「ごめんなさい」を言いたくて④
でも唯一の救いは、リスタルの刀でも流石に僕の籠手を貫通するまでの鋭さがない事である。そのおかげで防戦一方とはいえ、首と胴がバイバイするような状況にはなっていない。でもいつまでこの状況を保てるかは分からない。
ここでの僕の最善と思える行動は、この場からの逃走であろう。でも僕が病院から離れていく場所はおばあちゃんのところしかないけど、病院からアパートまでの道のりが分からない。たとえ分かっていたとしても僕が入院している病院は中央区にあり、外延区にあるアパートまではおよそ10キロメートル以上ある。
「何惚けているのですか!」
リスタルの声で意識をリスタルに戻すと、刀の切先がすぐそばにまで迫っていた。慌てて両腕をクロスさせて防御の姿勢に入る。
激しい火花を散らしながら義手と刀はぶつかり合う。受けきれてはいるのだが、衝撃までは打ち消せず、義手越しに左腕にまで衝撃がやってくる。骨にひびが入ったような気もするが、まあすぐに治るから何も問題はないであろう。
「お願いリスタル、話を……」
「犯罪者と交わす言葉は持ち合わせてはいませんッ」
お互い接近したのを好機に再びリスタルとの対話を行おうとするが、はやり応じてはくれない。それに犯罪者とはどういうことなのだろうか。
「もういいです。これで終わらせます」
リスタルはそう言い残すと刀を鞘に納め、魔力を練り上げ始めた。その魔力のあまりの大きさに僕は思わず後ろへと飛び退った。
もしかして前に見たことのある《飛斬》……いや、でもあれはあんなに魔力を刀に込めていなかったはず。あれはやばい。
一瞬逃げることも考えたが、こちらの動きを視線を外すことなくジッと見つめるリスタルの冷たい瞳にそんなことは不可能だと悟る。ならばできることは迎撃するしかない。だから僕も義手に魔力を集中させる。
ダメだ、足りない。いくら集中させても今の僕ではあのリスタルに遠く及ばない。どうすれば、と焦っていると義手の手の甲の一部分がガシャッと開いた。そこには何かを入れるための穴が開いている。
「え?」
そして何を入れるのかは不思議なことに分かっていた。何の迷いもなく先ほど倒したアリ型の魔獣の魔核を取り出し、甲の穴へ装填する。
魔核から魔力が抽出され、僕の魔力に上乗せされる。この魔力量ならいける。
「一切の無駄はなく、霞が如く朧げに、幻が如く不確かに。この一太刀は最速の一撃。《霞一迅》」
「いけぇえええええええええええええ」
リスタルの斬撃は詠唱の通り抜刀時の煌きだけを残して、僕の視界から消失した。それでも直感だけを信じて拳を振るう。
刹那、すさまじい衝撃波と共にトラックがぶつかったかのような重々しい衝突音が響き渡る。僕の拳とリスタルの刃は一瞬の拮抗の後に、ゆっくりとリスタルの刃が僕の義手に食い込み始める。
――そして二度目の右腕の喪失を経験した。
宙を舞う義手を僕は呆然と眺めていた。状況が呑み込めない。周囲からはリスタルをはやし立てるような雑音が鳴り渡っている。
「これでチェックメイトです」
リスタルが僕ののど元に切先を向けている。
「事情は後で聞きます。だから今は、自分の罪を悔いながら眠りなさいッ」
刀を反転させ刃から峰に向きを変え、意識を刈り取るべく振り下ろす。なぜかその光景が他人事のようで、なぜか誰かの目を借りてテレビを眺めているような感じだった。僕は一切体を動かそうとはしていないのに、どうしてか左腕を伸ばして刀を受け止めようとしている。受け止められるず、ないのに。だから僕は全てを諦めてゆっくりと目を閉じた。
「まったく、貴女たちはいったい何をしているのかしら」
まったく知らない声が聞こえたかと思うと、リスタルの苦しそうなうめき声が聞こえた。何事かと思い目を開けると、淡い黄色のローブを身にまとい、面倒くさそうに古めかしい装丁の本のページをめくる魔法少女の姿があった。
「リブリオン先輩、どういうことですか?!」
「どういうことって、分からないの? 管理局との契約の時に魔法少女同士の私闘は禁止っていう条項があったはずだけど? それに相手は所属外の魔法少女ときた」
「そ、それは……」
鎖でぐるぐる巻きにされたリスタルは、リブリオンと呼ばれた魔法少女と何か話している。リスタルの表情的に何か厳しいことを言われているみたいだけど、何がどうなっているのだろう。
リブリオンから少し遅れて令華さんも車でやってきた。
「ほの……リスタルちゃん、あとでお説教ね」
「……」
令華さんもリスタルに何か話しかけると、続いて野次馬の人たちの方へ向かっていった。
「ここで起きたことは上空を飛ぶ魔獣監視用ドローンにて全て記録されています」
「ならあの化け物を早く殺処分にしろッ。こっちはあいつのせいでケガさせられたんだぞ!」
「黙りなさい! 全て記録されているといっているでしょう!! あなたの元には後日裁判所から通知が届くと思いますので、そちらを確認してください」
「は? え!?」
言いたいことを言い終わったのか令華さんは僕の元へ歩いてきた。そしてガバリと僕を包み込むように抱きしめられる。
「ごめんなさい、怖かったよね。もう大丈夫だから安心して、ね」
魔獣との戦闘からずっと高ぶっていた神経が静まっていく。すると同時に周囲の人々から注目を浴びていることに気が付いた。その中には当然、男性もいる。
冷や水を浴びたように全身から嫌な汗が流れる。心臓は和太鼓のように早く大きく鼓動し、呼吸がうまくできなくなり過呼吸のようになってしまう。
「さ、ここから離れましょ」
イジメパートは次話からおやすみになりまーす。夢莉ちゃんの泣き叫ぶ姿が好きな読者には大変申し訳なく思っています。作者である私も夢莉ちゃんをイジメられなくなるのでつらいです(´つω;`)グスン
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