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消えない傷跡④

 胸元に迫ってきた手を振り払い、男たちから逃れようと必死に後ずさる。だがどれだけ後ろに下がりろうと、どこまでも男たちの顔と手は追ってくる。だからさらに後ろに下がろうとするが、唐突に左手が虚空をつかみ、一瞬の浮遊感を感じたのちベッドの上から転がり落ちてしまった。


「忽那局長! 何やってるんですか!!!」

「何をする。その手を離したまえ!!」


 落ちた直後に何やらドタバタと慌ただしい、争うような物音と声が聞こえてくる。だけど何が起こっているのかを確認する余裕なんてない。ベッドから落ちても未だに男たちの顔が僕の周りを漂っている。


 だけどもう後ろに逃げることはできない。背中には少し凹凸のある、木目調の壁が立ちはだかっているのだ。もうどうしようもなくなり、その場で目をつむり、頭を抱えて蹲る。


「やだ、どうして、もう……なんで」


 僕の体を誰かが触る感触が全身を駆け巡る。鳥肌が立っていき、呼吸が早く短くなっていく。


「――ッ!?」


 一瞬だけ体が強張り、そしてその誰かの腕から逃れるため手足をばたつかせる。


「落ち着いて。もう大丈夫だから……落ち着いて」


 だが暴れれば暴れるほど、なぜか力強く拘束してくる。それがまた恐怖をあおり、必死にその人の胸元を叩き続ける。


「ほらよーしよし。怖くないよ。ゆっくりでいいから深呼吸して」


 僕を拘束している誰かはやさし気な声をかけてくれるとともに、背中をゆっくりと撫でてくれる。さらに抱きしめられるかのように拘束されているため、自然とその人の胸に顔をうずめるような形となり、ドクンッドクンッという規則正しい心音が聞こえてくる。


 そのおかげかは分からないが、いつの間にか男たちの顔はどこにもいなくなり、高ぶっていた感情もだんだんと落ち着いていった。


 そこまで来てようやく自分が今どんな状況かを把握することができた。令華さんに抱きかかえられていた。


「あの、もう大丈夫ですから。話してください」

「本当に大丈夫? 落ち着いた?」

「はい、もう大丈夫です」


 なぜか令華さんは僕を抱えたまま立ち上がり、お姫様抱っこのような形で持ち上げられベッドの上に戻された。


「あの……局長?さんは?」

「ああ、大丈夫。なんか急な案件が来たとかで帰ったから」


 このように令華さんと話しているタイミングでどこかに行っていた穂乃果ちゃんが戻ってきた。


「令華さん、あったかいタオル貰ってきました。あとついでに飲み物も。これで良かったですか?」

「うん、ありがとう。ナイスタイミング、ちょうど落ち着いてくれたところだから」


 令華さんは穂乃果ちゃんからタオルを受け取ると、僕にそのタオルを渡してきた。


「涙とかで顔ぐちゃぐちゃになってるからタオルで拭いた方がいいよ」


 なぜタオルを渡されたのか分からず首をひねっていると、穂乃果ちゃんがぶっきらぼうに教えてくれた。それで納得がいき、顔を拭こうとするが、いかんせん片腕である。なかなかきれいに拭くことができない。それを見かねたのか令華さんが僕からタオルを取り、優しく丁寧に拭いてくれた。


「うん、きれいになった」


 そう言うと僕に穂乃果ちゃんが持ってきた缶ジュースを渡してくる。もちろんプルタブを開けた状態で。そのことに一言お礼を言い口をつける。喉が枯れるぐらいに叫んだり泣いたりしていた体に温かいココアがしみわたっていく。


「それじゃちょっと予定が狂っちゃったけど、身体検査しに行こうか」


 ほっと一息ついたところでそう令華さんがそう言い、車いすの準備を始めた。でも身体検査で移動するのは分かるけど、どうして車いすの準備なんかしてるんだろう。


「あの、僕自分で歩けます」

「あー、うんそう思う気持ちもわからなくはないけど、無理はしない方がいいよ」


 どうやら令華さんの中では僕が車いすに乗ることは確定しているらしい。でもそもそも僕は足に怪我をしていないし、だから歩くことは何も問題ない。そのことを証明するために立ち上がったのだが――。


「――危ないッ」


 体の重心がなぜか左側に大きく偏っており、そのせいで立ち上がってからのバランスをとることができず倒れそうになった。だが間一髪のところで令華さんの助けが入り、床とキスをする事態は免れることができた。


「ほら言わんこっちゃない。右腕を失ったせいで体の重心バランスが狂ってるから、リハビリしないと満足に立ち上がることはできないよ。それに魔力の使い過ぎの疲労もあるだろうし」


 結局令華さんにやさしく窘められ、そのまま車いすに乗せられた。


 それで移動を始めたのだが、もともと異様に静かだなとは思っていたのだが、廊下に出ても静かなのは変わらず、さらに誰も歩いていない。しかもかなりの上階で、病室の床にも廊下にも毛の長い絨毯が敷かれている。


「あの、令華さんここって病院ですよね?」

「病院で間違いないよ。まあVIP専用のフロアだけど」


 VIP専用!? どうしてそんな場所に底辺一般市民の僕が入院させられているんだ。なんて思っていたらちゃんと令華さんが説明をしてくれた。


 この病院は管理局の所有している病院の一つらしい。そのためマスコミが常に嗅ぎまわっている魔法少女の素性を隠すために上層フロアを使うことができるらしい。それから一番気になっていたお金に関しては管理局が出してくれるらしい。

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