

 この世界に、別の世界の何かが干渉をしている。

 本来の理とは違う理が生じてしまうと、その小さなズレがいずれ大きな崩壊に繋がる。

 空閑は、その小さな事象を一つずつ潰していくことで、大規模に起こる崩壊を阻止しようとしているのだ。


 「それで、事件の内容は?」

 空閑が加納に問いかける。

 「空閑さんは孤独死ってご存知ですか?」

 質問を質問返され、空閑が少し機嫌の悪い顔をした。

 「あぁ。住居内で一人で誰にも看取られることのなく、誰にも知られずに死んでいく。この死に方はこの世界の日本特有のものだ。虫唾が走る。反吐が出るな。」

 空閑は相変わらず無愛想な顔をしている。

 孤独死に明確な定義はないが、「自宅で死亡、2日以上経過」というのが今の日本の孤独死の定義となっている。

 全ての年代を総集計すると、年間3万人近くの人が孤独死の状態にあると言われているのだ。

 この日本という国は、生を蔑ろにし、死を侮蔑している。

 日々喧騒にあふれる大都会に、生の喜びと解放とは程遠い、疲れた屍が行進をしている。

 空閑にとって、生と死は生き物の尊厳であり、尊くべき魂の儀礼であるからこそ、この国の本質に、空閑は憤りを感じていた。

 

 「基本的に孤独死の最大の要因は、突発性疾患や餓死、衰弱死などが挙げられます。これらの死に方は基本的に遺体が放置され腐っていくものなんですがね・・・」

 加納は困った顔で、空閑を見つめた。

 「ここ最近、このような遺体が紛れ込んでいるんですよ。」

 スっと5枚の写真を空閑の前に差し出した。

 5枚の写真をみると、その全ての依頼が赤く干からびたミイラ状態となっていた。

 これらのミイラ状態の死亡推定時刻を推測するのは非常に困難である。

 通常の腐乱死体の死亡推定時刻を調査する場合、死後硬直や死体温、死斑などをもとにある程度の誤差はあるものの、現代の法医学では限りなく近い推測ができる。

 だがミイラ状態の場合はこれに当てはまらない。

 全身が赤土化してしまっているために、これら法医学で用いる生体反応から導き出すことが出来ないのだ。

 そのため、今回の事件で該当される遺体においては、放射性炭素年代測定法を用いたと加納は言った。

 考古学において、古代の化石や遺物などの年代測定において使用されることが主である。

 無機物への年代測定は難しいものの、有機物への年代測定は有効性があると判断しているため、今回はそれが使用された。

 「ほう。これは中々興味深い。」

 写真を左手に取り、空閑は右手で顎を触りながら答えた。

 「これら全ての死亡推定時刻を調査機関に依頼してちょうど回答が返ってきたのですがね。これもまた普通では考えられないんですよ。」

 「で、結果は?」

 空閑は問い詰める。

 「240年前の遺体だそうです。ありえないでしょ、こんなの。」

 それはそうだ。240年前の遺体がそこらへんに転がっているわけがない。

 日本でいえば徳川家が将軍として君臨していた江戸時代の話である。

 東京都新宿の築30年ほどの住居から見つかるような遺体ではないのだ。

 「ふむ...。ノーラ、ちょっとこの写真のその目で見てみろ。」

 空閑はノーラに例の写真を1枚渡す。

 「そうですね...。」

 ノーラはまじまじと写真を覗いている。

 「どうですか?ノーラさん。」

 加納がノーラに恐る恐る尋ねる。

 「こことここ、黒い靄がかかっていますね。」

 指で写真に写る遺体の頭の部分に一箇所、そしてもう一箇所、その頭の上の何もない箇所に黒い靄がかかっているのがノーラに見えているらしい。

 「やはりか・・・。」

 空閑が頷いた。

 「どういうことなんですか?」

 加納が目を泳がせながら解説を求めた。

 「現時点で、明確な回答を出すことはできない。だが、粗方予想はついた。」

 空閑は間を置き、話を続ける。

 「写真の時点では、術式までは解析できないが、これは明らかに黒魔法の痕跡だ。それも時間経過に関連した呪いを受けている。その証拠に、ノーラには黒い靄がその写真には見えている。」

 先ほどの写真をノーラから受け取り、ノーラが指摘したその部分に指をさしながら答える。

 「頭とその上の何もない宙にだ。加納さんはこの意味がわかるかい?」

 加納は突然の問いに動揺した。

 「いえちっとも・・・。魔法なんて御伽話でしか・・・。」

 空閑はため息をつく。

 「では、君でもわかるように説明をしよう。まず靄の色だ。これは使用された魔法痕跡によって色が変わる。魔法にも多くの系統が存在しますからね。で、今回は黒色だ。しかもとてもはっきりとした。基本的に黒魔法は呪術系統の魔法が主軸となっているから、今回もそうでないかと推測した。」

 ふむふむと加納が一生懸命メモをとっている。

 「そして、黒い靄の見える2か所。頭と宙だ。呪術であれば、短期的に強い呪いを身体にかけるものと、長期的な時間や魂に対してかける呪いの2つに分けられる。身体のみであればその身体箇所に靄が、時間系統や魂であればその上の宙に靄が現れる。」

 加納がメモを取るのをやめた。いまいち理解が出来ていない状況らしい。

 「だが、今回は2か所。頭とその上。よってどちらにも呪いが発動していることが推測できる。どの程度の規模で行われているかは、実際に遺体を見ないとわからないが、複合的かつ連鎖的な呪いはある程度熟練した術者でなければ出来る芸当ではない。」

 加納が口を開く。

 「では、今回は空閑さんでしか解決出来ない事案なんでしょうか?」

 「そうなるな。」

 空閑は静かに答える。

 「加納さん、これらの遺体の上がった場所と時間、件数、状況、死亡推定時刻の詳細データを今日中に私に送ってくれ。」

 「は、はい!」

 加納は慌ただしく、今言われたことを手帳にメモしている。

 「ちなみに、この案件はどこまで絡んでいる」

 空閑が質問を投げかける。

 「上層部の耳には入っておりません。特殊捜査班からの事件依頼です。」

 「そうか。了解した。」

 空閑は頷きながら、ノーラを手招きし、近くに呼び寄せる。

 「この黒魔法の複合術式と遺体をみて、思い当たる人物が一人いる。」

 徐に、ノーラが背負っていた鞄から、鍵の掛けられたハードカバーの分厚い本を一冊取り出した。


 「開け、我が時間よ(アインクロッツゲート)

 カチャリと本の錠が開く。

 

 空閑はパラパラとページをめくり、あるところでその動きを止めた。

 そして、そのページを加納に見せる。

 「あの・・・。全然読めないのですが・・・。」

 そこには意味不明な文字で書かれた文章と、それらしき人物の絵が描いてあった。

 「当たり前だ。古代魔法文字だからな。読めるやつなどそうそういない。」

 では何故見せたんだと少し加納がムッとし、唇の端を噛んだ。

 空閑が本のページを指さし、静かにこう答えた。

 

 「ライディアル・グラットレイ。この世界ではない者であり、別世界の魔法教会からの指名手配犯だ。」

 


 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ちょっとルビが振ってあると良いなと思いました。 [一言] 面白いです。 引き続き読ませて頂きます!
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