プロローグ
僕は三年前の四月……十七歳の頃から全身が動かなくなった。
高校二年生だった。
正確な病名は……。もう忘れてしまった。
しかも話せない。目も見えない。親もよくこんな息子を看病する気になったもんだ。生きていても仕方ないのに。
しかし視覚以外の四感はしっかりしている。考えることしかやることがないから、たくさん考えてきた。しかし最近、僕と親だけの病室にぽつぽつと看護師や、医師、他の患者が入ってくるようになった。
何故なら、幽体離脱と、意識だけで物を動かせる『力』が宿ったからだ。
その『力』が宿ったのは、ちょうど全身不随になって三周年目の四月三十日だった。
テレパシーでもできないかと無意味にぼーっとしていたとき、意識が部屋の上方に浮き上がった気がした。
えっ!?これって、幽体離脱!?
久しぶりに光のある夢を見た、とその時は思った。
試しにティッシュを見つめてみたら、右手に不思議な感覚がしてコトリ、と音がした。
えっ!?
その時は風でも吹いたんだろうと思った。
しかし長らく考えるだけの生活をしてきたので馬鹿なことを考え、もう一度チャレンジしてみた。
意識が浮き上がり、コトリ、とまた動いた。
……。
どうやら偶然ではなかったらしい。
その日から僕は日常の色々なことにその『力』を使い始めた。
親の前でもその『力』を使ったので、親は僕に問いかけた。
「拓海、物を動かせるようになったの?」
親は妙にメルヘンチックなところがあるから、すぐに『力』のことを信じた。奇跡を信じていないと僕の看病なんかやってられないさ。
目を伏せた。
あと、『力』は部屋の中の物に限られることがわかった。しかも、自分の腕と連動しているらしく、筋肉が落ちた腕では本当に微量な力しか出せない。
親はそのことがわかると、すぐさまペンとメモ帳を部屋に置いた。
僕は試しに書いてみた。
『あいうえお』
ちゃんと書ける。薄っぺらい文字だし、書くのにすごい時間がかかるけど。
「拓海っっ……!」
親はうれし泣きしているようだ。
そこから僕の『力』による生活がスタートした。