新たなる日常へ①
おばあちゃんが用意してくれた部屋は、玄関を入ってすぐにキッチンがありその奥に畳敷きの部屋が1室ある。それともともと僕が使っていた部屋の隣だった。
一応そっちがいいといってみたものの、元の部屋に戻ることはできなかった。まあ当然といえば当然か。お祖母ちゃんは僕を僕と認識できないだろうし、他の人が使っている部屋を貸し出せるわけがない。
もともと大したものは持っていないから、別に困りはしないけど。ほとんどはおばあちゃんからもらったものだったし。
それに財布やら学生証やらの大事な物は全部カバンに入れてたから、もうどうしようもないし。
それはひとまずどうしようもないから置いといて、これから魔法少女の活動をする上で大切な固有魔法の検証でもしようかな。
そのためにも変身をどうやってするのかなんだけど、 不思議なことに変身に必要なことが胸に浮かんでくるのだ。
「《着装》」
そう、たったのこれだけで変身できてしまった。まあ、簡単に変身できるならできるでそっちの方が楽でいい。
それでは早速固有魔法の検証をしよう。まあ検証とはいっても、ただ僕が思ったことを試すだけだけど。
とりあえず僕の予想では回復だと思うんだけど。折れた腕も治っていたし。どうやって試そうか。
何かで傷をつけるしかないよね。ケガをしていないと分からないわけだし。うう、ハサミか包丁かあるかな。
戸棚や台所を探してみるも、それらしきものはない。そもそも空き部屋だったこの部屋にそんなものが残っているわけもなかった。……あ、押し入れの中には布団があった。
この部屋全体を探しての結果、布団しかなかった。他にも飛び出している釘がないかとかも探したが、何か自傷に使えそうなものはなかった。
それじゃあどうするか。自分で傷をつけるしかない。
自分でやるとなると、口で噛みつくぐらいか。あと爪でかきむしるって手もあるけど、どっちにしろあんまり気が進まないな。うー、でもましなのは噛みつく方かな。
一番噛みやすいのは手だね。でもこの籠手外れるのだろうか?
何も留め金のようなものもない、締め付けられるような感覚もない。なのにずり落ちることも、ずれることもない。それに重さも違和感も感じない。まるで元からそこにあるような感じすらもしてくる。
これほんとに外せるのかなぁ。
右手の籠手を外そうと手をかける。だがどうだろうか、さっきまで外れそうになかったのが、スルスルと外れるではないか。
籠手の中から現れた腕は、あのイノシシの鼻を拉げたことが嘘のように思えるほど華奢なものだった。……というよりはこの体自体、どこもかしこも華奢なんだけどね。ほんとに自分の体とは思えないほど。
いざ噛むってなるとためらってしまう。でも確かめるためにも噛まないといけない。
勇気を振り絞り自分の手に噛みつく。歯にプツッという感触を感じると共に口いっぱいに血の味が広がる。
口を離すと手は血で真っ赤に染まっていた。想定したよりも深くいってしまったようで、傷口からドバドバと血が流れ落ちる。そして思ったより痛い。
だがそれも次の瞬間には感じなくなり、傷口も瞬く間に塞がっていった。それと同時に体の中から少し何かが抜けるような感覚が起きた。
やっぱり固有魔法は回復だった。しかもこのスピードなら多少のケガは気にしなくても大丈夫そうだ。
――コンコン
部屋にノックの音が響く。
「開けてくれんかい?」
おばあちゃんだ。ヤバい、早く変身解除しないと。ってあああああ、床に血が落ちてる。しかもこの量はちょっと……こっちもどうにかしないと。
変身解除は大丈夫、簡単にできる。でも問題はこの血痕だ。この部屋には何もふけるものもないし、第一掃除している時間がない。
「どうかしたのかい?」
うう、どうするどうする。この部屋になにかよさそうなものはなかったか。
「勝手に開けさせてもらうよ?」
やばいやばいやばい。
あ、そうだあれを使おう!! 掃除できないなら隠してしまえばいいんだ。
「なんだい、寝てただけだったのかい。起こして悪かったね」
なんとかおばあちゃんが入ってくるまでに、押し入れから布団を取り出し、血痕の上にかぶせることができた。まさに危機一髪。
「いえ、大丈夫です。それよりもどうしたんですか、こんな遅くに?」
「ん? あ、そうそうこれ、必要だと思って」
おばあちゃんから紙袋を手渡された。中にはタオルと数着の洋服が入っている。
「え、でも悪いです。こんなに」
「いいっていいって。もらえるもんはもらっときな。それに貴女とは初めてあったとは思えないし。どことなくもう一人の子と雰囲気が似てるのよねぇ」
「あのもう一人って?」
「んー、貴女と同じ髪の色をした男の子よ。あんまり話さない子だったけど、とってもやさしい子、かな。それにしてもあの子まだ帰ってきてないのよね。まったくどこに行ってしまったのか」
やっぱり心配かけてるよね。本当のこと伝えた方がいいのだろうか。僕が衛藤夢莉だってことを。
でも伝えたところで信じてもらえないのが関の山だよね。だって大人は自分の都合のいいことしか信じない。それを否定したところで、帰ってくるのは怒声か拳。頑張るだけ無駄、か。
「ごめんね、長居しちゃって。おやすみなさい」
そういっておばあちゃんは紙袋を置いて出て行った。いらないって固辞し続けたものの、結局は必要なものだからと押し切られてしまった。
なんだか今日はいろんなことがあって疲れたな。もう寝てしまおう。
そう思い布団に横になるも、なんというかぶかぶかの学ランを着ているせいで、学ランに溺れそうになるし、寝返りを打つ時に金具が当たって痛い。
学ランのまま寝ようかとしたが、思いのほか寝づらかった。そのこともあり最低限、学ランのジャケットとズボンを脱ぎ捨てた。
そしてまた布団に横になる。今度は寝づらいということもなく、すぐに睡魔に襲われた。
今の部分、何も起こらな過ぎて書くのが難しい。はやく戦闘シーンとか書きたい!
この小説が面白いと感じましたら、ブクマ登録・感想等お願いします