「ごめんなさい」を言いたくて③
「……え?」
最初に投げられた石を皮切りに、野次馬全員が足元に落ちている石を、ビニル傘を、中にはバックからペンや化粧道具を取り出している人やはいている靴を投げてくる人までいた。
それらは魔獣からの攻撃と比べて非常にゆっくりとしたもので、その飛んでくる軌道は見えていたし、魔法少女としての身体能力を用いればかすることなく避けることも不可能ではない。
――でも僕は避けなかった。
「死んじまえ!」
「お前なんか魔獣と同じだよ、失せろ害獣!」
「なんで逮捕されてねえんだよ!」
物とは別に飛んでくる罵声。誰も彼もが僕のことを侮蔑と嫌悪、そして恐怖の眼差しで見つめている。なんで彼らが怒り狂い、どうしてこんなことになってしまったのかは分からない。でも、ただ一つ思ったのは……懐かしいなという意味の分からない感情だった。
普通の人ならこのような状況になれば戸惑い、反論するなり抵抗するなりするだろう。最悪投擲物を避けるぐらいはするだろう。でも抵抗する素振りを見せれば彼らはもっと過激になる。僕はそれを経験として知っている。
だから例え小石が目の近くに当たろうと、ペン先の出ているボールペンが頭に当たろうと絶対に回避はおろか防御もしない。当たったら痛いのは魔法少女でも変わらない。でもなすがままでいた方が、抵抗をするよりか軽傷ですむし、早めに飽きてくれる。
しかし、やっぱりどうしてこうなってしまったのか理由は知りたい。彼らの罵声や怒りは今まで僕が受けてきたものとは別物のようである。
「あの、すみません……」
「きゃーーーーッ! 殺される!! 誰か助けてええええええええ!!!」
だから比較的近くにいた女の人に尋ねようとした。でも彼女は僕が話しかけた途端、いきなり絶叫して外聞も気にせず泣き叫びながらどこかへ走り去っていった。
周囲の雰囲気が変わった。
「おい、そこのボウズ」
「え、俺っすか?」
「ああ。背負ってるバット貸せ」
一人のがたいのいい男性が野球部らしい学生から金属バットを借り受けていた。そのほかにも男性を中心として手にどこから持ってきたのか角材や鉄パイプで武装した者たちが前に出てきた。
「えっと……あの、どうしたんですか……?」
これにはさすがの僕でも恐怖を禁じ得ない。これまでの経験にこんな出来事なんて一回もなかった。
「死ねッ! この化け物があああああああッ!!」
金属バットが勢いよく振り下ろされる。
「……ッ」
思わず頭の上で腕をクロスさせ、頭を庇ってしまった。金属同士がぶつかり合う鈍い音が周囲に響き渡り、そして僕ではなくバットを振り回していたおじさんが地面に蹲った。
「う、腕がああああああああああああああ」
おじさんの傍らには変形した金属バットが転がっていて、くっきりと僕の義手の形にへこんでいる。どうやらおじさんのバットは、金属製っぽい見た目の義手にクリーンヒットしたようだ。でも義手であって本当の腕ではないため僕には痛みはなかったようだ。そして魔法少女の身体能力でおじさんが力いっぱいに振り下ろしたバットを受け止めてしまった結果のようだ。
「あ、あの大丈夫……」
日本のことわざに二度あることは三度あるというものがある。おそらく今のような状況を指すのだろう。
「シュバルツ。まさかこんなことをするだなんて……」
蹲る男性の前に刀を構えたリスタルが立ちふさがっていた。リスタルの瞳も野次馬の人たちと同じような嫌悪が滲んでいる。
「わたしはあなたのことを心から軽蔑する」
そう言うとリスタルは問答無用とばかりに白刃を煌かせた。
「ちょっと待ってリスタル! どうしてこんなことになっているのか僕だって分かんないのに……」
一切何も聞いてくれない。
「なんで……どうしてリスタルまで……」
さすがに魔法少女からの攻撃は避けなければ死んでしまうため、死ぬ気で回避し続ける。ただリスタルの斬撃は魔獣相手にしているときのような鋭さで、神速で振るわれるために、半ば直感で回避するしかない。見てから回避という次元ではなく、もはや剣先が見えないのだ。
「いいぞ、やれッ! やっちまえ!!」
周囲の人たちは一斉にリスタルの応援を始めてしまった。ほんとどうしてこんなことになってしまったんだろう。
夢莉ちゃんをイジメるの楽しい♪
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