消えない傷跡⑤
「管理局ってお金持ってるんですね」
「まあ、政府機関だからね。といっても最近予算絞られてだいぶきついんだけどね」
そんな話をしながら移動していく。話をしているというが、ほとんど令華さんの管理局での愚痴が9割を占めている。やれ局長のパワハラが激しいだの、魔法少女のことを何も考えていないだの。よほどストレスが溜まっているようだ。これに関しては穂乃果ちゃんも苦笑いしている。
半分ほど聞き流しつつ適当に相槌を打っていると、ようやく検査室と書かれた部屋に到着した。中に入ると白衣を着た知的な見た目の女性とリボンを付けた黒猫がいた。
「あの、なんで猫が?」
「あー、気にしないで。管理局のマスコットみたいなものだから。ちゃんと清潔にしてると思うし」
「いやでもここ病院じゃ」
「気にしないで」
令華さんになぜ猫がいるのか聞いたのだが、なぜか目の笑っていない笑顔でそう諭されてしまった。それとなぜかあの猫はマスコットと言われたときに不服そうな顔になったような気がしたけど、気のせいだよね。猫だからわかるわけないし。
「やあやあ、初めまして魔法少女シュバルツ。私は管理局で魔法の研究をしている柏木伊澄という、怪しくも後ろめたいことも何もないただの人間だ」
かなり独特な自己紹介だな。それに怪しくないって……逆に怪しさが爆増したんだけど。それにしてもこの人も管理局の人なのか。人材不足なのかな。
「柏木ちゃんそれじゃあ怪しすぎるわよ。ほら夢莉ちゃんも警戒しちゃったじゃない」
あ、よかった。怪しいって思ったの僕だけじゃなかったんだ。それにしても令華さんのこの反応的にいつもこんな感じなのかな。
「でも私だいたい、いつかやらかしそうって言われるから、先に怪しくないことをアピールしないとと思って」
「はあ、相変わらずその思考回路は分からないわ」
そういえばさっき柏木さん、魔法の研究をしてるって言ってたけど、ならだれが僕の検査をするのだろうか。白衣こそ着ているけどあの人は医者じゃないし、だけどそれ以外の人は令華さんと穂乃果ちゃんしかいない。
「あの、検査って誰がするんですか?」
「ん、私だが」
「え、さっき魔法の研究をしてるって……」
「確かに研究職ではあるが、趣味のために医師免許も取ったからな。これでも管理局の医療班のリーダーをしている」
あれ、趣味で医師免許って取れる物だっけ。確かとっても難しい試験を受けないと取れない資格だったような気がするけど。
「それじゃあ検査を始めようか。なーに心配することはない。じっくりねっとりすみずみまで検査してあげるから」
手をわきわきさせながら柏木さんが迫ってくる。あれ、検査をするだけのはずなのに身の危険を感じる。
「柏木主任、それ以上やったら嫌われますよ」
柏木さんは穂乃果ちゃんからの一言で止まった。その表情はこの世の終わりのようになっていたけど、深く考えちゃいけない気がする。
こうして正直不安しかないけど、検査が始まることになった。
―――――――……………
―――――………
――……
「はいお疲れ様。検査は全部終わったよ」
魔法少女の検査だったから、何か特別なことでもするのかなと思っていたけどいたって普通の検査であった。身長や体重を計ったり、大きな輪っかのついた機械でCT検査?ってのをやったり。
「検査をしての結果だが、男の子が女の子に変わったと聞いていたから何か異常があるかと思ったが何もなかった。平均よりも体重も身長も低いことは気になるが、いたって普通の女の子だ」
「普通の女の子?」
「見た目だけの変化ではなくて、骨格や臓器は完全に女性のものになっている。その体の性別は女性だということだ」
体が完全に女性、か。それはつまり男に戻れる可能性がなくなったということになるのだろう。男の時はつらい思い出しかなかったから未練がないから別にいいけど。それでもこうして言われると、だいぶくるものがある。
「それから、これが何かわかる?」
僕の胸部のレントゲン写真を見せられる。柏木さんはその写真の心臓がある位置から少しずれた場所の影を指さしてる。そこには何かの欠片のようなものが映っている。
「それは確か、10年前に負ったケガで、取れなかったって言われた破片だった気がします」
「検査の結果、これは魔核だということが分かった。シュバルツ……えーっと夢莉ちゃんだったかな。夢莉ちゃんは魔法少女になったときに何か結晶のようなものを入手したかい?」
その時のことを思い返してみるが、そんなものを手に入れた記憶はない。そのことを素直に伝えると、柏木さんは目を輝かせながら語り始めた。
「やっぱり! 魔法少女は通常外部に魔核を生成するわけだが、夢莉ちゃんは体内にそれがある。それも魔法少女になる前から持っていたわけだ。そしてこの体内にある魔核が何かしらの理由で……おそらく生命の危機かな、に反応し、活性化した結果魔法少女になれたというのが私の仮説だ」
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