消えない傷跡⑥
「はい、そこまで。夢莉ちゃんポカンとしちゃってるよ」
このままでは自論を述べ続けると危惧したのか、さらに続けようとした柏木さんも話に割って入った。よかった、正直鬼気迫る勢いで話していたからちょっと怖かった。
「ん? そうなのか。それは済まなかったな。まあ簡単にいうと、君はかなり珍しい魔法少女ってことさ」
「……はあ」
珍しいといわれても他の魔法少女はリスタルしか知らないから実感はないし、比べる対象がいなさすぎる。でも専門家?が珍しいって言ってるからそうなのだろう。
…………それってもしかして僕、実験とか研究とかに使われることになるのでは。
そのことに思い至り、今さらながら危機感を覚える。
「できることなら手取り足取り腰取り、しっぽりと二人きりで研究室にこもって実験(意味深)したい」
ほら、やっぱり実験って!! このままじゃ本当に監禁されてすみずみまで実験で使い潰される。逃げなきゃ。でもうまく動けないし、どうしよう。どうやって逃げよう。
「無駄に怖がらせないの! 夢莉ちゃんは先に部屋に戻ってもらえる? あ、穂乃果ちゃん連れて行ってあげて」
またしても令華さんが助けてくれた。これであの危ない人から遠ざかることができる。
こうして僕と穂乃果ちゃんは検査室を出て、元居た部屋に戻ることになった。ただその道中も穂乃果ちゃんは無言で、ほんの少しだけ怖かった。
部屋に戻った後もこの調子で、しかも二人きりで会話も何もないため大変気まずい。しかも穂乃果ちゃんは何をするわけでもなく、ベッド近くに椅子を置いてそこに座っている。
「ほ、穂乃果ちゃんも魔法少女だったんだね」
「……………」
本当に会話が成立しない。どうしよう、さっきは逃げたいとか思っていたけど、今度はあの柏木さんのマシンガントークが恋しい。
「ご、ごめん」
「それは何に対しての謝罪?」
気まずくなって反射的に謝ってしまった。だがそれに穂乃果ちゃんが口を開いた。
「え?」
「何に対して謝罪を口にしているの?!」
「え、いや、あの……気まずかったからつい」
「あなたは、自分の罪も理解しないで、気安く謝罪なんてしないでッ!!!!!!!!!」
そう怒声を上げると穂乃果ちゃんは大きな音を立てて扉を開け、飛び出して行ってしまった。それと入れ違いざまに令華さんが戻ってきた。
あ、柏木さんもいっしょだ。
「さっき穂乃果ちゃんとすれ違ったけど、何かあったの?」
そう聞かれても僕にもなぜあそこまで穂乃果ちゃんが怒っているのか、何に対して怒っているのかさえ分からない。
「さあ、僕にもさっぱり……」
「そう、まあいいわ。とりあえず色々と確認しなきゃいけないことがあるから……まずはこっちが把握しているプロフィールが間違っていないかの確認から」
そう言うと令華さんから紙が複数枚束ねられたレジュメが渡された。その一枚目にはさっき言われた通り僕のプロフィールが載っている。
「ざっくりとしたところでは、誕生日とか年齢とか確認してもらえる」
言われたところを見ると、〈生年月日、平成17年9月18日(満15歳)〉と書かれている。ええっと、平成17年は西暦にすると……2005年だから、うんあってる。
「はい、あってます」
「そうよかった。じゃあ次の項目は、少しつらいかと思うけど確認してもらえる?」
つらいかもと言われ、首をかしげながら確認すると、それは僕の略歴が書かれていた。しかも公的機関が作ったとは思えないほど詳細に、普通なら記載しないはずの情報まで記載されている。そう、『大侵攻』後に僕が受けた仕打ちについて。
〈(前略)2010年、魔獣による大規模災害、通称『大侵攻』に巻き込まれる。その際両親はともに死亡。衛藤夢莉は魔法少女ヴァルキュリアによって救出されるが、その途中で大けがを負ってしまう。(中略)その後、児童養護施設に預けられた。だがその2か月後、とある噂が流れ始める(噂については補足資料を確認)。その噂が原因で学校や施設でのいじめや、無関係な一般人による迫害を受けることになる(後略)〉
〈【補足資料】噂について:ネット上での身勝手な憶測やデマが原因で広まった。具体的な内容としては、生存者は自分が生き残るために他人を魔獣を遠ざけるための囮に使った。そして、そうやって生き残った生存者は国から多額の保証金を受け取っている。簡単にまとめると、他人の命を奪い、そうやって生き残ったくせに国民の税金から金をもらった、という内容のものである〉
嫌な思い出が記憶の底から呼び起こされる。大人たちが喜々として石を投げ、それを周りの人たちが嗤い、野次を飛ばす。そしてその大人たちは口々に「金返せ」「人殺し」の二種類の言葉を直接間接問わず投げつけられた。
でも……でも全部僕が悪いのだ。僕が『大侵攻』を生き残ってしまったから。
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