全てが変わった日③
展開をまだ決めかねているので、一旦リスタル視点でのお話でお茶を濁させてもらいます。時系列が②終了時点から少し遡っています。
今日はほんとについてない。まさか朝から魔獣が現れるなんて。
わたしが現地に着いた時は、魔獣はビルの壁面に張り付いているだけだった。しかしその周りに野次馬が押しかけていた。しかもテレビの取材まで来ている。
わたしはため息をこぼしつつ、人目のない物陰に隠れ、刀の鍔のような飾りのついたペンダントを取り出す。
「リスタル《抜刀》!」
体の奥底から魔力がわいてくる。そしてポニーテールの髪は黒から銀に染まり、服装も巫女装束のようなものに変わっている。しかしあくまで「のようなもの」だ。緋袴はミニスカートのようになっており、さらにセーラー服のような襟やリボンまでついている。袖は白衣から分裂し、肩が見えるようになっている。また袂には花の模様が入っている。簡単に言うと巫女装束とセーラー服を足して2で割ったような衣装だ。そして手にしていたペンダントは、波のような美しい刃文の入った刀となった。
「一気に終わらせる!!」
変身が終わったことを確認し、物陰から飛び出る。
「おお、魔法少女だ!」
「リスタルちゃん応援してるよ!」
「リスタルたん、ハアハア」
わたしが見えたことで野次馬から歓声が上がる。……なんか危ないものが混じっているような気もするが、きっと気のせいだと思いたい。
彼らは魔法少女を見るために、危険な魔獣のそばに集まっているのだ。一応警察が避難誘導を行っているが、それに従っているものはあまりいない。皆無といってもいいかもしれない。
わたし達の仕事は見世物じゃないんだけどなぁ。
とりあえずちゃっちゃと終わらせますか。
今回の魔獣は見た限り、そこまで活発に動くタイプじゃない。ならばこちらから仕掛ける。
わたしは野次馬の声援を背に、魔獣に向けて跳躍した。だが魔獣まで残り5メートルのところまで近づいたところで、魔獣の雰囲気が変化した。
爬虫類特有のぎょろりとした目がこちらを向き、そして口が少し開く。
「……ッ!」
とっさに刀で防御したおかげで直撃こそ免れたが、衝撃を受け流しきれず地面へと叩きつけられた。
さっきの攻撃は速すぎて良くは見えなかったけど、舌だった。舌をカメレオンのように高速で射出している。そしてすぐ追撃してこないとこを見ると、射程もそこまで長くないのだろう。
おそらくあいつは一定範囲内に入った獲物を攻撃するタイプだ。それを裏付けるようにあいつはわたしを追ってビルから降りてきていない。
「このタイプ相手なら楽勝かな」
近づいたら攻撃されると分かっているなら、そもそも近づかなければいい。
刀をいったん鞘に納め、腰を落とす。左手は鯉口に添え右手で柄をしっかりと握る。繰り出すは剣技において最速の一撃、居合。魔獣までの距離は目算で10メートルぐらい。普通ならばあたることは絶対にない距離。
だけどわたしなら当てられる!
刀を振りぬく。飛ばすは不可視の刃。いかなるものも避けること叶わず。故に必殺の一撃。その名は《飛斬》。
刀を振りぬくと同時に魔獣は真っ二つに切断された。魔獣は自分の身に何が起こったのか理解することはできなかっただろう。
わたしは魔獣の消滅した跡から結晶を回収し、その場から離れた。いつも通りならすぐ近くに管理局のお迎えが来てるはず。そしてそのまま学校に直行することになる。……できればお風呂で汗流したいんだけどなぁ。今度お願いしてみよっかな。
ただ今日に限って遅れているみたい。どこにも管理局の車が見えない。とりあえずこっちから連絡入れてみるか。
「もしもしリスタルです。魔獣退治おわりま」
『リスタルちゃん、大変。魔獣がもう一体いたの!! 観測班の見落としがあったみたいで。もう一般人が襲われて……」
「ッ!? どこですか、すぐ向かいます」
『えっとちょっと待って……南区の外延地区』
「ありがとうございます。リスタル全力で向かいます」
急がなくては。一般の人が犠牲になる前に。そのための力なんだ。もう誰も死なせない。わたしがすべて守って見せる!!
魔法少女としての身体能力を全力で発揮し、途中障害物があれば飛び越え、最速で最短で一直線に向かう。
突っ走ること5分、ようやく見えた。敵は鼻が不自然につぶれたイノシシの魔獣。それで一般の人は!
イノシシの向かっている先、道の真ん中にいた。恐らく10代前半から中頃ぐらいの女の子。
よかった、まだ生きてる。でも安心はできない。体のいたるところから血が流れ出ている。それに彼女は諦めたかのように目を閉じ、脱力していた。その様はまるで荒ぶる神に捧げられる贄のようだ。
もう絶対に、わたしの手の届く範囲では誰も死なせない。絶対に助けて見せる!!
「飛べ《飛斬》!」
不可視の斬撃は狙いたがわずイノシシを切り裂いた。ただ魔獣を倒したというのになかなか目を開けない彼女にだんだんと不安が募る。
「あなた大丈夫ですか?」
「っひゃあ!!!」
「あ、ごめんなさい。驚かせるつもりじゃなくて……」
まさか驚かれるとは思っていなく、驚かれたことにわたしも驚いてしまった。
「とりあえず僕は大丈夫です。えーっと、あなたは?」
へぇー、この子自分のこと僕っていうんだ。めずらしー。
ん? そういえばこの子から魔力を感じる。よく見たら服装も大分あれな感じだし、もしかして管理局に所属していない、野良の魔法少女なのかな?
「わたしは魔法管理局所属の魔法少女リスタルです。そういうあなたも魔法少女ですよね?」
「えッ!?」
うーん、この感じ魔法少女ではあるみたいだけど、あんまし自覚ないみたい。ってことは覚醒したてってことかな。えーと、確かマニュアルではこういう子は管理局に連れてこいって監督官が言ってたっけ。
「魔法管理局まで同行してもらいます!」
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