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「ごめんなさい」を言いたくて⑨

「すみません、遅れました!」


 私が会議室に入ると現場の人間ではあまり目にすることのない、管理局のお歴々が勢ぞろいしていた。執務室でふんぞり返っているだけで高い給料をもらっている彼らが出張ってきているところを見ると、今回の件がどれだけ管理局に影響を及ぼしているのかがうかがえる。


「飯田さん、こっちだよ」

「ありがとう、柏木ちゃん」


 柏木ちゃんの誘導で私に割り当てられている席に腰を下ろした。


「全員揃ったことだし始めようか」


 上座でふんぞり返っている局長の一言で会議が始まった。議題はやはりというべきか、魔法少女シュバルツのことであった。


「ですから、あの子は我々管理局で保護すべきです!」

「現場の人間の言葉など信用に値しない。お前らは魔法少女に入れ込みすぎだ」

「研究部門もあの子は保護すべきだと考えます」

「根暗なモグラは黙っとれ!」


 しかし会議で建設的な議論が展開されることはない。魔法少女が直接関連している今回のような事案では、魔法少女に関して一番の知識を有している現場の人間の言葉はかなりの重要度を持っているはずだ。しかし忽那局長や腰ぎんちゃくたちはモラハラセクハラその他様々な暴言を交えて私たち現場の人間の言葉を弾圧する。


「そもそもが、夢莉とか言ったか……あいつは一般人に対して暴行を行っているんだ。しかも頭蓋骨陥没や背骨の複雑骨折を含め障害が残るような怪我を負わせている。こんな魔法少女……いや、犯罪者を管理局が守る義務も金もない」

「暴行については、何度も説明している通り正当防衛であったと思われます。これも何回も説明しましたが、あの日は……便宜上被害者と呼称しますが、被害者たちによって拉致され、性的暴力を受ける危険性があり、そこから逃げ出すための手段として行使したにすぎません」


 連日同じ説明をするというのはなかなかに精神を摩耗するものである。だが、まだ理解できないのか、忽那局長を含め上層部連中はため息を吐き、哀れなものを見るような目で私のことを見る。


「わしも何度も言ったが、魔法少女に正当防衛は認められていないのだよ。これは最高裁でも判決が出ていたはずだが?」

「そうですよ、飯田監督官? 変身するだけの余裕があるのなら、男性に暴行など加えず逃げてしまえばいいのですから。例え魔法少女に正当防衛が認められていたとしても、逃げるという選択肢をとることができるにも関わらず、暴力という手段に出たのですからね。認められないですよ」


 あいつらの言う通りである。魔法少女に正当防衛は認められていない。いや、正当防衛だけではない。様々な権利が制限される。だからこそ魔法少女に目覚めたとしても、名乗り上げることはせず、隠れになる少女が数多くいる。


 管理局所属の魔法少女が少ない理由の一つがこれだ。忽那が局長になってからは、ただでさえ少なかった所属をさらに減らして、最終的に残ったのはリスタルこと氷室穂乃果と、とある事情により東京にある本局から出向してきているリブリオンこと井坂汐里だけである。


 私はこの現状を変えたい。まだ世間知らずの子供であったときに大人たちに丸め込まれて、この制度を容認してしまった私たち第一世代魔法少女の責任だからだ。


「それにねえ、リスタルの暴走にも困らされたものですよ。独断であのようなことを起こされては、我々管理局が魔法少女シュバルツを見捨てたように見えるではないか」

「ハハハ、ならばそれを現実にしてしまうのはどうですかな。あれは所属でもなければ、聞いた話によると日本に戸籍を持っていないとのことですしな」


 上の連中は見捨てる気満々のようだ。組織の存続ということを考えるのならば、それはある意味正しいのだろう。しかし魔法少女の保護という大義を失った魔法管理局に何が残るのか分からないが。


「飯田さん、やっぱり出るだけ無駄だったな」


 隣に座っている柏木ちゃんから、小さな声で話しかけられる。


「ええ、最悪の気分よ。なんで管理局の上に立つ人間が、魔法少女のことを真剣に考えていないのか理解に苦しむわ」

「なら、あの計画を実行するのかい?」

「……せざるを得ないでしょうね」


 まだ準備が終わったわけではないが、仕方がない。このままでは夢莉ちゃんが管理局から放逐されてしまう。今の彼女が何の後ろ盾もなしに野に放たれたならば、凄惨な結末を迎えることは想像に難くない。


「それにしても、国は何をしてるのですかね。はやくお隣の国のように魔法少女の人権をはく奪して、魔獣に対する兵器として効率的に運用すべきだというのに」


 私の反応を見ながら言っている。彼らはわざと魔法少女のことを悪しざまに言って、私が反応するのを楽しんでいる。今回の件に関して完全に勝った気でいるのだろう。何度も魔法少女のことで私と論争して、敗北してきた煮え湯を今ここで発散しているのだろう。


 今はその優越感に浸っているといい。夢莉ちゃんの選択次第となるのが不確定要素になるが、この件を皮切りに私は魔法少女の権利を向上させる。


 ――だが最後に吠え面をかくのはお前らだ!

夢莉ちゃんを最近イジメられなくて、手の振るえが止まらない。執筆は顎で何とかやってます(大嘘)。(イジメ足りないのは本当です)


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