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「ごめんなさい」を言いたくて⑧

 突然穂乃果ちゃんが泣きだしてしまった。そのせいかパニックに陥っていた僕は、いきなりのことに驚いて逆に落ち着いてしまった。


 ……というか僕の経歴に泣ける要素なんてあるのか?

 僕の人生において誰かから迫害を受けていることは、もはや当たり前のことになっていて、僕は嫌な気持ちになっても不幸だとかは思ったことはない。


「ごめんね。僕の話はつまらなかったよね」

「……違う、違うの……。ごめんなさい、わたし何も知らなかったの……」


 あ、さらに激しく泣き始めちゃった。どうしよう、泣いている女の子にどう接していいのか分かんないよ。僕もなんだか泣きたくなってきた。とりあえずで頭をなでてはみたけど、あんまり効果なかったしなあ。


 この後も訳の分からない「ごめん」のキャッチボールを続けていた。そのうちに穂乃果ちゃんも泣き止んではくれたけど、僕も穂乃果ちゃんも醜態をさらしてしまったことから、大分気まずい空気が流れている。


 それに僕は穂乃果ちゃんのことを直視できない。これがさらに気まずさを加速させていることは分かるのだが、元々お風呂に入ろうとしていたことから穂乃果ちゃんは裸なのだ。最近ようやく自分の裸に慣れ始めたばかりだというのに、同い年の女の子の裸なんて刺激が強すぎるよ。


「じ、じゃあ僕はリビングに戻ってるから……」

「……ダメ」


 タオルを体にかけて逃げようとしたのだが、穂乃果ちゃんに阻止された。それも抱き着くという方法で止めてきたから、背中に小さいながら柔らかい膨らみを感じる。


「先輩がお風呂に入れろって……だから入ってもらわないと困る」

「困るって言われても……無理」


 お風呂になど死んでも入ってたまるものか。僕はお風呂に限らず、大量の水が溜まっている場所が苦手なのだ。だからヤダ。


 脱衣所の扉が開かれた。


「あら? あなたたちまだ入ってなかったの?」


 リビングの吐しゃ物の処理を終えたらしい井崎さんが不思議そうな表情を浮かべている。これは幸いと僕は穂乃果ちゃんの拘束から抜け出し、井崎さんの傍らを潜り抜けてリビングへ逃走を――


「どこに行くの?」


 通り抜けようとしたら、井崎さんに腕をがっしりと捕まれた。表情こそ笑っているが、その目には言い知れぬ凄みが込められていた。


「お風呂ヤダぁああああああああああああああああああ」


 我ながらに子供っぽいとは思うが、頬を膨らませて不満を主張している。結局僕は抵抗空しく浴室へと連行された。


 ただ僕のお風呂嫌いを穂乃果ちゃんから聞いた井崎さんは、


「湯船につからなくてもいいから、体だけでも洗おう」


 ということで、渋々ながらに妥協案を提示していた。


「痒いところはない?」


 それで今は井崎さんに髪を洗ってもらっている。さっさとあがりたかった僕はとりあえず男のときの感覚で体を洗ってしまおうと考えていた。しかしそれは浅はかというものだった。井崎さんと穂乃果ちゃんの両方からダメ出しをくらい、洗い方をレクチャーされることになった。地獄だ。


 一刻も早く出てしまいたい僕としては、早く終わらせてほしいのだが、いかんせん女の子の洗体にはいろいろな手順が必要らしくて時間がかなりかかる。終わったころにはくたくたになってしまった。


 それから着替えを用意してもらったのだが、ワンピースタイプのいわゆるネグリジェというものであった。


「もっと他にないんですか?」

「あとはスケスケのやつしかないわよ」


 これには頬を引きつらせるしかなかった。……そういえば僕いつの間にか女子用の下着に対しては抵抗がなくなってるな。


 穂乃果ちゃんに手伝ってもらいながらブラをつけてもらい、着替えを進めた。隻腕ってアニメとかマンガならかなりかっこいいけど、私生活に支障が出まくる。その最たるものの1つが着替えだって身をもって知ってしまった。


「私そろそろ帰るから」


 出前で取ったピザを頬張っていると、突然井崎さんが帰ってしまった。僕は驚いて呆然としていたんだけど、穂乃果ちゃんはそうでもなかった。


「あの人は気分屋だから、気にしちゃ負けよ」


 この日、夜が深まっても令華さんが帰ってくることはなかった。これはつまり、今日は令華さんの家に穂乃果ちゃんとお泊りすることになった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 隻腕は辛いね〜、このまま穂乃果ちゃんなしには生きられないぐらいズブズブに依存してほしい。
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