消えない傷跡⑨
これ以上書くと区切りが悪くなってしまうので今回は短めです
「…………え?」
――アパートには戻れない?
どういうこと、だって僕が帰る場所はもうあそこしかないのに。
「どういうこと、ですか?」
「いろいろとね、事情があるの。まだ詳しくは教えてあげられないけど……でもいずれ嫌でも知るときが来るから。それまでは待ってほしい」
そんなことを言われても納得などできるはずがない。それに説明しているように見せかけてはいるけど、何一つ説明はされていない。
もしかしたら令華さんは、おばあちゃんみたいに信用しても大丈夫だと思っていたのに。やはり令華さんもキタナイオトナの一人ということか。
「あと、夢莉ちゃんは管理局で一時保護って扱いになっているから、衣食住の心配はしなくても大丈夫だからね。欲しいものとかあったら、経費で買ってあげられるから」
「…………はい」
いきなりの態度の変化に令華さんは少しの戸惑いを見せた。
「あー、えーっとね。最後に、イノシシ型・サソリ型・牛頭の計3体の魔獣討伐の協力感謝します」
そうかしこまった口調で言うと、カバンの中から分厚い茶封筒を取り出し僕に手渡した。その分厚さは、だいたい文庫本3冊分くらいだろうか。
何だろうと思い中身を取り出してみると、諭吉さんの肖像が描かれたお札みたいな紙が大量に……。え、これ本物のお札?
茶封筒の中身には1万円札がぎっちりと詰められていた。
「あの、こんなもらえないです」
「いいのいいの、貰って。魔獣討伐の外部協力謝礼金だから。これでも少なくなったんだよ。謝礼の中から何割か街の修繕費を引くとかいう意味の分かんないことを、局長命令で経理課がやったから」
減った、とはいっても100万円以上は確実に入っている。こんな大量のお金をもらっても、正直困る。
管理局は政府機関で、税金で運営されている。ということは僕の手の中にあるこの謝礼金も元は国民の血税であろう。
脳裏によみがえるのは「税金ドロボウ」という言葉。
大侵攻で大けがを負ったから、政府から多額のお金が支給された。両親を失った僕には、特に多額の支給がされた。
でも、そのお金は施設の人が管理するといって、いなくなった。そしてどこから知ったのかは分からないが、多くの人が押し寄せて、金を返せこのドロボウ、と口汚く罵った。
のちに知ったのだが、あのお金も税金から出されていたもので、それでようやく僕は彼らの言っていたことを理解することができた。
彼らが汗水たらして稼いだお金を僕なんかがケガをしたからと、政府からもらうのは確かに税金ドロボウだ。
ただ令華さんに謝礼金を返そうとしても、決まりだからと受け取ってはくれない。
しかたがないからここは貰ったふりをして、退院するときにこの部屋に置いていこう。そうしたらきっとお金は帰るべき場所に帰ってくれるはず。
――僕なんかがもらっていいわけない。
この小説が面白いと感じましたら、ブクマ登録・感想等お願いします