「ごめんなさい」を言いたくて①
ごめんなさい、少し遅くなりました・・・
今月いっぱいはリアルで忙しいので、更新がかなり遅くなります
僕が入院してから1週間が経とうとしていた。リハビリも順調でもう車いすなしで歩けるようになるまで回復した。でも、やっぱりまだ片腕がないということに慣れない。
今は左腕で文字を書く練習をしているのだけど、なかなかに上達しない。僕が書いた文字は、文字というよりミミズがのたうったあと、と言った方がしっくりくる。これでも一応最初期と比べれば大分ましにはなった方なんだけどね。
あ、あと僕が魔法少女で元男というのは、病院の中でもごく一部しか知らないらしくて、普通の看護師とかからは女の子として扱われている。とはいえ滅多にあったりはしないんだけどね。
でも極まれに遭遇したときは、なぜか僕の顔を見ながらひそひそ話をしているけど、僕の格好がどこかおかしいのかな。毎日のように来る令華さんや柏木さんに聞いても「かわいいよ」としか言ってこないから、よくわからない。
ふと時計を見ると、もうすぐで3時になろうとしていた。ってことはもうすぐリハビリの時間だ。
「今日のリハビリってなんだったかな?」
昨日が左手で文字を書くことだったから、今日は歩行練習かな。片腕をなくした影響で入院当初は大分立ち上がることにも苦労したんだよね。なんかこう、体の重心が左側に偏ってて、前の状態の感覚でやろうとするとすぐこけてたから。
「なんだか……外が騒がしい?」
この病室は確かほぼ最上階にあるとかで、地上からはかなり遠く離れている。それなのに窓の外から叫び声や何かが壊れるような音が聞こえてくる。つまるところ相当大きい音が鳴っているということだ。
そのことを確かめたい欲求はあるが、なぜか令華さんから絶対にカーテンを開けてはいけない、と厳命されている。なんでも魔法少女のプライバシー保護のためとかなんとか。
でも次の瞬間にはそんなことを悠長に守っていることができなくなった。
けたたましいほどの大音量で警報が鳴り響いたのだ。しかもそれは火災や地震なんかの警報ではなく、魔獣警報である。
「魔獣!?」
慌てて窓から外を覗き込む。もしあの音が魔獣由来のものであるなら、かなり近いところに出現していることになる。それならば一番近い場所にいる僕が行かないと……。
やはりというべきか、病院のすぐ近く、駐車場にいた。詳細な姿なんかは遠くてよく見えないが、それでも魔獣と車を見間違えることは絶対にない。
「行かなきゃ……」
それが僕のできることだから。
しかし意思に反して体が動かない。小刻みに震えている。
「どう……して……」
理由なんか分かり切ってる。魔獣が怖いのだ。頭に染みついている、あの牛頭の姿が魔獣を見るたびにちらついてしまう。痛いことには慣れている。でも腕を噛み千切られた。僕の攻撃は一切効かず、弄ぶように叩きのめされた。
――心が折れてしまった。
でも認めたくない。それを認めてしまえば、僕は無価値な人間になってしまう。僕にできることは魔法少女として、見ず知らずの誰かを助けることしかないというのに。
「動け、動いて……動いてよお」
しかし、いくら意思の力で恐怖心を抑え込もうとしても、するりと少しの隙間から漏れ出してしまう。
窓の桟に手をついてうなだれる。
「やっぱり僕じゃダメなのかな」
ヴァルキュリアお姉ちゃんとの約束を守りたかった。誰かの役に立てる、立派な人間になりたかった。汚い大人とは違い、弱い人たちに石を投げるのではなく、手を差し伸べたかった。でもやっぱり僕じゃダメみたいだ。
外からは車が破壊される音に混じって色々な人たちの絶叫が木霊している。困っている人たちがあの場にいるのに、僕は動けない。
「誰か……助けてよ……」
こんなとき都合よく現れて、颯爽と人々を救うのはヒーローの役目だ。あのときのヴァルキュリアお姉ちゃんみたいに。
それにどうせ少し待ったら管理局の魔法少女が駆け付けるはず……。そうすればあの人たちは勝手に救われる。僕の出る幕じゃない。
廊下から看護師さんが慌てたように入ってくる。
「シェルターに避難するので急いでください!」
だから僕みたいな一般人は大人しくヒーローが来るのを待とう。
看護師さんの言葉に従い廊下に出ようとしたとき、チラっと外の様子が目に入った。駐車場の路面に座り込む男の子と、この子に襲い掛かろうと姿勢を低くしている魔獣が。
はやいことで黒腕の魔法少女の連載を始めて1年が経っていました。途中で全く投稿をしなくなった時期もありましたが、ここまで連載を続けられたのは読者の皆様の応援のおかげです。拙作を読んでいただき、本当に、本当にありがとうございます!
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