「ごめんなさい」を言いたくて②
ただいま
それが目に入った途端僕は反射的に窓から飛び出していた。僕の病室は高層階で、だいたいビル10階分くらいの高さがある。普通ならこんなところから飛び降りるなんて自殺行為だし、一般人なら飛び降りようなんてまず考えない。
「《着装》!!」
でも僕は魔法少女なんだ。こんな高さから飛び降りたとしても何も問題ない。たとえ怪我をしたとしても僕の魔法さえあれば平気へっちゃら、すぐに治る。
どんどんと地面が近づいていく中、黒い軍服風の霊装が展開される。そして右手と両足を地面について着地する。いわゆるスーパーヒーロー着地だ。
そして足に魔力を込めてミサイルのように魔獣へと突貫した。
少年に襲い掛かろうとしていた魔獣は近くから見ても本当に小さく、全長180cm、高さ50cmくらいのアリである。しかし小さくとも抵抗することのできない一般人からしてみれば脅威であることは変わりない。
勢いを殺さず地面を踏みしめ、ダッシュで稼いだ運動エネルギーを右腕に集中させる。
「ぶっ飛べッ」
渾身の一撃は余さずアリ型の魔獣の側面に叩きこまれ、魔獣の甲殻にヒビを入れると同時に立体駐車場の壁に激突した。
「ほら、今のうちに……」
魔獣に襲われそうになっていた少年に逃げるよう促そうとしたが、なぜか怯えるような視線を向けられており、そして泣き叫びながら母親らしき人物の元へ走り逃げていった。
よっぽど魔獣のことが怖かったのかな? 僕のことを見て怯えていたようにも見えたけど……。
余計な思念に囚われそうになったが、そんなことよりも気になることがあった。
「僕右腕で魔獣のこと殴った……よね?」
そう、右腕で魔獣に攻撃したのだ。でも右腕は忌々しき牛頭の魔獣との戦いで喪失してしまったはずなのだ。それはここ最近の入院生活で嫌というほど思い知らされた。とりあえず右腕ではないだろうから右腕(仮)とでもいうべきか。
不思議に思いつつも右腕(仮)を顔の前にまで上げてみる。あ、ちゃんと僕の意思で動く。
「なにこれかっこいい!」
右腕(仮)は何と義手であった。それも黒鉄色の鎧のようなデザインだ。しかし中世騎士のように親指以外の指がまとめられているわけではなく、ちゃんと5本の指が自由に動く。
「って、こんなことしてる場合じゃないんだった」
危うく最近どこか遠い場所に旅立っていた男心との再会に喜びそうになったけど、それ以上に今はやらなくてはいけないことがある。
魔獣は未だ健在だ。
壁に叩きつけられていた魔獣は腹を曝して動かないでいるが、依然として消滅していない。いや、死んだふりとかしているわけではなく、どうやら起き上がれないでいるようだ。足をワタワタ動かして必死にあがいている。
「なんかこれに止めさすの罪悪感があるな」
とはいえ魔獣は魔獣だ。ここできっちり仕留めておかないと、犠牲になる人が出ちゃうわけだし。
「――――ッ」
息を深く吐き、意識を集中させる。
撃ち抜くは魔獣が無防備にさらしている、甲殻に覆われていない腹部。いつものようにパンチで仕留めようかとも思ったが、身長差のせいでそれは厳しい。ならば――
「蹴り飛ばす!」
魔力を足に集中させる。装甲に覆われているブーツに赤い筋が走る。
左足をばねにして空中へと飛び上がり、回転をかける。そして落下の勢いに加え、右足の魔力を開放し加速する。
「砕け散れッ」
狙い余さず右足は魔獣の腹部に命中、そのまま深々と突き刺さり紫色の液体をぶちまけながら消滅した。
「なんというか……今回の魔獣、弱かったな」
歯ごたえがないというか、逆に今まで遭遇してきた魔獣が強すぎたのかもしれない。そんなことを思いつつも米粒ほどの魔核を回収する。
「――ッ!?」
そして顔を上げたとき、目のすぐ上にどこからか飛んできた何かが命中した。他にも魔獣がいたのかと警戒を強めたが、そんな必要はなかった。
「この犯罪者ッ」
飛んできたのは石で、それを投げたのは周りに集まっていた一般市民だったからだ。
夢莉ちゃんのIF(BAD)エンドって需要ありますかね? 今書くとしたらハイエースされたところなんですけど。まあノクターン行き確定の内容ですね、はい。
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