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「ごめんなさい」を言いたくて⑥

 井崎さんがリビングからいなくなってからは、重苦しい沈黙に包まれている。ただでさえ知らない家だというのに、こんな空気では何をすることもできない。


 穂乃果ちゃんの座っているコの字型のソファー以外にこの部屋にはイスはなく、仕方がないので穂乃果ちゃんから離れた場所……窓の近くの床に直接腰を下ろした。


 ……沈黙がつらい。


 穂乃果ちゃんに何か話しかけようにも、先ほどまでやりあっていた相手に何を話せばいいのか分からない。それに穂乃果ちゃんが僕の何に対して、激情にかられるほどの怒りを覚えていたのか分からな……あっ!


 僕は意を決して穂乃果ちゃんに近づいていく。どうしてこんな大切なことを忘れていたのだろう。入院初日(僕が覚えている限りでは)のときも穂乃果ちゃんは言っていたではないか。自分の罪を理解しろって。なら、僕は謝らなくちゃいけない。穂乃果ちゃんにも、令華さんにも。


「ごめんなさい」


 唐突な謝罪に穂乃果ちゃんも驚いたのだろう、俯けていた顔を上げ、忌々しそうに僕のことを睨みつける。


「何に対する謝罪ですか?」


 あのとき答えられなかった答えを今の僕は持っている。


「初めて会ったあの日、手を差し伸べてくれた穂乃果ちゃんのことを突き飛ばしちゃったから……そのことをずっと謝らなきゃって……遅くなってごめんなさい」

「……やっぱりあなたは何もわかってない」

「………………え?」


 穂乃果ちゃんの言っている意味が分からない。だって穂乃果ちゃんが怒っている理由ってこれじゃないの? それ以外に何が……。


「あんたのその被害者面が気に食わない。どうしてあんなことをしたというのに、のうのうと魔法少女を続けられるの? 魔法少女は魔獣から力なき人々を守る正義の味方なのに!!」


 やっぱり分からない。


「チッ。これのことよ! なんで自分のことなのに分からないの!!」


 穂乃果ちゃんが自身のスマホを僕につきつける。その画面に映っているのは、よくも悪くもテレビでも取り上げられるほど有名なSNSの画面だった。穂乃果ちゃんが僕に見せたい投稿には動画が添付されていた。それを見た瞬間、記憶にふたをして考えないように、思い出さないようにしていた嫌なものがあふれ出した。


「ぃやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ」


 その動画には僕を車に無理やり連れ込んだ男たちの姿が映っていた。


「ごめんなさいごめんなさい……許して……もう殴らないで……痛いのはもうやだぁ……」


 記憶が混濁する。あのときなぜか逃げられたはずなのに、どうしてか近くにあの男たちがいるような、そんな嫌な感じがする。


 人の肉を、骨を殴りつぶす嫌な感触が呼び起こされる。それと同時に胃が異様な蠕動運動を始め、胃の内容物を上へと押し上げ始めた。そして嘔吐。病院で提供されたごはんが、くずくずに消化され元が何なのか分からなくなったものが口から流れ出した。


「え? はっ!? ちょっと、ま……」


 突然の僕の変貌についてこれず、フリーズしていた穂乃果ちゃんが現状を把握する。しかし一歩遅かった。僕は高そうなカーペットの上にぶちまけたのだ。


「何をやってんのよ、バカ穂乃果ぁああああああああ!?」


 そして額に青筋を浮かべた井崎さんが荒々しく扉を開け、奥の部屋から帰ってきた。


「少し考えたら訳アリってことぐらい分からないの? だからあんたはバカなのよ」


 その手には使い捨てのゴム手袋がはめられ、その他にもタオルや消毒グッズなどなど嘔吐物処理道具を持っていた。


「おら、そこのバカは夢莉の服を脱がせて、お風呂場に連れて行って!」

「は、はい」


 穂乃果ちゃんは井崎さんの指示に従い僕をお風呂場へと連れて行こうとしたが、僕はいまだ狂乱の最中にいた。ゆえに穂乃果ちゃんが僕の腕をつかんだ瞬間、それは僕の中では例の男に変換されているわけで――


「やだッ、はなして、さわらないで!」

「ちょっと、大人しくしてよ」


 やだやだと暴れ続ける僕を相手に穂乃果ちゃんは苦戦している。


「処理の邪魔だから早めに連れて行ってくれる?」

「井崎先輩、むりです。連れていけません」

「は、優しく抱きしめてあげれば? 飯田監督官がいつもそうやってたんでしょ?」


 鼻で笑われ、少し小馬鹿にしたような言い方に穂乃果ちゃんは少しむっときたようだ。しかし井崎さんの無言の早くやれという威圧感に押され、何より令華さんがやっていたという言葉に覚悟を決めたようだ。


 自身の服が吐しゃ物で汚れることもいとわずに、穂乃果ちゃんは暴れる僕を抱きしめた。それはおばあちゃんに比べれば包容力が足りず、令華さんと比べれば荒々しかった。でも誰かに抱き留められているという事実が僕に安心を齎してくれる。


「この服……お気にだったのに……」

「よかったじゃない、服だけですんで。私が聞いた話じゃ、飯田監督官のときは叩かれたそうよ」

「……お風呂行ってきます」

次回お風呂(真)回 肌色たっぷり美少女のキャッキャウフフ(?)なお風呂だよ(多分きっとmaybe)


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― 新着の感想 ―
[良い点] とんでもない小説を見つけてしまった……あれ、でもこの胸の高鳴りは…? [一言] 応援してます_(:3」∠)_
[良い点] 狙ってやってるなら穂乃果は中々良い加虐趣味をしておる [気になる点] このどS作者めー 次回をお待ちしてますー [一言] バカ穂乃果ぁあああああああ あまりにもそれ以外の形容がなさ過ぎる…
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