【閑話】大人と猫
「はあ、疲れた」
思わずため息をついてしまった。まだそこまで老いてはいないとは自分では思っているけど、さすがに今回の一件は疲れた。
夢莉ちゃんを保護してから、連日のように無駄な会議が開かれている。無駄といったのはそのままの意味で、何も決まらないし何の生産的な意見も出ない、ただ会議をしていることに満足を得るための会議であるからだ。
それに局長はお金のことしか頭になくて、こちらから意見を出しても、そもそも聞いていないか、聞いていても予算がいくらかと聞いて、少しでもかかるようなら頭ごなしに批判してくる。
それに何よりたちが悪いのが、局長の周りにいる職員が出世のために局長にゴマすりしかしないのだ。そうなってくると、日ごろから局内にいる事務担当や経営陣とは、全員とは言わないが、意見が対立することになる。
「なんでウチの支部は無能ばかりなのよ……」
いや、以前はここまでひどくなかった。あの局長が来る前は魔法少女のための活動なら、正式な審査はあるものの、お金に糸目は付けず使ってくれていた。
全盛期には所属の魔法少女は10以上いた。だけど今は片手で数えるくらいしかいない。みんな今の局長が財政整理という名目で追い出していった。そのせいでただでさえ広い北部九州地域を少ない人数で守らなくてはいけなくなった。
リブリオンちゃんは例外だけど、リスタルちゃんなんかはここ最近まで学校にも行けていなかったし。
だから欲を言えばシュバルツちゃんには所属してほしい。でも今の状態じゃどんなに言葉を尽くしても、あの局長が認可するとは思えない。
「最善は今の保護状態の維持、かなぁ」
明日からのことを考えると頭が痛い。
シュバルツちゃんは確実に管理局が保護するべき魔法少女だけど、あの局長は絶対に野に放とうとする。なんせ管理局が保護していることは周知の事実だから、連日批判の電話や手紙、それからマスコミの取材の対応なんかに追われている。
「……はぁ」
もう出るものなんてため息しかない。
「何やら難しそうな顔をしてるね、レイカ」
私一人しかいないと思っていた自宅で、突然アニメ声で話しかけられる。だけど別に驚くようなことではない。こんなことをするのは1人……1匹? しかいない。
「ファルスさん、帰ってたんだ」
声がしたほうに目を向ければリボンを付けた黒猫が二本足で立っている。初見の人は大抵驚くけど、私はもう慣れた。かれこれ10年以上の付き合いになるからね。
「人にもいろいろあるんだよ」
彼は私を含めた第一世代の魔法少女に魔法を与えた存在で、自称・聖霊と名乗っている。
「知ってるよ。でも今日はいつも以上に困ってそうだ」
聖霊といっても私からしたら妙に人間臭い、しかし猫のように気分やな変な生き物としか思っていない。
今だって冷蔵庫からビールを取り出して、ぐびぐびと飲み始めた……あの肉球でどうやってプルタブを開けたんだろう。こればかりはいっしょに暮した10年間の中で一番の謎だ。
「多分シュバルツのことだろう?」
「ええ、そうよ。よくわかったね」
そういえば今更だけど、猫にビールって大丈夫なのかな。もう1缶目を一気飲みし終わって、2缶目を呑み始めちゃったけど。
「俺も気になって独自に調べてみたけど、あの子のなでなでは気持ちよか……じゃなくてあの子には気を付けた方がいいよ」
「え? どういうこと?」
ファルスさんは少し考えこむように、顎に手を添える。……猫のくせに妙に様になっているのはなぜだろうか。
「あの子は魔法少女だけど、何か変なのが混ざっているような気がする」
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