全てが変わった日④
夢莉視点に戻っています
浮かれていた心が、冷や水を浴びたように冷えた。
魔法管理局、通称管理局は政府機関だったはず。魔法少女の保護や魔法の研究をしてるって噂の組織。そんなところで男だとバレたら何されるか分からない。絶対にバレたらヤバい。
「……なんで?」
「それはあなたを保護するためです」
「必要ない」
そう言って僕はその場から立ち去ろうとした。
「待ってください!」
が、リスタルに手首をがっちりつかまれたため、逃げられなかった。振りほどこうとしても、リスタルがそれ以上に力を入れるため無理だった。
「離して」
「無理です。離したら逃げるじゃないですか」
「逃げないから……」
「信用できると思いますか?」
こうして話してる間も僕とリスタルの攻防は続いている。ただなかなか決着はつかない。
ああ、もう鬱陶しい。
「離してって、言ってるじゃん!!」
つい強い口調で怒鳴ってしまった。だがそのおかげで彼女の力が弱まり、振りほどくことができた。彼女もまさか僕がここまで声を荒らげるとは思っていなかったようだ。
だが僕自身もまさか振りほどけるとは思っていなかったため、思い切り腕に力を入れてしまっていた。そのため急に力の均衡が崩れてしまい、体のバランスを崩した。
「危ない!!」
だが地面に倒れることはなかった。そうなる前に温かく柔らかい何かに包まれた。
あれ、どうして倒れてないの?
それに僕を支えているこれは、ナニ?
全身に鳥肌が立ち、全身から冷汗がにじみ出る。白い何かに覆われていた視界が、黒く狭まっていく。呼吸が荒く、苦しくなる。
「……いやッ!」
僕を包んでいた何かを振り払い、突き飛ばす。胸に手を当て、過呼吸になっている呼吸を整えようとする。
何とか落ち着いてきたところで、僕が突き飛ばした何かを見る。そこには地面に座り、突然のことで呆然としている白い魔法少女……リスタルがいた。彼女の凛とした青い瞳も、今は困惑に染まっている。
魔獣から救ってくれ、恐らく倒れそうになった僕をとっさに抱きとめてくれた彼女を、拒絶してしまった。こんなことするつもりではなかったのに。
「あ、あのだいじょb……」
リスタルが何か声をかけてきたが、僕はそれを聞かず逃げ出した。だってそれはきっと、突き飛ばした僕を糾弾し、断罪するためのものだから。そんなものもう聞きたくない。
――――………
――……
―…
何も考えずずっと走って、いつの間にか見覚えのある公園にたどり着いていた。この公園からアパートまでは近いのだが、とても帰る気分にはならなかった。
ふと道のカーブミラーに女の子が映っているのが見える。その子は腰まで伸ばした黒い髪を風に揺らし、茜色の瞳をカーブミラー越しにこちらに向けている。顔はまだあどけなさが残っており、恐らくまだ小学校高学年か中学生くらいだろうか。だが顔が整っており、まだ美少女なのだが、あと数年もすれば絶世の美女になるだろう。
残念なのは、彼女が終始無表情なことだ。笑顔を浮かべれば世の男性はおろか、女性すらも黙ってはいないだろう。
ただ一つ気になることがある。それは彼女の服装だ。なぜか彼女は全身を覆うような、黒い外套を羽織っている。もう夏に入りかけの季節、そんな外套を着ていたら熱いだろう。しかし彼女はそんなそぶりも見せない。さらにはその外套の隙間から除く腕には、可憐な彼女には不釣り合いな籠手がはめられている。そう、僕がいま着けているいるような籠手が。
ん? あの服装どっかで見た覚えがあるような……。
それに彼女が立っている場所、僕が立っている場所と同じような気が。
試しにジャンプしてみる。するとカーブミラーの少女も同じタイミングでジャンプした。左腕を振る。カーブミラーの少女も左腕を振った。
このほかにも色々試し、そして分かったことがある。あの少女は僕だということだ。
ってことは僕は僕自身にあんな評価を出してたの? 美少女とか、世の男が黙っていないとか……。
イタイ、これはとてもイタイタしい。こんなの他の人から見たら、ただのナルシストじゃん。
軽く……いやかなり自己嫌悪に陥る。
そのままトボトボと公園の中に入り、ベンチに腰を掛ける。
「そういえば右腕、骨折してたはずなのに治ってる」
どういうことなのだろうか。骨折だけでなく、その他の傷もすべて塞がっている。もしかしたら魔法少女はケガの治りが早いのか?
でもかすり傷だけならまだわかるが、骨折まで治っているのはいくら何でも早すぎる。普通だったら数か月単位で治すケガをたった数分で、もしかしたらそれ以上のスピードで治るなんて。
あ、そういえば魔法少女には1人1個、固有魔法を持っていると聞いたことがある。それならこれが僕の固有魔法ってことなのかな。うーん、よくわからないから一旦保留で。
そんなことよりも、僕はいったいいつまでこの格好のままなのだろうか。そもそも変身解除したら男にちゃんと戻れるよね。それを確かめるためにもまずは変身を解除しなくちゃ。
………………どうやったら解除できるの?
この小説が面白いと感じましたら、ブクマ登録・感想等お願いします。