全てが変わった日⑥
夢莉くん(?)が眠ってしまったので、リスタル視点です
わたしは魔獣の討伐後、管理局に立ち寄っていた。
だいたいなら魔獣を倒したら、管理局の車で学校まで送られる。ただ今日は何個かのイレギュラーが発生したため、その話をするために監督官に呼ばれた。
案内されたブリーフィングルームには、すでに魔法少女の監督をしている飯田さんがいた。
「ごめんねぇ、穂乃果ちゃん。わざわざ来てもらって」
書類を見ながら美人な顔を険しくしていたが、わたしの姿を認めると途端に表情が柔らかくなった。
「いえ、それで今回はやっぱりあの娘のことですか?」
「ええ、観測班の見逃しも問題だけど、最優先なのは新しい魔法少女よ」
そうは言っているが、観測班の見逃しも問題なのだろう。飯田さんが読むのをやめた書類は観測班のレポートだった。
観測班というのは、主な仕事としては街にドローンを飛ばして魔獣の早期発見をすることだ。ドローンの撮ってきた映像を解析し、魔獣を発見する。しかし飛ばす時間や順路は決められており、人の多い場所が優先されている。一応それ以外の場所で発生したり、見落としがあったときのために、市民からの通報も受け付けている。……信憑性は低いらしいけど。
「観測班のことは君が気にすることではないよ。これは私達大人のミスだ」
わたしが書類を見ているのに気付き、たしなめられた。
「それじゃああの黒い魔法少女について聞かせてくれ」
――――………
――……
―…
「それで逃げられちゃったわけか」
「……はい」
今回の件に関してはわたしが悪い。あんな強引にしていなければ、もしかしたら連れてこれたかもしれないのに。
「それで変身するとこは見ていないんだよね?」
「はい見てないです。わたしが到着したときにはもう魔法少女になっていました」
一応令華さんにここ最近、野良活動している魔法少女を調べてもらったけど、あの魔法少女はリストには載っていなかった。それに自分が魔法少女になったことを認識していなかった点からも、隠れではなく新生だろう。というのが令華さんの結論だ。
あの魔法少女の写真もあるが、その写真をもとに探すのはかなり難しい。わたし達魔法少女には身バレ防止のため、認識阻害の魔法が常時発動している。わたしを例に挙げると、リスタル=氷室穂乃果という風に結べなくなる。一部例外はあるが。
ちなみに令華さんがリスタルをわたしと認識できるのは、わたしがリスタルだと知っているからだ。これが例外の中の1つだ。
つまり言いたいことは外見だけでは探せない、ということだ。
それはさておきあの時のことを思い出していると、どうしてもあの裏路地の惨状がちらつく。
「そういえば、今回は犠牲者を出してしまいました。わたしは力なき一般人を守ることができませんでした」
「はあ、だから君が責任を感じることがはないよ。それに確かに裏路地に血痕は残されていたが、肝心の遺体が発見できていない」
遺体が見つかっていない? 血痕を見る限り、そんなに遠くまで逃げられるとも思えない。……まさか!
「その人が魔法少女になったのでは?」
「それは私も考えたさ。しかし現場から回収されたカバンから学生証が見つかった」
「それならその人を探せば……」
「残念ながら男性だったの」
それじゃあその人はどこに行ったというのか。逃げるのは無理、じゃあ魔獣に食べられた? いやでも、それなら痕跡は残っているはず。痕跡すらも残さずにきれいに食べるなんて芸当、魔獣ができるわけがない。
あそこにいたのは、あの黒い魔法少女だけだった。男の人なんてどこにも……。
……まさか。いやありえない、だって……。だけど魔法は不可能を可能にする。それならありえるのか?
「ん? 何か思いついたの?」
「いえ、ただその男の人が魔法少女になった、っていうのはありえないですよね?」
「…………」
令華さんが黙り込んでしまった。やっぱり突拍子がなさ過ぎたのだろう。
そうだよね、男の人がなれるなんて……。
「その線は考えていなかった」
「え? でもさすがに……。わたしが言ったことではありますが、だって魔法少女ですよ?」
「確かに普通に考えればありえない。だが魔法の力はときに不可能を可能にする。そう、常識では測り切れない力なのよ」
令華さんもわたしと同じ結論に行きついたようだ。だけどほんとに男の人が魔法少女になれるのだろうか。ま、それも捕まえればわかることだよね。
「とりあえずは様子見ね。また変にちょっかいかけて逃げられても困るし」
「様子見、ですか」
「そうよ。どこかの誰かさんのおかげで警戒されてるだろうし。可能なら保護したいんだけど」
ウグッ、そこを突かれると何も言い返せない。それに監督官の決定には従わなくちゃいけないし。
「まあ、あんまり無茶するようだったら強制的に保護することも検討しなくちゃだけど」
「はあ、わかりました」
あんまり納得はできないが、仕方ない。それにこれはわたしの失敗のせいだし。
「これは上に報告できないな」
ようやく話が終わり、解放された。わたしが出ていくとき、令華さんが何か言ったようだが、うまく聞き取れなかった。でも小声ってことは関係ないことだよね。
いつものように管理局の事務員さんに学校まで送ってもらうつもりだったのだが、どうしてもあの娘のことが気になってしまう。逃げる直前のあのおびえようが、尋常ではなかった。
だから今日は学校をさぼることにした。事務員さんに学校まで送ってもらったのだが、学校に行くふりをして、あの娘が逃げた方向を思い出しつつ学校から離れていった。もちろん事務員さんの車が見えなくなってから行動した。
数十分くらい歩いていると、だんだんすれ違う人も少なくなり、建物も雑然とし始める。外延部に入った証拠だ。
建物と建物の間にひっそりと、寂れた公園が見えてきた。公園のベンチに女の子が座っているのが見えた。最初、学ランを着ていたから男の子かとも思ったが、髪の長さや体格からして女の子だった。
中学生くらいだろうか。でもそれならなぜ平日のこの時間にこんな場所にいるのだろう。ま、わたしも他人のこと言えないんだけどね。
そのまま通り抜けようとしたのだが、突然その女の子がベンチの上に倒れ伏した。
わたしは驚き、女の子に駆け寄る。
「ちょっと、あなた大丈夫?!」
だが正直、心配して損した。なんとその女の子は眠っていた。
「うーん、どうしようか。このまま放置ってわけにもいかないだろうし」
とくにこの辺は少し治安が悪い。
「はあ、仕方がない。起きるまで待ちますか」
あれ、おかしいな? 『すべてが変わった日」はここまで長くなる予定じゃなかったのに。
そうかこれが予定は壊すもの、ということか。
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