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消えない傷跡③

「一応ウチの魔法少女に治せないか頼んではみたのだけど……ごめんなさい」


 令華さんが申し訳なさそうな顔をして僕に頭を下げている。どうしてこの人が謝っているのだろう。こうなったのは僕の責任なのに。


「あの、謝らないでください。僕が考えなしに突っ走った結果ですから」

「そうですよ令華さん。謝る必要なんかないです。シュバルツが勝手に腕を切断しただけなんですから!!」


 部屋に入ってきてからずっとあまり話さなかった穂乃果ちゃんが口を開いた。のだが、その口調は刺々しく、どこか威嚇をしているようだ。なんか穂乃果ちゃんが不機嫌だ。僕何かやらかしちゃったかな。


「え、あの、穂乃果……ちゃん?」

「…………」

「ねえ、僕何か怒らせるようなことしたの?」

「…………」


 何も答えてくれない。穂乃果ちゃんがリスタルだったことだけでも驚きだったのに、なんでこんなにも怒っているのだろうか。


「ああ、気にしないで。ちょっと君に思うところがあるみたいなだけだから」


 一拍おいてから令華さんは続けた。


「それに謝らなくてはいけないことはこれだけじゃないの。私は貴女を見捨てるよう穂乃果ちゃんに命令したの」

「それって当然じゃないんですか?」

「「えっ!?」」


 穂乃香ちゃんと令華さんが息ぴったりに驚きの表情を浮かべる。だけど何を驚いているのだろうか。見捨てるも何も僕は管理局所属じゃなくて野良の魔法少女だ。野良ということはすべて自己責任ということになる。だから管理局が僕を助ける必要なんてどこにもない。


 それに管理局は魔法少女もいるけど、どちらかと言えば大人の組織だ。そんな組織が自分たちの管理下にいない魔法少女を助けたりなんて絶対にするわけがない。


「だって僕は管理局の所属じゃない、ただの野良ですよ? なんで管理局が僕を助ける必要があるんですか?」


 分かり切っていることでも一応聞くという体裁を取っておく。こうして無知な子供を演じておかないと大人は途端に不機嫌になってしまう。ただ一つ気になるのは、令華さんが僕の顔を見て額に手を当てたことだ。どうしたのだろうか。


「……これは重症ね」


 令華さんが何かつぶやいたみたいだけど、小さすぎて何を言ったのか分からなかった。


 病院にしては静かすぎる廊下にドスドスと重たげな足音が響き始める。その足音はこの部屋の前まで来ると立ち止まり――。


「ここに野良の魔法少女がいると聞いたのだが?」


 でっぷりと脂肪を蓄えたお腹に禿げ上がった頭の中年くらいの男が入ってきた。その男が着ているスーツには胸元に六芒星と魔女の管理局のマークが入っている。ということは令華さんと同じ管理局の職員なのだろうが、令華さんはとても嫌そうに顔を歪めている。


「キサマがうわさの野良か」


 男の視線が僕の体を舐めまわすように向けられる。ただ視線を向けられただけのはずだが、なぜか背筋にぞわぞわと悪寒を感じる。


 その男が僕に向かって来ようとしたが、僕との間に令華さんが割って入った。


「局長、魔法少女シュバルツに関しては後ほど報告書を提出すると伝えたはずですが?」

「キサマの報告書なぞ読む価値もない。どうせ主観の入った魔法少女を擁護するための紙切れより、わしが直接見聞きした方がよっぽど有用だ。ほらそこをどけ」


 局長と呼ばれた男は無理やり令華さんを押しのけると、ズンズンと重々しい足取りで僕に向かうのを再開する。その様子を穂乃果ちゃんは、さっき僕に向けていたよりも、殺気も入っているのではないかと思うぐらいに鋭い視線でにらみつけている。


「おい、リスタル。なんだその目はッ!!!!!!!!!!」


 局長は穂乃果ちゃんの視線が気に入らなかったのか突然声を荒らげ、掌を振り上げる。病室にパシンと渇いた音が響き渡る。だが平手打ちを受けたのは穂乃果ちゃんではなく、とっさに割って入った令華さんであった。


「局長落ち着いてください。子どもに手を挙げるのはどうかと」

「リスタルは子供以前に管理局の魔法少女だ」

「ッ!? ほの……リスタルには監督官の私が後でしっかりと指導しますので」

「ふんっ、二度とそんな失礼な態度ができないようしっかりやれよ」


 令華さんの殊勝な態度を見て満足したのか、再び僕の方に視線を向けた。


「さて本題に入ろうか。シュバルツ、キサマは自分が何をしてきたのか理解しているのか?」

「え?」

「キサマが何をしてきたのかと聞いているんだ!!!!!!!」


 僕が何を聞かれているのか分からず困惑していると、それにいらだったのかまたもや声を荒らげ始めた。それだけにとどまらず、貫頭衣のような検査服の胸倉をつか――ッ!?


 目の前から伸ばされている手は一つだけのはずなのに、2本3本……いや数えきれないほどの手が伸びてきているように見える。それだけにとどまらず、禿げ上がった頭ではなく、あの時僕を無理やり車に乗せた男たちの顔が周りを漂い始めた。


「いやあああああああああああああああああ」

因みに局長の名前は忽那承士郎くずなじょうし ろうです


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[一言] いかん下手したら男性恐怖症になってしまう
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